王妃様のお茶会2
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殿下が跪き、リナの手を取り、声を出そうとした。
まさに、その瞬間。
「これはどういうことですの!エド様。」
と、少し震えの混じる叫びに近い金切声がした。
声を発した者に、視線が集まる。
ある者は、よくやったという目線を、ある者は、邪魔をしやがってと、憎々しい目線を送り、その他は、興味本位か事の成り行きをただ眺めている。
声の主は、もちろん、ネペジル国の王女、イザベラだ。
ようやく殿下に追いついたのだが、この2人の甘いやり取りに嫌悪を抱き、声を荒げたようだ。
イザベラは、早足で殿下とリナの傍まで詰めると、リナの事を指さし叫んだ。
「エド様、これはどういうことなの?この女はいったい誰?説明してちょうだい。」
そういうと、リナを思いっきり睨みつける。
リナは困惑顔になる。
その時、リナの左手が握られ、立ち上がった殿下の方へ引き寄せられる。
その勢いで殿下の胸元へ頬をつける形になり、殿下の腕が反対側の肩に延び添えられ、殿下に抱き寄せられた状態になっていた。
それを目の前で見せられたイザベラが、歯をギリギリさせている。
エドワードは優しくリナを見つめた後、イザベラに向き合った。
その時には、優しい笑顔はなく、いつもの王族スマイルになっていた。
いや、いつもとは少し違い、額に薄っすら青筋が浮かんでいる。
「なぜ、君に、説明しなければいけないんだい?」
そうエドワードが静かに話す。
「な、なぜって、この女がエド様に、そ、そんな扱いを受けているからよ。」
「そうだね。リナは私から特別な扱いを受けているよ。でも、あなたには、一切関係ないでしょう。」
そう殿下が言い終えると、聞いていたイザベラは、顔を真っ赤にして言い放った。
「関係ないですって、わたくしはエド様の婚約者候補ですわ。」
エドワードは目を細めて、冷たい目でイザベラを見て沈黙する。
イザベラは、その冷たい表情に唾を飲む。
エドワードが王族スマイルに戻し、淡々と話す。
「誰が、誰の婚約者候補だと言うのですか?私の婚約者候補は、ずっと昔からリナ、唯一人ですよ。もう何年も私が想いを寄せ、今日ようやく良い返事を貰えたというのに、あなたと言う人は……邪魔をしないでいただきたい。」
「なっ、邪魔ですって、わたくしは、わたくしはエド様の事を6年間もお慕いしてきたではありませんか、こんな、こんな仕打ちはないですわ。お父様に言いつけてやる!」
イザベラが手足をバタつかせ地団駄を踏む。
「あなたは、いつもそうでした。私が、何度も、何度も、何度もあなたの申し出を断っても、耳を貸さず、強引に事を運ぼうとする。私が困っているのも、周りが迷惑をしているのも気にかけずに。そのような人を、私が愛しむことはあり得ない。そう、その顔を見れば分かります。今日やっと、あなたの耳に、私の真実の声が届いたようですね。」
イザベラはエドワードの言葉を聞き、下唇を強く噛みしめた。
そこに無表情な男が静かに近づき、殿下からリナを引きはがした。
メリハリのない口調で会話に入ってくる。
「ちょっと、エドワード殿下。いい加減、妹を茶番劇に巻き込むのは止めてください。もうこの方との結論は、遠の昔についているでしょう?それに今のこの状況は、周りも大層迷惑していますよ。ここは王妃様のお茶会ですので、プロポーズの続きなら、中央の庭園にでも行って、さっさとやってください。プロポーズにうってつけの薔薇の花が、見頃を迎えていましたよ。」
と、アルムが棒読みで言った。
「に、兄さん。」
そうリナが声を掛けると、アルムはリナを見て、優しく微笑んだ。
その表情を見た令嬢達が、天使のほほえみだと口走っていた。
「リナ、良かったな。あとは任せておけ。」
「兄さん、ありがとう。」
リナは目に涙をためて、お礼を言った。
アルムは、うんうんと頷くと、リナから視線を外し、無表情に戻る。
そのあとエドワードに目をやり、出口に向かって顎をしゃくる。
早く行けと言わんばかりに。
エドワードは苦笑いで頷き、リナの手を取り出口に向かう。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
イザベラが甲高い声を張り上げ止めようとしたが、エドワードは振り帰らず、リナの手を引き、進んでいく。
追いかけようとするイザベラの前に、人影が立ちふさがる。
「少しよろしいでしょうか。」
見た目がお淑やかそうな令嬢が、イザベラに近寄り話し掛けた。
ソフィアだ!
「誰よ。」
「これは失礼いたしました。私、ウェルト王国チェスター伯爵子女ソフィアと申します。あなた様は、ネペジル国のイザベラ王女と見受けしましたが、王女でおられるのであれば、婚約者のいる方を追いかけまわすような、はしたない真似は、国の恥となります上、お止めになった方がよろしいかと、出過ぎた真似であると承知しておりますが、声を掛けさせていただきました。」
ソフィアはイザベラをジッと見て、柔らかに笑う。
「なっ、なんですって、わたくしが国の恥!なんで、わたくしがエド様を追いかけるだけで国の恥になるのよ。そうよ、そうだわ!お父様に言って、エド様と結婚できるようにして貰えばいいのよ。この国の弱点、あれよ、あれがあったわ。エド様と結婚できなければ、西海へ抜ける道を、通らせないってすればよいのだわ。」
大声で叫ぶイザベラの言葉が放たれた瞬間。
「ダメよ!ダメよ、イザベラ。それはいけないわ!!」
もう一人の甲高い声が会場へ高らかに響いた。
その人物の登場に周囲が騒めく。
エドワードも雲行きが変わったことに気づき、足を止め様子を窺う。
フリルの多い、真っ赤なドレスのスカートをつまみ上げ、近づいてきたのはネペジル国の第6王女、エリザベートである。
エリザベートの表情は硬く、ズンズンとイザベラの許へやってくる。
そして、イザベラの目の前で止まった。
2人に注目が集まる。
その場にいた者は期待した。
第5王妃の子供は皆、マシであると噂に聞く。
腹違いとは言え、ネペジル国の王女の姉が、同じ国の王女の妹を嗜めてくれるだろうと……。
しかし、現実は。
「イザベラ、その案は私がアレクシス殿下に用いるものだから、あなたは他の方法を考えて頂戴!!」
そう、言い放った。
広大な庭園に、鳥のさえずりが響き渡る。
この発言が飛び出すとは予想しなかったようで、一瞬、時が止まったような錯覚に陥った。
静寂を崩したのは、アレクシス殿下のクックックックと言う笑い声だった。
いつの間にか、アレクシスは、アルムの隣に立っていて、今の発言に、思わず笑い声を漏らしてしまったようで、アルムの肩に手を乗せ、ポンポンと軽く上下させながら、可笑しそうに口に手を当て、声を押し殺している。
「何が可笑しいのですの?アレクシス様。」
エリザベートが驚愕の表情でアレクシスを見て、声にした。
「ああ、何故、そのような無駄な事で言い争いをしているのだろうかと、可笑しくなってしまったのだ。笑ってしまい、失礼であった……クッ、すまぬ。」
アレクシス殿下がワザとらしく、オホンとひとつ咳払いをする。
そして、話を続ける。
「それで、今の発言だが、少し確認してよろしいか?まず、ネペジル国の強制的な権限により、ウェルト王国の西海へと通じる道の通行を禁止する。通行するためには、私もしくは、弟の婚約者に、あなた方を添えろという事でしたよね?」
「そうですわ。」
「わかりました。ええ、良いでしょう。その要求をお受けいたしましょう。」
悲鳴が聞こえ、嘆きの声によりザワザワと周囲が騒ぐ。
ちょっと、兄上?




