出会いは ハートフィル領で
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エドワード殿下の話によると、リナと初めて会ったのは、3年前の執務室ではないのだそうだ。
5年前、エドワード殿下が14歳の時にすでに出会っていたらしい。
その頃、優秀な兄と何に対しても比較され、全てにおいて劣っていた殿下は、悩んでいたそうだ。
さらに教師達や傍に寄ってくる貴族らが、陰で兄より能力が劣る無能な弟殿下だと、自分を蔑んで話しているのをよく耳にしていたので、当時の殿下は、酷い人間不信になっていたそうだ。
そんな時、殿下の変化に気づいた王妃様が、国立研究所の所長に、殿下に気晴らしをさせてあげたいからと、ハートフィル領へ連れ出してやってくれとお願いしたそうだ。
研究所長は、王妃様の弟、殿下の叔父だ。
彼は、ハートフィル領にある、珍しい薬草や花、角が薬剤になり肉が滋養強壮になる珍獣ホルンが発見された事で、研究所長として自分の目で確認しに行くために、領地を訪れる予定であったのだ。
話を聞いた研究所長は、エドワード殿下は王子という立場に重圧を感じすぎてしまっているのではと考え、息抜きをさせるために、自分の遠縁の子として一緒に連れて行くことを提案した。
もちろん、殿下と王城で会ったことのある父や学校が同じアルムのように、顔を知っている者は少なからず居たのだが、殿下が気兼ねなくハートフィル領で過ごせるようにと、エドワードが王子であるという事は、かん口令が敷かれた。
確かに、5年前、父と兄が取り組んでいたホルンの研究成果を国に報告し、その視察にと、研究所長が領地に来ていた。
その時に殿下も我が領に来ていたというのだ。
リナは聞くまで全く知らなかった。
「その時に、君に出会って、僕は救われたんだ。」
自分は殿下に会った記憶がないので、何をどう救ったのか、全く分からない……。
まず、ハートフィル領で研究の話を所長と父さまが話している間に、殿下は兄と少し話をしたらしい。
その時に私を初めて見かけて、興味を持ったそうだ。
「君は学院で一緒だよね?君もこの研究を手伝っているのかい?」
殿下がアルムに問いかける。
「ええ、年は殿下の一つ下でアルムと言います。研究は手伝いと言うか、私、主導です。父と猟に出かけた時に見つけたホルンを仕留めて持ち帰ったんですけど、その時に余った角を薬剤に使えないかと始めた研究なのです。」
「つまりは、君が発案者?」
「いえ、発案者は妹です。この肉は食すと力がみなぎって体力が回復するので、使い道のない角も何かないものかと言いだして、その案を貰いました。」
「妹さんが?でも、今はいないよね。」
「ああ、発案者は妹だけど、あいつ、薬物学はそんなに得意ではないし、研究の為にホルンを一緒に捕獲しに行った際に、運悪く発情期に出くわして。その時は知らなかったんですけど、ホルンは発情期に気に入った相手に体を擦り寄らせる行動をとるんです。妹は動物に好かれるようで、数体のホルンに囲まれて揉みくちゃにされて、それからホルンが怖いらしくて、もう見たくないと。」
「はぁ、災難だったね。でも、家族でやっている研究なのだろう、手伝わなくてよいのかい?」
「まぁ、思ったより大きな事業になったので、両親も手伝ってくれていますが、家族だからと好きでもないモノを強要したりはしませんね。苦手なものは仕方がないし、あいつは雑用とか、他の事に手を貸してくれるから。あっ、ほら、今、僕の用事を済ませて帰ってきたようだ。」
アルムの指さす窓の外を見ると、白いワンピースに赤いシミを方々につけて、トマトを籠いっぱいに持った少女が、庭先に現れた。
可愛らしい容姿で無邪気に笑顔を浮かべる少女が、屋敷内に向かって、パタパタと走ってくる。
「あの格好は……。」
「おそらく、領民の仲裁をした結果ですね。昨日から農地で領民同士の揉め事が収まらないって報告が上がっていたから、妹に行ってもらったんですよ。私や父さまはこの通り、研究や何かを考える事は得意なんだけど、人の仲裁とか、人の話を聞くのはあまり得意ではないから。そういう仕事は、あいつに押しつ……頼むんです。」
リナを見たのはその時が初めてで、上等な生地の白いワンピースがトマトまみれなのに、嬉しそうに弾んだ声で侍女と笑い、会話をしている姿だった。
その姿が、殿下には、眩しく煌めいて見えた。
それから、興味を持ったので、どうにかリナに話し掛けようと思っているのに、全然リナには会うことが出来ない。
王城に帰る前日にようやく話せる機会が来たのだった。
実はこの時、殿下がリナを見て、婚約者にしたいと言い出すのではと、心配した父さまの策略で、リナを殿下に故意に会わせないようにしていたのだと、帰城後、アルムが殿下のもとへ定期報告に来るようになってから教えられた。
しかし、その父の考えは杞憂ではなく、まさしく、殿下は帰城後にリナと婚約したいと願い出ている。
この時、殿下のあまりの激しい勢いに押された大人達は、殿下とある約束を交わした。
リナに直接承諾を得ることが出来れば認めるという約束を、大臣と陛下を交えて行っていたそうなのだ……が。
御存じの通り、この約束は未だに成し得ていない。
実は、ずっと前に出会っていたって話で。
もうちょっと、次回まで、出会い編続きます。
殿下の執着の理由編です。




