ハロルドと男爵令嬢
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クリスティーナが指さす方向を見ると、ハロルドがいた。
「先月、婚約者候補の令嬢を集めたお茶会を、彼の為に開いたそうだけど、気に入った令嬢が居なかったようね。婚約者の席は、まだ空席のままだとか……彼は優良物件だから、狙っている令嬢が多いのよね。ほらあそこの目が痛いピンクのドレスの方、あの方は、アーハイム様に婚約者がいた時から、ずっとアピールしている強者の一人よ。その他にも熱烈な追っかけが何人かいらっしゃるわ。」
目を向けると、その令嬢が、他の令嬢を押しのけて、ハロルドの前に強引に行こうとしていた。
その時、ハロルドの前にいた令嬢が、バランスを崩し、倒れそうになる。
ハロルドが、令嬢の手を咄嗟に捕まえ、もう片方の腕で背中を支えた。
小さく悲鳴があがる。
「あの令嬢……。」
リナが小さく呟く。
その声にソフィアが気付き、
「ええ、あの時の男爵令嬢だわ……社交界に戻っていたのね。」
そう扇で口を隠し、呟いた。
ハロルドが令嬢の体勢を整えた後、何やら2人で親しげに話をしている。
すると、ハロルドがダンスを誘う姿勢をして、令嬢の手を引き、集団から連れだし移動していった。
一連を見ていたリナは、サラッとその行動をするハロルドは、やっぱり女性の扱いに慣れているのだと、改めて感じた。
そう、自分にも、そうであったように。
何も自分が特別では無かったのだ。
「いやー凄いわ。あっという間に、2人で抜け出たわね。」
ソフィアが感心していた。
リナも、うんうんと頷く。
「そうだわ。私、婚約者候補の令嬢を集めたっていう、そのお茶会に参加したわよ。」
そう、リナが切り出す。
「そうなの、どうだった?」
「どうって言われても、お菓子と紅茶が凄く美味しかったわね。」
「そうじゃなくって、誰が来ていたとか、アーハイム様がどの令嬢と仲良さげにしていたとか、話し込んでいたとか、どんな会話をしていたとか。」
「クリス、そういうのはリナには持ちえない情報だわ。」
「そりゃそうね。」
ソフィアがつっこみ、クリスティーナが軽く相づちをうつ。
「なによ。それに、それどころじゃなかったし。そうだわ、エドワード殿下が来たのよ。」
ムスッと不機嫌になりながら発したリナの言葉に、驚く2人。
「だから、ハロルドのお茶会に、エドワード殿下が来たのよ。それで、ハロルドは婚約者選びどころじゃなくなっちゃって、私も先に帰ってきたわ。」
「何それ、面白そう。詳しく聞きたい。」
クリスティーナがワクワクした目で見てくる。
とりあえず、お茶会での出来事を2人に話した。
「愉快なお茶会だったのね。直接見たかったわ。」
そうクリスティーナはいい、ソフィアは黙っていた。
そのあと、もう少し情報収集してくると言って、クリスティーナは人混みへ突進していった。
2人でその後姿を見送っていると、
「リナ、さっきの話、続きがあるんでしょ?」
と、にこやかに語りかけてきた。
「なんでわかったの?」
「あなたがハロルドって呼んでいるからよ。」
扇で口元を隠しニヤリと笑い、さあ、早く話しをしなさいと、私にせっつくソフィア。
仕方なく、家に来たことや遠乗りのこと、植物園の事を小声で話した。
「さっきの女慣れしているところからして、私は2人で会う誘いは、断るつもりでいるわ。変に勘違いして、気があると思われても困る。私より良い令嬢は、あの通りあの人の周りには沢山居るし、婚約者には私より、もっと見合う娘を選ぶべきなのよ。その為にも、私なんかにかまう時間が勿体ないと思うの。」
「リナ、まだあの事を気にしているのね……そう、あなたがそう考えるならいいんじゃない。恋は、その瞬間しか出来ないし、楽しみ、苦しむものだもの。」
ソフィアには隠し事は出来ないなと思いながら、それ以上は聞かないでいてと、話題を変えた。
話していると、遠目にシャーロットが見えた。
「あ、シャーロット様だわ。さっき話しましょうって、お誘いしたの。呼んでくるわね。」
いってらっしゃいとソフィアに見送られ、シャーロットのもとへと向かった。
すぐ目の前にシャーロットが見えて居て、名前を呼ぶと、彼女も自分に気が付き、パッと晴れやかな顔を向けてくれた。
だが、その瞬間、私の視界に大きな黒い壁が現れた。
急いで歩みを止め、上を見上げると、そこにはどこぞの子息たちが道を塞いでいたのだ。
まずい、ここは危険地帯であったか、そう考え、ああ失敗したと後悔した。
いつもはこういう輩に絡まれるのが億劫なので、ソフィアやクリスティーナと会場の隅に逃げているのだが、ここは彼らのお誘い地帯であったようだ。
自らホイホイへ、入ってしてしまった。
「お久しぶりです、リナ嬢。今夜は参加されていたのですね。僕らはとても運がいいようだ。会えてよかった。」
「ええ、今夜は辺境伯夫人に招待を受けましたの。ですので今から伯爵夫人の所へ話に行くところなのですの。」
手早く逃げたいと、策を講じた。
だがしかし、
「先程、夫人はシュゼイン公爵夫人とお話しを始められましたよ。まだまだかかりそうでしたので、その間に私達とお話ししませんか?」
しまった墓穴を掘ったと焦ったが、笑顔を作り、では少しだけと話すことになってしまった。
頑張る子息達は、最近の流行りものや領地の自慢などを途切れることなく聞かせてきて、流れはいつの間か、リナの婚約者の話になっていた。
「婚約者ですか?」
「ええ、そろそろリナ嬢も決められるのではと、もとより、すでに決まっているという事はあるのですか?」
「いいえ、まだ決まっていませんよ。私のようなものを気に入ってくれるような奇特な人がいらっしゃらないので。」
「それでは、私が名乗りをあげたいな。」
「私も、私も候補に。」
「僕も、リナ嬢ならば、皆、競って立候補いたしますよ。」
「まぁ、ご冗談を、フフフッ。」
扇で口元を隠し、にっこり微笑む。
もう、立ち去りたい……。
「そろそろ、夫人のもとへ行かないと。」
「そんな、もう少しお話を、いや、一曲だけ、一曲だけでよいので、僕と踊ってくれませんか。」
「それならば、僕と。」
「いやいや、私と。」
その時、彼らの後ろから、
「では、私と一曲いかがでしょうか?」
と、声がした。
声を掛けてきたのは、いったい誰だ。




