エドワードside : 知らない方がよいこともある
お読みいただきありがとうございます。
このお話は、エドワード視点のお話しです。
エドワードが苦手な方は、本当にゴメンナサイ。
はぁ~可愛い、すげ~好き、今日も最高、大好き!
目の前にいる男装の令嬢を見て気持ちが高ぶっているのだが、相手にこの濃厚な想いを悟られぬように、顔に王族スマイルをはりつけ、目だけキラキラさせて、エドワードはそこに居た。
この男装している令嬢は、ハートフィル侯爵令嬢 リナ嬢である。
3年前に、この令嬢のそっくりな兄の悪戯で、俺の所にこの格好でお使いに来たのがきっかけで、それから月に一度ある彼女の兄の報告を、その兄と取引をして、彼女が代わりに来るように仕向けているのだ。
ちなみに彼女の兄への交換条件は、王族専用の図書室への入室許可である。
「殿下?エドワード殿下?どうなさいましたか?」
その令嬢が心配そうに声をかける。
ハッと意識を正常に戻すと、不安げな表情で自分を見つめる彼女がいる。
キリっと表情を作り、真剣な眼差しで彼女を見つめ返した。
可愛い。じゃない。いや可愛いのだけど、可愛い。
いやいや今はシッカリしろ、俺!
今日は彼女に提案をしなければならん。
そうでないと・・よしっ!
「アルム、定期報告、ご苦労であった。そなたの仕事は実に的確である。意見、感性、素晴らしいものと認識している。そこでだ、近年、私の仕事量も増えてきて忙しくてなっている。どうだろう、私の側近となり、執務の手伝いをしてくれないだろうか?一人で仕事をこなすよりも、お前のように優秀なものが傍で力を貸してくれた方が、助かるのだ。ぜひ頼みたい。」
よし、言ったぞ。
頼む、やると返事をしてくれ!と、心の中で合掌し神様に祈っていると
「あの、その、返答ですが、あにじゃなかった、家の者に相談してからでもよいでしょうか?」
家の者だと!?
アルムと大臣だな。厄介だ。逃げられると困る。
ここにリナが来てくれなくなったら、一生想いを伝えられなくなるのだぞ。
アルムめ、なぜもっと早く、リナが定期報告をやめることを言ってこなかったんだ。
お陰で、策を考える時間がなかった。
アルムから知らせが来たのは、昨夜だ。
どこぞの令嬢が、リナに婚約は学校卒業年齢までにしないと、結婚が出来なくなるという間違った知識を吹き込んだらしい。
それにより、今まで社交に出なかったリナが嫁ぎ先が無く、両親に迷惑を掛けてしまうと焦り、婚活に動くことになった。
これ幸いと侯爵夫人がノリノリで色々と連れまわす計画を練っているから、そのために定期報告も止めるように言ってきたらしい。
なんなのだ、その性悪令嬢は、なんて余計な真似をしたのだ。
見つけだし、火あぶりの刑だ。
ここにリナが来なくなれば、俺と話す機会がなくなる、それだけは絶対に嫌だ!
あぁ、もう姑息だが、権力だ!権力を使うぞ。
「命令だ!明日から私の執務室に来て手伝え。分かったな。」
リナは、もの凄く目を見開いて驚いて俺を見ている。
でも、そんな彼女も可愛い。
んん?何!俺の事を見ているだと!!!
リナに見られているなんて、やばい顔がニヤケル。
表情筋よ、冷静になれ、そんな時は、いつもの王族スマイルだ。
頑張れ!
「・・・はい、了承致しました。」
そう言って彼女は首を垂れ、トボトボと静かに部屋を後にした。
彼女が退室し、少し経ってから、
「やったーーーーーー!!!!」
エドワードの部屋から絶叫が聞こえてきたことで、何事かと数人の護衛騎士が、部屋に駆け込んだそうだ。
夕方近く、速達だと手紙が、届けられる。
アルムからだった。
手紙には要約すると、姑息な手を妹に使いやがって、このヘタレ、能無し、ゴミくそ野郎という非常に巧妙な言い回しのネチネチした内容が書かれていた。
俺は殿下なのに、言い回しはメッチャ巧妙だけど、この言われよう酷くない?
ふむ、一応、リナの事は、許可してくれるようだ。
期限付きだし、細かく禁止要項が書かれている。
あっ、王族しか閲覧できない本の閲覧許可をしろと書いてある。
抜かりないな。
手紙の最後には、絶対に妹に手を出すな、出したら分かっているな!と、あぶり出しで読める様になっている。ヒェッ。
近衛の皆さん、出番ですよ。
ドンドンドンと、討ち入りか!というくらいの強さで、ドアがノックされる音がした。
「エドワード殿下、内務のハートフィルです。お話があって参りました。」
と、馬鹿でかい声がした。
あの温厚な、普段は物静かな大臣が、声を荒げるだなんて、何事かと、扉の周囲に居るものは驚いているであろう。
通せと扉わきの騎士に伝え、ドアを開けさせると、もの凄い勢いでずかずかと大臣が入ってきて、あっという間に自分の前までやってきた。
やばい、殺されるかもと、一瞬震えた。
エドワードの目の前で止まった大臣はジッと睨みつけ、
「息子から知らせが届きまして、どういうことでしょうか。」
と、紙を握り絞め、肩を小刻みに震えながら、問いかけてきた。
「アルムは何と?」
「娘が、明日から息子の格好をして、殿下の執務室で働くことになったと、言っております。ご冗談ですよね?」
「冗談ではない。」
「は?」
「冗談ではない。」
「は?」
聞き間違えじゃないよ。
「では、明日からアルをこちらに寄こしますので、それでお願いーー」
「ダメ!!リナ嬢が来るようにって言ってるでしょ!それは絶対、譲れません。決定事項なんです!」
大臣が言い終える前に、遮ってエドワードが強く主張した。
その発言をきっかけに、大臣の頭の血管がプチンと弾け、エドワードにしばしの説教をした。
治まった所で、エドワードは大臣に懇願した。
リナの可愛さ、愛らしさ、好きすぎて仕方がないと力説し、このままでは彼女との接点が無くなり、会えないまま彼女が他の者の嫁になってしまう。
それだけは、それだけは、嫌なのだ……どうかどうか、チャンスをください!
泣き落とされた。
「頼む。期間は一年。大臣お願いだー!頑張らせてくれ。」
大臣は折れた。
殿下の熱意に負けたのだ。
エドワードは、恋愛にかなり奥手の人です。
少しばかりオカシイ人デス。