助けてくれたのは、王子さまでした
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声がした方に目を向けると、
そこには第1王子、アレクシス殿下が手を差し伸べて立っていた。
リナは驚いたが、彼が助け船を出してくれていると気が付き、手を取った。
「はい、喜んで、アレクシス殿下。」
手を引かれ、その場から遠ざかる。
元居た壁側の場所をチラッと見ると、ソフィアとシャーロットが2人でいるのが見えた。
どうやら私が話している間に、ソフィアがシャーロットを迎えに行ってくれたようだ。
一安心。
「アレクシス殿下、ありがとうございました。もう少し歩いたら、離れますので。」
「そんなこと言わずに、折角だから一曲踊ってよ。私も少し話をしたいし、先程の男性陣もまだ見ているかもしれない。いいかな?」
殿下にダンスを誘われたら断れない。
リナは頷き、手を引かれ、ダンスの輪へと入っていく。
曲が始まり、踊り出す。
「君は、男性のステップも出来るの?男装するだろ?」
いきなりの質問に驚愕した。
「あっ、はい。出来ます。えっ、あの、その、殿下は、男装のことを知っていらしたのですか?」
「ああ、知っているよ。私は、アルムの親友だからね。」
「しん…ゆう…そうですか……では、エドワード殿下も?」
「さあ、本人に聞いたことがないから、分からないな。」
「そう、ですか。」
そう呟くと、リナは黙った。
変装のことをエドワード殿下が知らなくても、アレクシス殿下に知られている以上、バレるのは時間の問題だ。
すぐにでも登城をやめるべきなのか。
もし、エドワード殿下が知っていたならば、なぜ何も言ってこないのだろうか。
ぐるぐると頭の中で悩む。
「うん、まあ、私から弟に告げる事はしないし、弟が知っていても知らなくても、君が考えるような悪い方向にはならないだろうから、もし弟が知っていて君を近くに置いているならば、何か考えがあるのだろう。弟に付き合って今まで通りにしてあげてほしい。」
「……はい。」
「それと今日は、弟のあげたブローチを着けてきていないのかな?」
「はい、母さまに今日のドレスは胸元が開いたものでブローチは合わないから、別の機会に着けなさいと言われたので。」
「そうか、あれを着けていれば、さっきのようなことも、少しは防げると思うよ。ブローチではなくアクセサリーにするべきであったと、弟に伝えておこう。ああ、それと、今度、王城で私と弟の為に、母上がお茶会を催すのだそうだ。おそらく君にも招待状が届くだろう。その時にでも、あのブローチを着けてきてくれないか?弟が喜ぶから。今日のように着けるなと、言われてしまうかもしれないから、家族には内緒でね。」
そう、最後の方に殿下が近づき耳元で優しく囁いたので、思わずリナは顔を赤らめ萎縮し、
「はい、承りました。」
と、咄嗟に返答してしまった。
その時、曲がちょうど終わり、殿下に手を引かれ、ダンススペースを後にした。
すると、カイルがスッと現れる。
「よっ、来てたか。」
「ええ、カイルも。お仕事だったのね。」
「まあな。従兄には会ったか?」
「いいえ。ハロルドは沢山の可憐な花達に囲まれているから、お邪魔虫はしないわ。」
「ははっ、まあ、そうだな。」
いつものように、カイルと軽口を叩く。
「リナ嬢はアーハイム殿と親しいのか?」
殿下が入ってくる。
「親しい?仲は良いですよ。カイルの従兄ですし。」
「そうか……。」
そんな話をしながら、リナをソフィア達のもとへ送り届けてくれた。
「では、私はこれで、リナ嬢、約束を忘れないようにね。」
「はい、あの、殿下、助けていただきありがとうございました。」
「なんてことない、君は可愛い妹だからね。」
殿下はそういうと、カイルと共に颯爽と群衆の中へ消えていった。
「妹ってどういう意味?」
ソフィアが聞いてくる。
「ああ、殿下は兄さんと親友だって言っていたから、それでじゃないかな?」
「ふーん、それと約束って?」
「なんか、今度、王妃様が、殿下達の為にお茶会を開くらしいんだけど、その時に招待されるだろうからブローチをつけてきてほしいって。」
「ブローチ?」
「そのお茶会、私も参加すると思います。」
そう会話に入ってきたのは、シャーロットだった。
「あ、シャーロット様、さっきは声を掛けておいて、ごめんなさい。」
リナは慌てて謝罪する。
「いいえ、リナ様、私を迎えに来てくださったのに、大変な目に遭われて。私は助けもせず、申し訳ございませんでした。」
シャーロットが深刻そうに謝る。
「何を言ってるの、あれは完全に、私のミスだから。いつもならば、容易く逃げられるんだけど、さっきは会話も、しくじってしまって、墓穴を掘ったわ。だから気にしないで。それより、シャーロット様もお茶会に?」
「ええ、先程。父と殿下の会話を聞きましたの。身分の良い令嬢達を集められるとの話でした。私はこの通り、人見知りですので、父が心配しておりまして。」
「人見知り?私にはしてないわね。」
リナが不思議そうに問うと
「そ、そうですね。リナ様は不思議と大丈夫ですね。」
「リナは人じゃなくてゴリラだからじゃない?」
「なにそれ、酷いわね。」
ソフィアがそうふざけて言うので、リナが膨れて、ソフィアがコロコロ笑う。
もうっと、リナも笑いだす。
その光景にシャーロットもクスクス笑った。
シャーロットを見て、2人も笑う。
「シャーロット様、私の事は様はいらないから、リナと呼んで。あと言葉も楽でいいから。」
「私はソフィーと。私達は、かしこまるほどの出来た人間じゃないからね。」
「フフッ、分かったわ。私の事は、シャーリーと呼んで。」
「ちょっとちょっと、隅っこ仲間が増えてるじゃない。」
そこにクリスティーナが戻ってきた。
早速、シャーロットに話し掛ける。
「私、クリスティーナ・リンジー。クリスって呼んで。」
「あっ、シャ、シャーロット・モ、モ、モ、モントローズです。シャ、シャーリーと。」
「シャーリー、よろしく~。」
人見知りのシャーロットに臆することなく、ニコニコと挨拶している。
さすが、凄腕諜報員。
感心していると
「ちょっと聞いて、さっきのハロルド様の出来事、あのあとの詳細を聞いたのよ。あの一緒に消えたご令嬢、あの騒動で、靴のヒールが折れてしまわれたとかで、ハロルド様がエスコートして、会場から連れ出してくれたそうよ。凄いわ~。紳士過ぎて感心したわ~。」
クリスティーナ諜報員の報告が始まった。
「でも、他の令嬢たちには、そう目に映ってないでしょうね。あの令嬢は、確か男爵家でしたよね。あの熱烈令嬢たちから、いじめにあわないとよいのですが。」
「大丈夫じゃない?誤解がないようになのか、アーハイム様、好感度急上昇の訂正情報がそこかしこに巧く流れてるし。」
「抜かりが無いのね。」
「まるで、どこかのご令嬢のような手腕ね。」
リナがチラッとソフィアを見ながら言う。
フンと、面白くない顔をする。
「ははっ、確かに。」
「ちょっと。クリスまで。」
プーとソフィアがむくれる。
「ごめんごめん、それはそうと、さっき聞いた驚きの情報なんだけど。第1王子の婚約者、メイデン王国の第3王女が自国の騎士に惚れ込んで、既成事実を作ったらしいのよ。それがつい最近の事で、もうすでに両国で話し合いは済んで、婚約破棄はなされているけど、まだ国内では正式な発表をしていないのよね。何でも、この噂が広まって、捨てられた情けない王子って囁かれる前に、婚約者を選定し、決まり次第すぐに発表するって話らしいのよ。」
クリスティーナがソフィアを宥め、話を逸らすのに凄い情報を口にした。
「あ~、そういうお茶会なのか。」
「王妃様のお茶会、かなり大変そうね。」
「ええ、憂鬱だわ。」
おそらくクリスティーナ以外は、王族と婚姻できる爵位の家の令嬢であり、婚約者がいない者だから、きっとソレへ呼ばれるだろうと考えられたのだ。
揃って、はーっと、同時にため息をついた。
何々、何の話?と、さっきの話を聞いていないクリスが興味津々と言う顔をしていた。
王妃様のお茶会があることを教えると
「あ~、また爵位が弊害…行きたかったなあ~。絶対に面白いこと確実なお茶会。」
クリスが羨まし気に話す。
「代わりに情報収集してくるわよ。」
「さすがソフィア。期待して待っているわ。」
彼女達と話をしている間にも、視界の隅に、あの令嬢を隣に置いて、煌びやかな令嬢達に取り囲まれているハロルドがいるのを、確認していた。
こちらに気が付いているような気がしたが、こちらからは目を会わせないようにしていた。
グラスを給仕に渡した時に、一瞬、視線が合ったけれど、気づかなかったふりをして流す。
それから兄が呼びに来たので、それぞれが家族のもとへと戻り、会場を後にした。
翌日、ハロルドに、植物園行きの断りの手紙を送った。
王族と婚姻できるのは、伯爵以上の爵位のご令嬢。
という設定です。
ハロルド・・。




