リナの秘密
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何とか場を落ち着かせ、フィリップを席に着かせた。
説得により気を抑えてくれたソフィアが
「2人はとりあえず、手紙の交換から始めたらいかが?人となりを知らないと、何にもならないわよ。」
そうアドバイスした。
あっ、その言葉。
先日、知らなくていいと、ハロルドを突き放した私には、かなり重くのしかかる言葉だわ。
「どうしたの、リナ?具合悪い?顔色が悪いわ。」
「うう、実はこの間、お誘いを断った時に、正反対のセリフを言ってしまって、自分の事は知る必要が無いと……今の私には心苦しい言葉だなと。」
「もしかして、リナ、あのタラシを振ったの?」
結構な驚きであったようで、ソフィアの声が思いがけず、大きくなってしまったようです。
「ちょ、ちょっと、ソフィー声が大きいから、母さまに聞こえちゃうから。」
「ご、ごめん。思わず。でも、リナはそう言い出すだろうと思っていたわ。だって、あの男爵令嬢を披露会で見てしまったもの。」
ソフィアには、リナの事は何もかも、お見通しのようだ。
「うん、まあね……だから、もう婚約者を一緒には探せないわ。父さまに、お見合いをお願いしたから。」
「そう……それがあなたの決めたことならーー」
「どういうこと!?何で男爵令嬢を見ると、リナがお見合いするってなるの?」
ソフィアの言葉は途中で遮られた。
声のした方へ顔を向ける。
背後には母さまが腰に手を当て、怒りの表情で立っておりました。
その話を母に聞かれた私は、すぐさま、母の自室へと連行されたのです。
***
さて、これから、私の昔話をしなければなりません。
少し長くなりますが、お付き合いください。
あれは、私が14歳、兄が15歳の時の出来事でした。
私の住んでいる国では、7歳から12歳までが受ける基本教育機関、王立学院初等科というものがあます。
そこを卒業しますと、13歳から18歳までは、それ以上の知識を持ちたい人の為の学校へ進むことが可能なのですが、王立学園初等科とは違い、結構な金額がかかります。
それなので、大抵は大商人の子息や貴族のご子息、ご令嬢が通うのです。
王立学院をそのまま持ち上がる場合、高等科へと進みます。
ほとんどの貴族はそのまま、こちらに入ります。
ここは男女共学で社交界の縮図にもなる学校です。
ちなみに、国の設立した学校ですので、この国の王子は必ずこの学校へ通い教育課程を修めることが決まっています。
まあ、この国の王子は優秀な方が多いので、時間が惜しいと、飛び級でほとんど通わずに卒業してしまうのですが……。
他にも、淑女を目指す女性のみが通う聖女学園や、騎士を目指す者が通う宮廷騎士学校もあります。
兄は、王立学園の高等科、私は聖女学院を卒業しています。
この14歳の頃は、交換ごっこもお手のものになっていて、兄の友人にバレることは、まだ、ありませんでした。
その為、兄のサボり癖の穴埋めに、私はよく駆り出されていたのです。
あの日も、本来なら兄が出向くはずの領主代行業務のひとつ、王都の大商人との商品の確認を、私に丸投げし、王都の商会にお使いさせられていました。
私の家とカイルの家の共同制作品でもあったので、カイルも共に来てくれることになっていました。
私の格好は、兄の代わりなので、貴族に見つからないようにと、兄に借りたお忍びお坊ちゃん風の服装でした。
カイルもそれに合わせていました。
商会の近くの馬車が入れる場所で、馬車を降りて、話しながら歩いて向かっている時でした。
私は横道から勢いよく飛び出してきた女性と、ぶつかってしまったのです。
私とぶつかって、尻もちをついてしまった女性に手を差し伸べ、申し訳なかったと謝罪し、ケガはないかと確認しました。
女性はありませんというので、よかったと言い、ホッとした私は、無意識に笑顔を向けました。
問題が無いようなので、それではと立ち去ろうとしたのですが、女性が私の服の裾を強く掴んでいたのです。
そして何やら周囲をキョロキョロと見回し始め、どうしようどうしようと呟き始めたので、先を急ぎたかったけれど、仕方なく困りごとですかと、声を掛けました。
女性は、付き添いの者とはぐれてしまい、馬車乗り場まで行きたいのだが分からなくて困っていたのだと言うので、近くの馬車乗り場の方へ扇動し、連れて行きました。
向かっている途中で、彼女のはぐれた相手に会えたので、自分はこれで用済みだと、それではと一言いい、踵を返し本来の目的地に向かいました。
この時、出会った女性こそが、あの男爵令嬢であり、この時の私の行動が、後々の悲劇を生むことになったのです。
実は私は、この時、この令嬢が貴族であるとは思っていませんでした。
顔も見かけたことがなく、立ち振る舞いが貴族とは感じられなかったのです。
たいていの貴族は、変装をしていても、洗礼された普段の振舞いが、にじみ出てしまうものなので、観察していると分かります。
しかし、この令嬢は、ぶつかってから起こした後も、移動している際にも、男性の格好の私にとても距離が近く、腕を組もうとしたり、気軽に話し掛けてきました。
言葉使いも初対面とは思えないほど砕けていて、貴族の教育をきちんと受けた者とは到底思えなかったので、私は金持ちの商家の娘なのかな?くらいに思っていました。
その後も、商品の確認に行く度に、男爵令嬢と商会の近くで鉢合わせしました。
最初は、この間は、ぶつかってすみませんでしたと、詫びる言葉を交わしたのですが、その時、先日、親切にしてくれた礼に食事をご馳走したいと言いだしたので、これから仕事があるから無理だと、丁寧に断りました。
5回目に遭遇し、同じく誘われた時に、さすがにこれは偶然ではないと感じ、彼女は自分に会うために、わざわざ待ち伏せをしているのではないか。
自分に好意を持っているのだろうと、気がつきました。
私は女だし、今は男装。
このままだと、兄と勘違いされてしまうかもしれない。
兄に迷惑がかかってしまう。
それなので、厄介ごとにならないようにと、お礼はいらないと一度はっきり断り、その後は声を掛けられても、軽い会釈だけで、去るようになりました。
途中で、カイルに、彼女はアルムや自分と同じ学院に通う貴族であったと教えられ、これ以上関わらず完全に無視するようにと指示されたので、出来るだけ避けました。
それは商会との商談がまとまる、半年間続きました。
月日は流れ、会わなくなってから半年後のことでした。
私はその令嬢と、偶然、歌劇場で再会してしまったのです。
私はオペラを見に、ソフィアと赴いていました。
歌劇場前で馬車を降りたところで、彼女とばったり鉢合わせしたのです。
彼女は私に気が付き、瞬時に険しい顔をした後、私の腕を掴み、道の端まで引っ張って連れていきました。
そこで、彼女は私に、こう言い放ちました。
「お前があの時 私をだましたから、アルム様に嫌われ、捨てられたのよ。そして私は社交界に出られなくなったんだ。お前のせいで、私の人生は台無しだ。全部お前のせいだ。お前が悪い。一生恨んでやる。」
そう言って、頬を強く叩かれたのです。
口の中に血の味が広がりました。
連れていかれた私を追ってきてくれたソフィアが追いつき、一度叩いただけでは気が済まなかったのか、再度叩こうと手を挙げた令嬢から、私を引き離してくれました。
その後、警護の者に押さえつけられた令嬢が激しく叫んでいましたが、私は放心状態で、何も聞こえていませんでした。
他にも色々ありましたが、このこともあり、兄さんに変装することをやめたのです。
兄に強く頼まれた、王城への月一報告以外は……。
この令嬢とのことは、兄には言っていません。
自分の所為で、迷惑をかけてしまった負い目もあるし、知られるのが怖かったのです。
あれから二年経ち、すっかりこの事を忘れてしまっていたようです。
我ながら薄情だと思います。
鶏頭です。
そして、先日の舞踏会であの男爵令嬢を見てしまい。
そのことを思い出したのです。
私は、一人の女性の人生を、壊した者なのだと。
自分が婚約者を求める立場になり、社交界にその時期に出られない事がどういうことを示すのかを、やっと理解したのです。
今まで、兄に対しての迷惑ばかり考えていたけれど、彼女にしでかしたことの重大さに、今さら気がついたのです。
あんなに怒るのも仕方ないことであったのだと。
「ですので、私は父さまの決めた方と結婚をいたします。相手の方の私への好意などいらないのです。我が家にとって利益になる相手との結婚を望みます。」
母の目を見て強く主張する。
「ですが、リナ。結婚は夫婦の間に愛情や信頼関係が必要になるのよ。もう少し、考えてみてはどうかしら?」
「どんな相手でも、信頼関係を築く努力をいたします。」
「……分かったわ。では皆が帰った後、もう一度話しましょう。」
ひとまず今は折れてくれたようだ。
「母さま、このことは、兄さんには絶対に言わないでください。悲しませたくないし、迷惑を掛けたくありませんので。」
そうリナが言うと、母さまは、リナの頭を手で優しくポンポンとし、お茶会会場へとリナの肩を抱き、戻ったのだった。
ちょっと、シリアスでした。
すみません、あと少しです。
次回、解決します。




