初勤務2です
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突然、ドンドンと大きなノック音が部屋に響いた。
「エドワード殿下、お通し願います。」
あっ、父さまだ。
そういえば、忙しく行ったり来たりしていて気が付かなかったけど、もうお昼の時間になっていたのかも。
約束より、遅くなったから迎えに来たのかな。
殿下が扉わきの兵に合図して、ドアが開くと、勢いよく父さまが入ってきた。
殿下の近くに立つ私を確認し、一直線に近くまで来ると、
「殿下、昼休憩の時間ですので、息子を連れて行きますがよろしいですね。」
と言って、殿下の返事を待たぬうちに、私の腕をつかみ、引きずるようにして、執務室を出た。
執務室から出ると、ハッとして父さまは私の腕を捕まえている手を慌てて外して、
「すまぬ、つい力が入ってしまった。」
シュンとして謝ってきました。
それからずっと、何かされなかったか?触られなかったか?言われなかったか?と小声で連続質問攻めにあいながら、大臣室まで行ったのでした。
大臣室で、我が家のコックの力作弁当を堪能し、にこやかに父さまと談笑する。
先程の廊下では、返答する隙が無く、父さまが質問だけを投げかけている状態だったので、私はその質問に答える様に話した。
話していたら、殿下は臣下との距離が近いことや何度も呼びつけられるので少し疲れるといった話に、父さまの顔色が変わり、悩み始めました。
「なんとかする。」
そう突然、言いだしたので、
「それぐらい私は何ともないから、大丈夫。初日から弱音を吐くなんて、ダメね。うまく察することが出来なくて、殿下に申し訳なかったわ。」
と、私の方が反省をするべきだと主張した。
それに対して、父さまは憐れむような目を向けて、
「なんとかする。」
と、もう一度呟いた。
大丈夫なのに……と思いながら、休憩が終わったので、私は大臣室を後にした。
本日の午後は殿下がお勉強の時間なのだとか。
きっと私は執務室で作業をしながら待機であろうと思っていたのですが。
「えっ?僕も一緒に行くのですか?」
思わず少し焦った口調で返してしまった。
「あぁ、今日の午後の授業は、帝王学の講義なのだが、君にもきっと役に立つし、聞いておいた方がよいと思って、私の隣で一緒に受けてほしい。」
「しかし、僕に、帝王学なんて、必要ないかと。」
「君は頭がよいだろう?私が理解できないところを、一緒に学んで教えてほしい、もしくは議論などを一緒に出来る相手がほしいのだ。ダメであろうか……。」
そうか、殿下は帝王学の講義は一緒に語り合ったり出来る相手がいらっしゃらないのか、一人きりの勉強か、何だか可哀相だな。
そうだな、一度くらいなら付き合ってもよいかもしれないと思ってしまった。
「分かりました。僕は優れていませんので、殿下の考えているような議論が出来るか不安ですが、それでもよろしいのでしたら、お引き受け致します。」
「お前がよいのだ!よし、ではさっそく行こう。」
殿下は満面の笑みであった。
私はそんな嬉しそうな殿下の後に続いて、執務室を後にした。
私は講義室で、殿下の隣に座り、講義を聞いた。
あれ?これって初期の講義じゃないのかな?という内容から始まり、かなり速足で駆け抜ける講義は、私の頭をパンパンにしたが、内容は興味深いものが沢山あり、案外面白かった。
終わってから教師にお礼を述べ、立ち上がり執務室へ戻ろうと、殿下に目線を向けると、
「少し、休憩していかないか?」
殿下が言った。
すると、素早く侍女達がお茶の用意をしだし、あっという間に整った。
殿下がリナの座る椅子を引いてくれる。
とりあえず、腰を下ろす。
菓子を勧められるがまま、口にした。
ほんのり甘い菓子を食べながら、話をする。
「帝王学は、どうだった?」
殿下に聞かれ、正直に
「はい、大変面白かったです。」
素直に答えてしまう。
「そうか、ではまた一緒に出よう。」
と、次回を約束させられてしまった。
自分の安易な発言が失敗であったと気付いた。
「このクッキーどうだ?」
「あっ、はい、王都の僕のお気に入りの店の味に似ています。とても美味しいです。」
「実はそこの店のものだ。用意させておいたのだ。喜んでもらえて良かった。」
殿下はホッとしたような表情をした。
殿下、私が来る事に気を使ってくれて、わざわざ用意してくれていたのかな?
冷たく冷酷な人だと考えていたけれど、思っていたよりもずっと優しい方なのかも。
定期報告では、いつも、同じあの笑顔で探られている態度ばかりだったから、恐怖感があったけれど、何だか違う一面をどんどん知って、あまり嫌ではなくなってきた。
もしかしたら、定期報告での殿下の行動は家への探りではなくて、臣下として仲良くしようと歩み寄ってくれていたのかな……それなら自分の態度は誠実でなかった。
悪いことをしてしまったかもと、反省し始める。
この仕事に就いてなかったら、心使いや殿下の人となりは分からなかったな。
それからしばらく講義の談義やお互いの趣味の話をした。
その後、執務室に戻り、残った仕事をこなす。
またもや何度も呼びつけられるのだが、私は役立って見せる!ド根性見せてやると、自分に活を入れ頑張った。
そうこうしていると、またもや、ドンドンドンと強いノック音がして、父さまの声がし、殿下は間を置いたのち、扉わきの兵に開けよと告げる。
ドアが少し開いたとたん、凄い勢いの父さまがこちらへ突進してきて、
「業務終了の時間ですから」
と言って、昼と同じように私は引きずられ、いつの間にか、ハートフィル家の馬車に乗せられていた。
一日目の業務は無事に終了したようだ。
次回、父さまの逆襲。