植物園での忍想い
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植物園は広大で、入園して直ぐの目立つ場所に、最先端の巨大な温室があった。
ここは時期に関係なく、様々な種類の植物が咲いているようだ。
リナも薬剤になる植物が多く産出する領地出身のせいか、興味がそそる。
温室を出ると、花畑が広がっていた。
季節によって咲く花が違うらしいが、今はコスモス畑やリンドウが可愛らしく咲いていて、綺麗であった。
花畑を抜けるとそこにはバラ園があり、白や赤、ピンクと春に比べて本数は多くないが、色彩良く咲いている。
確かに、聞いていた通り王城の薔薇園のようで、お茶をしたくなるわね……。
そう考えた時、リナはこれが誰の言葉であったのかを思い出し、あっと小さく声を出した。
そして、無意識に彼の言葉を思い出していたことに、気恥ずかしさを感じた。
殿下の一言一言をハッキリと覚えていて、思い出して嬉しがっているなんて……。
「リナ、どうかした?」
マリ姉が心配顔で聞いてくる。
「いいえ、何でもないの。」
そう冷静を装い返すが、リナの耳は赤く染まっていた。
「あっ。」
あれ?カイルのこの反応、嫌な予感がする。
またか、今度は誰だ?とカイルの目線を辿ると、そこにはハロルドが見知らぬ令嬢を連れて、楽しそうにおしゃべりをしていた。
「ちょ、ちょっと!なんであいつがここにいるのよ。」
マリ姉が吠える。
「ち、違うからな!俺達、リナにあいつを会わせたいとか、全く考えてないし、あいつに頼まれてもいないから。本当にここで会ったのは、偶然だから。」
カイルが手を振り振りさせ、激しく弁解する。
「シー、シー、2人とも静かに。気が付かれないうちに、この場から立ち去りましょう。」
自分の唇に人差し指を押し付けて、そう提案した時には遅かった。
ハロルドがバッチリこちらを見ていたのだ。
ハロルドは、令嬢をベンチに座らせ、こちらへとやってくる。
その時、リナは気がついた。
ハロルドが、他の令嬢と二人きりで居ても、見つかったら気まずいとは思ったが、それ以外は何の感情も沸き上がらなかったと言うことに。
殿下がイザベラに近寄られたり、イザベラが殿下に想いを寄せられていると聞いた時、とても嫌だと感じ、胸が苦しくなった。
それが、ハロルドに対しては無かったのだ。
「やあ、みんな、こんな所で会うなんて偶然だね。」
いつも通りのハロルドだ。
あんなに私は嫌な態度を取ったのに、この対応、有難いな。
そうだ、すぐに謝らないと。
「お久しぶりです。ハロルド様。先日までの不躾な振舞い。大変申し訳ありませんでした。あなたに、嫌な思いをさせてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。それと、素晴らしいご令嬢と、ご縁ができたようで、本当に良かったです。」
そう、リナは心から詫びを入れ、屈託のない笑顔で祝福した。
ハロルドは困った顔をした後、
「謝らないで。強引にあなたに迫った私にも、責任はありますから……それでも……あなたに、他の女性との縁に恵まれて良かったと言われるのは。少々、複雑な気持ちになりますね。」
そうリナを見つめ、苦しい顔をした。
リナは何と答えたらよいのか思い浮かばなかった。
「本当に、ごめんなさい。」
とだけ呟いた。
マリ姉がタイミングを見計らい、ご令嬢を待たせているのでしょうと、ハロルドを促し、令嬢のもとへ送り返す。
またお茶でもしましょうと、最後に言い残し、ハロルドは戻って行った。
その時、リナは、お幸せにと声を掛けた。
聞こえたのか、ハロルドは振り向きもせず、片手をあげて、ヒラヒラさせていた。
「たくもう、直ぐに次の相手がいたなんて不誠実だわ。まだリナとの決別から、たったの5日しか経っていないじゃない。」
と、マリ姉がボヤいていた。
ハロルドを見送った後、マリ姉は少し歩いた先で見たい薬草があると言う。
ここまで休みなく歩いて、少し靴擦れを起こしていたリナは、カイルとベンチに腰を下ろして待つこととなった。
護衛を引き連れて歩いていくマリ姉をベンチから見送る。
カイルとふたり、薔薇を見ながら話をする。
「植物園は、ハロルドに誘われていたの、まさか、ご令嬢とデートの所を出くわしてしまうなんて、申し訳なかったわね。」
「お前をデートに誘った場所に、別の令嬢を誘って連れてきている方が悪いんだよ。リナは怒らないのか?」
「ええ、怒らないわ。」
沈黙が流れる。
「ハロルドは、新しい出会いに進んだのね……。」
リナがポツリと口走る。
「ソフィアが言っていたの、恋は機会を逃すと消えてなくなるって、もたもたしていると生き遅れる。相手に少々悪いと思っても、惨めな思いをしても、みっともなくても、後悔するよりよっぽどましだから、逃したくないと思ったら、手を伸ばして掴めって。」
「リナはハロルドが好きだったのか?」
「いいえ、違うわ。ハロルドがあっという間に、自分より素敵な令嬢に乗り換えていたから、ソフィアの言葉は本当なのだと実感が沸いただけよ。それに、私は、恋がなんなのか、したことが無いから全く分からないの。恋をしたことある人が、羨ましいわ……こんなんじゃ、行き遅れかしら?もし、このまま行き遅れになってしまったら、カイルが貰ってくれる?」
リナは、フッと笑って、横目でカイルを見る。
カイルは遠くを見つめたまま、答える。
「ハハッ、ああ、いいぜ。お前の兄貴と、俺の姉貴が居なかったら、きっと俺達が婚約者だったろうからな。お前はイイ奴だし、売れ残ったら、俺が貰ってやら~。」
そう言い終えて、リナの頭をクシャクシャする。
「ふふっ、ありがとう、カイル。あなたはいつも、私が欲しい言葉をくれるのね。」
嬉しそうに話すリナの横で、カイルは思っていた。
リナが欲しい言葉なら沢山あげてやるけど、困らせる言葉は、いつも心に閉まっている。
きっと一生言う事は……ないだろう……。
俺の家とリナの家の縁談は、もう必要ない。
姉さん達が結婚すれば、彼女は家族になる。
可愛い妹なのだと。
それで十分だ。
カイルの肩にポンと手が置かれ、マリ姉が、帰ったよと後ろから静かに声を掛けた。
そして、3人は植物園を後にした。
ハロルドよ、これが追いかけるのを諦めちゃった結果なんだよ。
まさかのカイルの不発弾所持。
秘めた恋・・切ない!




