閑話:王子妃達の戯れ 1
お読みくださりありがとうございます。
番外編を書いている時に生じたおこぼれ話です。
ここは王城の外壁内であるが、城からは少しばかり離れ高い生垣で作られた迷路のある庭園だ。
幼少の頃、王子達がよく遊んだ迷路なのだそうだ。
本日は、王妃様が親しい友人を招き、この迷路前でお茶会が行われていた。
リナもエドワードと結婚し、2年半が過ぎている。
実はエドワードの子を妊娠していると、先日発覚したばかりである。
そんな状況であるので王妃様が気を配り、動き回らなくても良い様にと、語りたい者がリナのテーブルへ足を運び話をするといった変わったスタイルを取らされ、今の席に固定させられている。
アレクシス殿下のお子、第一王子を二月前に出産したばかりの親友のソフィアも、同じテーブルに座らさていた。
先程まで有力な貴族の夫人や令嬢達と会話を交わしていたのだが、今はその波も途絶え、テーブルに座る2人だけで気ままに語らっていた。
「さすが王妃様ね。この招待されている面々、大物揃いだわ。」
そう、ソフィアがしみじみと話す。
「分かる。対面するだけでも変な汗噴き出す人選よね…でも、ソフィーは、次期王妃として、この人達を味方につけなければないのでしょ、頑張って!」
そう、ウインクして励ますリナ。
このお茶会は、もうすぐ起こる世代交代への地ならしも兼ねているのだ。
「重圧だわ……。ねえ、ずっと気になっていたのだけど、聞いてもいいかしら?なぜ、リナは、実家の侯爵家がエドワード殿下へ嫌がらせしている事を分かっていて、黙認していたの?」
「ああそれね。確かに、ちょっとは後ろめたかったのだけど、家族会議を聞いていたら、殿下の携わる仕事や領地の問題を表に出すといった案件が大半だったから、色々と問題は出しきって、解決してしまってから結婚した方が、後々、困らないな~と思って。それに、テッドはとっても優秀だから、何も問題ないと思ったの。この短期間で、随分と民衆や貴族たちからの評価も上がったし、いいこと尽くしになったわね。」
嬉しそうにニコニコと笑い話すリナを見て、やはりこの娘もハートフィル侯爵家の一員であったのだと、ソフィアは再認識させられたのであった。
「今日、アレクシス殿下は?」
「アレクは、城内で公務ですって。エドワード殿下は?」
「前の事件もあったから、王家管轄領の抜き打ち視察ですって。妊娠が発覚してから、テッドと離れることがなかったから、何だか変な違和感があるわ。私も行きたかったな。」
「そうね、あの殿下の過保護ぶりは見ているこっちが恥ずかしくなるわ。でも、リナがついていかないで居てくれてよかった。このお茶会に、私一人では地獄だったわ…。」
2人同時にカップを持ち、静かに紅茶をすする。
「そういえば、離宮での暮らしはどうなの?リナ、前に悩んでいたでしょ。」
ソフィアが話を変えてきた。
「あれね。最初踏み入れた時は、部屋に自分の好きなものばかりが集められていたり、無くしたと思っていた物が大量に置いてあったり、隠している趣味の品がズラッと並べて配置されていたり、かなり不気味な感覚に襲われたのだけれど、住み始めてからは、自分でいじって居心地をよくしたから平気よ。」
「そう、大丈夫なのね。ねえ、隠していた趣味って、アレ?」
「ええ、アレ。」
「並べられていたの!?」
「ええ、どれが好みですかって……。」
重い沈黙が流れた。
そこへある人物が近寄り、明るい声で話し掛けてきた。
シュゼイン公爵夫人である。
「ごきげんよう。ソフィア妃、リナ妃。お加減はいかがですか?」
2人は挨拶を軽く返す。
公爵夫人がテーブルにつくと、さっそくあの件に触れてきた。
「そういえば、リナ妃は、ハロルドのお茶会へ参加されていましたのに、彼の事は選ばなかったのですね。実は私、密かに彼を応援していたので、少々、残念でございましたの。」
首に手をやり、少し落ち込むような表情で話す夫人。
「そ、そうでしたか…彼はとても素敵な青年でしたが、私はエドワード殿下をお慕いしておりましたので、エドワード殿下以外の申し出はお受けしなかったのです。」
と、しっかり目を見てはっきりと答えるリナ。
首筋に汗が滴る。
リナは知っていた。
エドワード殿下はハートフィル侯爵家だけでなく、ハロルド応援団こと、シュゼイン公爵家、アーハイム公爵家の公爵連合からも、結婚の妨害を受けていたことを…。
こちらの件は、内密にエドワード以外の王族が処理していたようだ。
あのまま事が進んでいたら、エドワードがやってもいない重罪の濡れ衣を被らされ、幽閉もあったかもしれない巧妙な策略であったらしい。
地位を落とし、リナとの婚約を破棄させるのが狙いだったようだ。
王家にハートフィル侯爵家が手を貸し、序盤で対処し防いだことにより大事には至らなかったし、誰も捕まることはなかった。
本当にこの国の上位貴族は恐ろしい。
「そうですか、あなたの正直な気持ちを直接聞くことが叶い、諦めがつきましたわ。」
ニコニコして話してはいるが、腹の内が全く読めない気配を終始醸し出し、探るような会話を重ねるシュゼイン公爵夫人に、形容しがたい恐怖を抱く、リナであった。
これが、社交界のドン!!!!!
会話を交わすたびに身が縮む。
「それよりも、本日は我が家から、孫達を連れてきていますの。紹介してもよろしいかしら?」
これって、拒否件ない感じの伺いだわ。
「ええどうぞ。」
と、ソフィアが発した瞬間に、サササッと現れた2人の子供。
一人は、大層大人びた黒髪の少女で5歳だと自己紹介する。
その子とずっと手をつないで、隣にいる2歳の男の子を弟だと紹介した。
こんなに幼いのに令嬢教育が完璧すぎて、若干引く。
その後、皆テーブルに着き、公爵夫人と子供達を交えた世間話となる。
「そういえば、今日は、リナ妃のお母様、侯爵夫人は参加されていないのね。」
そう、公爵夫人がリナに尋ねた。
「あっ、はい。今日は、父の仕事の付き添いで、欠席しております。」
「では、噂は本当のようね…今日、子供たちを連れてきておいて正解だった。」
そう、夫人は小声で呟く。
聞き取れない二人は、不可解な面持ちで目線を交わした。
2人の怪訝な表情を読み取ったのか、公爵夫人は女性が好む美容話へと話題を変えた。
「ハートフィル侯爵夫人は、外見が変わらないわよね。何か若さを保つ秘訣があるのでしょう?彼女、何度聞いてもそんなものはないと言って教えてくれないのよ。リナ妃は、秘訣を知っているのでしょう?」
「いいえ、何も存じておりませんと言いますか、本当に何も特別な事はしていないのです。」
「そうですの?あの若さの維持、絶対に何かあるとしか思えなくて。妬みから、若い燕を沢山飼っているからだとか馬鹿な噂をたてられるほどなのに。まあ、噂を流した者は、しばらくして姿を見せなくなったけれど。本当に何も無いのかしら?」
ああ、噂の根源は父さまがどうにかしたのだわ。
秘訣などないのだとリナが全否定していると、夫人が可笑しなことを口走る。
「侯爵夫人は人を無意識に動かしてしまうのよね。昔はよく、彼女に夢中の貴族たちや親しい友人が、彼女の溜息ひとつで行動を起こし溜息の原因を失くしてしまっていたわ。ソフィア妃のお母様や王妃様もそのうちの一人。フッ、リナ妃も血筋なのかしらね。」
それは、どういう意味なのだろうと首をかしげるリナを見て、公爵夫人は、昔の母親達の武勇伝を語りだすのであった。
公爵夫人は怒涛の如く話をした後、間を置き、視線を外し遠くを見渡した。
「あら、彼女は来ているのね。少し席を外しますわ。モーリス伯爵令嬢、今は次期ハートフィル侯爵夫人ね。彼女、双子の出産だから、大事を取ってそろそろこういった場へ出なくなるみたいなの。きっちり話をしておかなければ。」
と言い残し、公爵夫人がサッと席を立つ。
そして、そこに残された2人の子供達とリナ達は、会話を余儀なくされたのである。
2歳の弟が椅子に座ったまま、舟をこぎ始めるまでの少しの間であったが、子供達と楽しく会話した。
とても躾の行き届いた良い子達であった。
彼女らが去った後。
「シュゼイン公爵夫人は、全てにおいて見事な会話、行動だったわね。さらに自然な押し売り、流石としかいえないわ。反撃する隙が一切なかった。まだまだ、私達は未熟だと感じさせられたわ。」
そう、ソフィアがしみじみと反省を述べる。
「押し売り?」
そう、リナが返すと、
「あら、気が付いてなかったの?あの孫達は、私達の子供の婚約者候補へどうですかって、紹介しに連れて来ていたのよ。」
「え!?それ本当?だって、ソフィーの子はまだ産まれたばかりだし、私の子に至っては。この通り、まだお腹の中よ???まだまだ産まれるのは先よ。」
「そうよ。だから、親の私達に、今から気に入られておきましょうっていう作戦なんじゃない……恐るべし、シュゼイン公爵家。」
これには鳥肌がたった。
「さあ、そろそろお開きにいたしましょう。」
その王妃様の言葉により、お茶会の終了が知らされる。
続きは、私の部屋で話しましょうとソフィアが誘うので、ゆっくりと離宮の方へ移動する。
その時、フローラルな香りが目指す方面からして来たので、顔を向けた。
するとそこに、肌の白さが光輝くボンキュッボンの女神のような超絶美女が向かいから颯爽と現れたのである。
ハッ、あれは…女神!?
彼女が私達に気が付いて駆け寄ってくる。
その美しい女性が優しい笑みを浮かべ、親し気に話し掛けてきた。
実は居ましたハロルド応援団。
そして、この女神は何を話すのか。
次回でお話しは終わります。




