不愉快な訪問者
お読みくださりありがとうございます
「ということで、僕はそれからずっと、君の事が好きなんだ。」
あー、確かに、テッドと言う少年と、そんな会話をした気がする。
しかし、あの時のあの少年は、確か背は当時の私と同じくらいで、体はヒョロヒョロ、背中まである長い髪で、声も少女のように高めであったような……。
ずっと顔を背けれていたから、顔も印象にないなぁ。
今の殿下は、声は低くなり、体は鍛えて逞しく、背は見上げるほど高い。
背筋も伸びて、顔を上げ、王族らしく堂々とした佇まいである。
変わり過ぎだよ!?
人と関わるのが苦手な兄さんを知っていたから、テッドも同じタイプなのかなと思って、顔を強引に見ようなんてことはしなかったし、それきり会わなかったから、全く覚えていなかったわ。
「あの時のテッドが、殿下でしたか……。」
「うん、僕だ。あれからリナに何度も会いに行ったのだけど、恥ずかしくて。その……声を掛けることが、なかなか出来なくてね。3年前にリナが、アルムの代わりに定期報告に来た時に、アルムにお願いして、リナが定期報告に来るようにして貰ったんだ。だから、リナが言うような、王族を騙していたというのは間違っている。逆に、僕の方が、君を騙していた。すまなかった。それに、リナが来る許可は、陛下には貰っているし、直接は言っていないのだが、母上も兄上も知っているようなのだ。」
少し離れた位置にいるカイルと、扉前の近衛騎士も大きく頷いている。
みんな知っていたのかと、気まずい顔をするリナ。
「僕はあの時、リナと出会い、興味を持ち、君に恋をした。それから、リナに会いに行き、リナのことを知る度に、その感情は強くなるばかりだった。これまでリナをずっと想ってきた。そして、これからも、リナだけを想っていく。変えることが出来ない。きっと、君にフラれても、ずっとリナ一人を想っていくだろう。それくらい好きだ。どうか、この気持ちを受け止めてほしい。リナに好きになってもらえるように、努力をしていくから、もし、僕のことを受け入れてくれるのであれば、これをつけてほしい。いつまでも待つから。」
そういって、さっき返したブローチを、殿下はリナの掌に乗せた。
ブローチを見て、殿下の顔を見上げると、真剣な眼差しを向けていた。
こわばった表情の私に、殿下はゆっくりと柔らかく笑顔を作った。
その殿下の見つめる目が優しくて、自分を深く想っていると感じさせられた。
私がこれを受け取っても本当によいのかしら?
殿下のことを拒否しなくてもよい事が素直に嬉しい。
リナは表情を緩め、コクリと小さく頷いた。
その時、バーンと勢いよく執務室の扉が開いた。
「エド様!!」
甲高い女の声が、執務室に響いた。
その声の主が、カツカツと高いヒール音を鳴らしながら、近づいてくる。
その瞬間、殿下がカイルに目配せをした。
殿下が入ってきた人物の正面に体を向き直ると、殿下の顔があの張り付いた王族スマイルに変わっていた。
その女が殿下の正面まで来て立ち止まる。
「会いたかったですわ、エド様。」
と言って、殿下に抱きつこうと腕を広げた。
あっ、抱きつかれる!
リナがそう思った瞬間、殿下が一歩大きく下がり、カイルが間に入り、女の腕を抑えた。
慣れたものである。
リナはホッとした。
女は殿下に寄り掛かろうとしていたようで、カイルの抑えている腕に力が入る。
カイルはそのまま少し強く力を込めて、押し戻した。
女が元の位置に戻る。
その瞬間、女がカイルを鋭く睨みつけた。
その女が何かをカイルに言いかけた時、
「お久しぶりです。ネぺジル国、第8王女イザベラ様。お聞きしたいのですが、貴女がこちらに来られるのは、母の開くお茶会の前日だと報告を受けているのですが、幾分早いお着きのようですね。何かありましたか?」
殿下が淡々と挨拶し、質問した。
「キャ~エド様ったらもう、ベラって呼んでといつも言ってますのに。実は、私、エド様に早く会いたくて、お姉様達よりも早く出発いたしましたの。」
嬉しそうに頬に手をあて、キャピキャピしながら話す。
「…………そうですか。」
殿下との会話の温度差が激しい。
コンコンとドアのノック音がして、入るよ~と声がする。
声を聞き、殿下がすぐさま指示を出し、近衛が素早く扉を開けた。
「失礼するよ。こちらにイザベラ様が来ていると聞いたのだけど……やあ、イザベラ様、予定より幾分と早いお着きですね。」
そう言いながら、アレクシス殿下が入室してきた。
アレクシス殿下を見たイザベラは、しかめ面になる。
「お久しぶりですわ、アレクシス様。何かご用ですの?」
「ああ、君が予定よりも、かなり早く着いたと知らせが来たから、迎えに来たんだ。エドワードは、まだ仕事が残っていて忙しいから、私がお相手を任されたのでね。」
「必要ないですわ。わたくし、エド様のお仕事が終わるまで、エド様の近くでお仕事を拝見しておりますの。」
「いやいや、それは邪魔になるし、機密の仕事もあるからね。そうだ母上もお茶をしないかと誘っていましたよ。さあ、行きましょう。さあさあ。」
そういうと、イザベラの両肩に手を当てて、強引に執務室から連れ出した。
カイルが少し失礼いたしますと言い残し、アレクシス殿下の後を追う。
扉がパタンと閉まると、その瞬間、殿下が盛大に大きな溜息を吐いた。
リナは思わず、殿下に目を向けた。
「本当に、勘弁してほしい。」
そう言って、殿下はもう一度、溜息をつく。
「ごめんね、リナ。明日からお茶会まで、アルムと交代して貰っていいかな?あいつは、アルムが天敵だから、居てくれると助かるんだ。ダミアン、直ぐに近衛の人数増やすように指示してきて。」
そう殿下が騎士に声を掛けると、了解しましたとキリっと返事をする。
少しの間、失礼いたしますと言い残し、執務室を出て行った。
リナはため息をつく殿下を心配そうに見つめ、殿下はその視線に気づき、リナを愛おしそうに見つめた。
リナは頬を赤くする。
2人きりの空間が甘く彩られる。
殿下が口を開く。
「リナ、さっき君に告げたこと、よく考えてほしい。何があっても、君の事を想っている。この気持ちが永遠に続くことを信じてほしい。そして、受け入れてほしい。少しの間だけ離れてしまうけれど、僕は君の事を一番に思っているからね。愛しています。」
殿下はリナの目を見つめ、リナの両手をギュッと両手で包み、囁いた。
リナは、体の中からボッと熱くなるものを感じ、恥ずかしくなった。
その時のリナは気づいていなかったが、顔や耳、首まで真っ赤になっていた。
しばらくして、カイルが戻り、パッと2人は手を離す。
近衛騎士も、騎士を数人連れて戻ってくる。
これまでの事に、脳内はまだ混乱していたが、ひとまずアルムの無表情を咄嗟にはりつけ、冷静さを取り戻す。
そして、リナは、では明後日のお茶会でと、殿下に短く挨拶をして、そそくさと執務室を出た。
大臣室へと速足で向かった。
その間、先程の殿下のセリフを思い出し、リナは再び茹で上がる。
大臣室に入ると、慌てた様子で顔を赤くしている娘に、父がどうしたのかと、声を掛ける。
アタフタしながら、何でもないと話す娘に、父は怪訝な顔を向けた。
しばらくして落ち着き、リナがイザベラと言う王女が来たのだと話すと、王女に何かされたのだろうかと心配し、父は眉をしかめた。
それからすぐに屋敷に帰って、リナは兄のもとへ向かった。
殿下の命を伝える為である。
ここにきて、ライバル?きました。
次回、エドワードsideです。
叫んだ時辺りの話です。




