父さまは頼りになる
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「それで、相談って何かな?」
兄がニヤニヤしながら聞いてきた。
私は、チラッと マリアを見てから、
「例の件でお願いが、私も日中の社交に参加しなければならない日が、近々ありまして、その日は兄さんに代わってもらえないかと、相談に来ました。」
「何々?例の件って?面白いこと?」
グイっと、マリ姉が食いついてきた。
マリ姉に話してもいいのかな?と横目で兄を見て反応を確認しようと考えていると、
「さっきの話だよ。」
と、兄さんがあっさりマリアに言った。
「あぁ、交換ごっこの延長の例のアレね。ぶぶぶふぅー、リナも本当に災難ね。」
と、マリアが続く。
ちょっ、マリ姉、変な笑い出ちゃってるよ。
え?あれ?マリ姉に殿下の件、話したの?
ていうか、マリ姉、私と兄さんが、まだ入れ替わって過ごしている事も知っているの!?
「そうだよ。あの交換ごっこ。」
兄さん、さらっと肯定しちゃってるし。
マリ姉に交換していることを知っているのかと、隣でコソッと聞いてみると、前から面白いことしているなぁって思っていたよって、軽くウインクされながら返された。
前から知っていたんかい!
心の中で激しくツッコミを入れていると、
「はぁ、エドワード殿下にも困ったものだよね……。それで、仕事に出られない日っていうのは、具体的にいつだ?」
兄さんが少し苛立ちながら、投げやりに聞いてくるので、やっぱり兄さんは、私が殿下の件をその場で断れなかったことに怒っているのかと、不安に感じる。
すると、私の肩をマリ姉が人差し指でトントンし、、
「アルはあなたには怒っていないわよ。」
と、小声で耳打ちしてくれた。
こういうところが、本当にお似合いだと思う。
私はマリ姉に頷いた後、
「7日後のシュゼイン公爵のお茶会に参加しなければならないの。」
と、兄に答えた。
「7日後か。」
兄が手帳をパラパラ捲り、予定を確認している。
「あら?そのお茶会なら、私も参加するわよ。」
淹れたばかりの紅茶の匂いを嗅いで、一口飲んで満足した後、マリ姉が言った。
母さんが話したお茶会の参加者条件について思い出し、聞いてしまう。
「あれ?マリ姉、そのお茶会、参加してよいの?確か、婚約者の居ない令嬢を集めるって聞いたんだけど。」
まさか、兄さんと何かあったのか?
あれ、まずいこと言ったかもと、ハッとして兄を見た。
「えっ、なにそれ、マリアは僕の婚約者でしょ?そんなふしだらなお茶会行かないよね?」
と、かなり動揺した兄が居た。
「ふしだらって、ぶほっ。」
マリ姉、変な笑い声がまた出ちゃってるよ。
それからツボったのか、腹抱えてサイレントで笑ってるし。
「そのお茶会、実は私の従兄、ハロルド アーハイムのために開かれるお茶会なのよ。」
笑って出た目尻の涙を拭って、落ち着いてから語りだした。
マリ姉によると、ハロルド・アーハイムは、マリアの父の妹、つまりマリアの叔母の子供、従兄だそうだ。
伯母はアーハイム公爵家に嫁いでいる。
マリアの父とその妹は仲がよく、子供同士も年が近いので、幼いころから、交流があるそうだ。
先日、その従兄のもとへ、幼少期から家同士で決められていた従兄の婚約者が、公爵家に乗り込んできたそうだ。
どうしても一緒になりたい人がいると、大きな腹を抱えて、婚約破棄を懇願してきたらしい。
その令嬢の両親は、子供が生まれたら、何事もなかったように娘を輿入れさせてしまおうとしていたらしく、令嬢がハロルドの家に乗り込んで、暴露したのだそうだ。
即座に婚約は解消され、社交界でも結構な噂になっていた。
まさか、あの噂がマリ姉の従兄の話だったなんて。
従兄は来年には結婚式を、と言っていた頃合だったので、こんな衝撃的な婚約破棄で、息子にも悪質な噂を立てられるのではと公爵が心配し、年齢と身分の釣り合う令嬢の事も考え、次の相手を早々に決めようとなったようだ。
我が子を心配したアーハイム公爵は、信頼するシュゼイン公爵に相談をした。
その奥方は社交界で顔が利く…所謂、社交界のドンだ。
その夫人が、ご子息は婚約を解消したばかりなので、小さなお茶会に、婚約者の居ない子息と年齢と地位が釣り合う令嬢を集めてみて、一度、話をする機会を設けたらどうですかと、提案したらしい。
「なるほどね~。それで、なんでマリアも参加なんだ?」
「私だけでなくて、カイルと、ハロルドの姉弟、エミールとサミュエルも参加するのよ。つまりは、スムーズな集団お見合いを円滑に進めるための、親族による、お手伝い要員よ。」
と言い、兄にウインクする。
「へぇ、カイルも来るんだ。リヒトは来ないの?ああ、それなら良かった~、仲良い方が参加しない若い令嬢だけのお茶会で不安だったのよね。マリ姉達がいるなら心強いわ!」
ニコニコと言い放つ私を見て、兄さんが、
「リナは社交のリハビリにでも行くつもりなのか?」
リナに困った妹だという顔をむけて、ため息をついた。
「リヒトは、領地で仕事があって参加できないのよ。リナに会えるっていえば飛んできそうだけどね。クククッ。」
リヒトは、マリアの7つ上の兄で、次期伯爵家当主の勉強をしているようだ。
カイルはマリアの2つ下の弟、私と同い年、王城で騎士をしている。
「とりあえず、そのお茶会には、参加していいぞ。母が約束したものなら、相当断りづらい相手なのだろう。俺もその日は都合着くから、殿下の所には俺が行く。その代わり、マリア、そのお茶会で、リナをそいつに近づけさせるなよ。要旨は見合いなのだろ?絶対にダメだ。リナ、マリアとずっと一緒にいろ。その男が近づいて着たらマリアと手を引いて二人で逃げるんだ。わかったな!」
マリ姉は、ウフフッと嬉しそうに笑い、私は、逆らうのも面倒だしと分かったと頷いた。
兄さんは、僕が一緒に行ければと、ブツブツいいながら何か考えていた。
兄さんとマリ姉と別れたあと、部屋で夕食まで本を読もうと、過ごしていた。
そろそろ夕食かなと言うときに、少し強めのノック音がして、入るぞと声がした。
父だ。
茶髪の毛をきっちり後ろに流して固めている、丸眼鏡を掛けたガチムチ筋肉の ジルド ハートフィル侯爵である。
父は王城で内政大臣の命を受け、働いている。
こんなに早く帰宅だなんて、珍しい。
何かあったのかしら?そう思いながら、どうぞと、本棚に本を仕舞いながら、返事をした。
部屋に入り、丸テーブルの椅子に無言で座る父と、同時に腰を下ろす私。
エマが紅茶を淹れ、リナが一口飲もうとカップを持ち上げた時、
「明日から、アルの代わりに王城に行くそうだな。」
父が聞いてきた。
おそらく、全てを兄から聞いてきたのであろう。
「はい……そうです。」
カップを置き、私は行きたくない感を全身に醸し出して、首を垂れ短く答えた。
行かなくてもいいように、何とかしてくれないかな~と、期待を込めた目で父を覗き見ていたのだが、父は、悲しい表情をし、小さくため息をついた後に、
「本当は、行かせたくないのだが、ああぁ、本当は行かせたくないのだ・・はあ、何か不都合なことや困ったことがあったなら、すぐに王城の大臣室に逃げ込んでくるのだぞ。何もなくても、休憩がてら来い、話に来い、お昼も来い。何かあったら、逃げてこい。父の所に来い。父を直ぐに頼るのだぞ。いいな。」
真剣な表情で冒頭は嘆き、徐々に熱を込めて言葉を発したあと、深いため息をついた。
「……分かりました。」
あぁ、ダメだったか……行かなければならないのかと、リナは悲しげな表情で返事をした。
父さまは返事を聞いた後、私を見つめ悔しそうな顔をした。
そして、またため息をつく。
「さあ、夕食だ。」
と力なく言い、椅子から立ちあがり、静かに部屋を出て行った。
私も父さまに続き、部屋を後にする。
私は部屋を出た後、食堂へ向かう通路を歩き、考えていた。
父さまに取り消してもらえないと分かって残念だったが、先程の父さまの言葉を聞いて、心強い味方が王城にいるのだと、父さまを心底尊敬し、嬉しく思った。
そして、何とか乗り切れるかもしれないとポジティブ思考に変換し、気持ちを奮い立たせた。
父さまの言葉もあり、その夜は、明日から登城だというのに、ぐっすりと眠りにつくことが出来た。
ラブコメになっているのか?
次回はエドワード殿下視点でお送りします。