真相
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皆のいる庭へ戻ると、
「あっ、戻ってきた。おい、遅いぞ。」
フィリップが私を見つけて声をかけてくる。
「ごめんなさい。長らく席を外してしまって。」
急いで椅子に座る。
「いいのよ。それより、面白い話が聞けたのよ。」
そう言って、ソフィアがにんまりと笑った。
「何々?楽しい話?何の話?」
リナが聞くと、
「リナ、例の男爵令嬢の話よ。」
そうシャーロットが言ったので、リナは口に運ぼうとしていた菓子を、思わず手から落としてしまった。
「さあ、フィリップ、さっきの話をリナにもう一度話しなさい。」
ソフィアが不適な笑みを浮かべて、フィリップを急がす。
「ソフィアは本当に、命令するのが似合いますね。悪くはないのですが、命令されるのは、私の趣味ではありません。私の好みにドンピシャなのは、シャーリーですよ。」
ボッと赤くなるシャーロット。
「いいから早く!」
ソフィアがフィリップを急がす。
この短時間で一体何があったのだろうという感じで3人が仲良くなっていた。
「はいはい、話しますよ。2年くらい前、王立学院に通っていた時、ご存知の男爵令嬢は私達と同じ学年の生徒で、彼女がアルムを追いかけていた時期があったのは、リナは知っている?」
フィリップがリナへどれくらい知っているか尋ねる。
「ええ、男爵令嬢が兄さんに好意を寄せていたけど……兄さんに嫌われたとは聞いたわ。」
本人から聞いたとは言えないけどね。
「そう聞いているのか……うん、真相を言うと、彼女はアルムの事が熱烈に好きで、何を根拠にそう考えたのか、アルムが自分の事を好いていると勘違いしていたんだ。ある日、アルムが自分のことを好きだから、自分には特別に接してくれていると、周りに触れ回り始めた。噂は広がった。そのせいで、心無い周囲の言葉で、婚約者のマリアが悲しい思いをした……と言うことは全く無い。」
一瞬、マリ姉にも嫌な思いをさせたのかと、落ち込みかけたのに、無いんかい!
いやいや、無くて本当に良かったよ。
「なぜなら、奴らはバカップルだからだ。周囲というより、学院中、いや、社交界中に知れ渡っている事実。だから、周りはそんなことはあり得ない、あの男爵令嬢は虚言癖持ちだという噂が広がっただけだった。だから、当初はあの令嬢を放っておいたんだ。そしたらそいつが、ムキになって主張を強め、終いには、マリア嬢に嫌がらせを始めたんだ。悪口を言ったり、罵倒したり、わざとぶつかったり。さすがのアルムも婚約者に危害が出たと暴れそうになったんだけど……ギリギリの所で救いの手が出て、彼女は命拾いをした。」
ここまで一気に話し、フーと一息つく。
マリ姉に嫌がらせ……リナの顔色が悪くなる。
「まあ、それを丸く収めたのが、アレクシス殿下だったんだ。カイルから、その令嬢と男装したリナが何度か会ったことがあるのを聞いたらしく、令嬢と会った人物は、町に出るために男装した別人だと本人に教えたんだ。アレクシス殿下は人違いの妄想甚だしい大きな間違いだと主張し、もう嫌がらせをやめるよう説き伏せたんだ。そしたら、彼女、今度はアレクシス殿下に陶酔しちまって、やってはいけない事まで殿下にやりそうになったんだよ。それを聞いた王妃様が激怒したんだ。そして、彼女は自宅謹慎。社交界から、つまはじきになったというわけ。婚礼年齢も考慮して、もう反省しただろうと、社交界に戻してもらえたんじゃないかな?」
「ね、面白かったでしょ!」
ニコッとソフィア微笑みを浮かべているが、目は笑っていない。
正直、リナの中で驚きが全てを勝っていた。
あの男爵令嬢が言っていた、私が人生を狂わせた発言は、いったい何だったんだ?
ただ、マリ姉や兄さんに、やはり迷惑をかけてしまっていたなと落ち込む。
「リナが、あの女のことで気を病む事なんて、全くと言っていいほどなかったのよ。彼女の自業自得だったんだから。リナには落ち度も、原因も完全に無いわ。あの令嬢はアルム様に強く否定されている。あなたは彼女の事を何一つ知らなかったし、気持ちが無いことは態度と断りで示していた。あの女のただの妄想じゃない。それにしても、なんであんなことをリナに言ったのかしら、もの凄く腹立つわ。あの時、このことを知っていたら、あの場で言い返して、殴り返していたのに、凄く悔しいわ。」
ソフィアが怒ってくれる。
「ちょっと、今の話、全て聞いていたわよ。その令嬢の名前を直ぐに教えなさい。可愛いリナの心に、傷を負わせた奴。それに、暴行犯だわ。罪人は葬らなければいけないのよ。」
すぐ後ろに、腕を組んだ母さまがいました。
「ちょっと、アルムと同じなんだけど。」
フィリップが言い終えないうちに。
「いいから、その令嬢の家名を教えなさい。」
母さまがフィリップに詰め寄る。
「母さま、報復は駄目です。落ち着いてください。そっか……彼女、人生が台無しになったわけではなかったのですね。良かった。」
リナがポツリと呟くと、母さまが諭す。
「はぁ、リナはお人好しすぎるわ。そんな社交界からつまはじきに遭うようなことをした娘を心配する事なんて、これっぽっちもいらないのよ。ましてや、あなたを傷つけたのに。あなたの婚姻を制限する事なんて、全くないのよ。」
「母さま……。」
「私もそう思うわ。だから、あなたを思ってくれる殿方を選んでいいのよ。いや、選ぶべきだわ。せっかくいい男に言い寄られているんだから、誘いに乗ってみて、相手を知って選べばいいのよ。」
ソフィアが付け足す。
リナの母が良く言ったと、拍手をする。
「いい男って、私の事?リナ、申し訳ないんだけど、この前の申し出は無かったことにしてもらえる?運命のシャーロットに出会ってしまったんだ。だから、私の事は諦め―――」
フィリップの話を、ソフィアが話をぶった切る。
「ちょっと、あなた黙ってて!シャーリー、この人は無視よ。眼中にいれなくていいからね。それから、さっきから話題に出ているいい男の事は、こいつじゃないから。」
ソフィアがフィリップを指差す。
「そうなの?誰のこと?」
「あなたもブローチ見たでしょ。」
「ああ、そうね。確かに断然いい男だわ。」
シャーロットは理解したようだ。
「断然って……ちょっと、シャーリー?」
そう言うシャーロットの横で悲しげな表情で嘆くフィリップ。
「ダメよ。あの腹黒は駄目よ。もっとロマンチストで、紳士で、大人で包容力があって、強引なのに優しい人が、リナにはお似合いだから。」
母さま、そんな人いません。
リナは心の中でつっこんだ。
いつの間にか、母さまは、侍女に素早く椅子を用意させ、私の隣に腰を下ろしていた。
そして、母さまが参戦した。
「ええー、じゃあ、公爵家の方ですか?」
ちょっとソフィア、それ皆には内緒の話のはずだから。
「そうね、そっちの方が腹黒くないわ。」
母さまの基準って……。
「公爵家?」
ほらっ、シャーロットが食いついたじゃないですか。
「公爵家のリナに釣り合う年齢の男と言えば、シュゼイン公爵家の三男、リッチモン公爵家の次男か、アーハイム公爵家のご子息たちかな?今、相手が決まっていないのは、ハロルド殿だけだったはず……まじか、本命はリナだったのか!?」
あぁ、フィリップが正解を引き当てたよ。
「えっ、えー!!」
シャーロット、驚きすぎだから。
「だから、それは断ったの。もう彼は、私とは関りなんて持ちたくもないはずだわ。私は、酷いこと言って彼を傷つけたから。そんな事をする私なんかが、幸せになるなんておかしいのよ。私の事は自分で考えるから、私の話はもう終わり、母さまも向こうの席に早く戻って。」
母さまが何か言いたげにしていたが、席を移るように急かした。
母さまはソフィアを見た後、ソフィアが小さく頷き、母さまは夫人達のテーブルへ戻った。
それを確認すると、ソフィアがリナに尋ねてきた。
「リナは、この先どうするつもりなの?」
「その話はもういいって……。」
リナのその答えは最初から聞く気はないと、ソフィアは遮って話す。
「どうせ今度は、アーハイム様を傷つけたから、自分には恋愛結婚する資格はないとか言いだすんでしょ。いい加減、恋愛になると理由付けて卑屈になるの、やめなさいよ。恋は機会を逃すと消えてなくなるのよ。もたもたしていると行き遅れるわ。私がいい例なのよ。相手に少々悪いと思っても、惨めな思いをしても、みっともなくてもいいのよ。後悔するより、よっぽどましだから、逃したくないと思ったら、手を伸ばして掴みなさいよ!」
「ソフィー、カッコイイ!」
シャーロットが尊敬のまなざしになっているよ。
なぜか横で、フィリップが苦々しい顔になってるけど。
フィリップ、ソフィアは女性ですよ。
ありがとう、ソフィア。
ソフィアに起きた事実と気持ちを知っているからこそ、この言葉は、凄く心にしみる。
私を心底想ってくれているから、自虐的でも言ってくれた、優しいお叱りの言葉。
感謝しかないな。
「わかった。きちんと考える。」
そういうと、ソフィアはよろしいと言い、紅茶を飲んだ。
リナは逃げるのをやめるようです。
頑張れ、リナ。
次回は、王城、殿下でます。




