これで正解?
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「最悪だ。」
「何が最悪なんだ?」
声のした方を振り向くと、もの凄く激怒な顔の殿下がおりました。
しまった、呟きを聞かれたか。
「それで、何か困りごとかい?彼らが何かしたのかい?彼らとはどういった関係なんだい?」
殿下がにらみをきかせながら聞いてくる。
「何も問題はないですよ。彼らは学院で知り合った友人達です。」
まさか男装時に、猥談を聞かせてくる変態達ですとは言えないから、安易に返すと、
「本当か?それだけか?」
殿下はカイルに聞いた。
「はぁ、本当ですよ。たく、あいつら意外に実力があったんだな。ここで会うとは予想外……。」
カイルが返事をしたあと、ゴニョゴニヨと何やら呟いている。
「それで、最悪なこととは?困りごとがあるのか?」
殿下が質問をぶり返してきたので、
「いいえ、何もありません。」
無表情で端的に返した。
殿下はじっと見てきて、私が言うまで待ちそうだったが、今の私は兄さんキャラだから、余計なことはしゃべらないのです。
それ以上は聞くなという雰囲気を醸し出せるのです。
殿下は口をパクパクさせ、何か聞きたい様子であったが、グッと我慢している様子で、それ以上は聞いてこなかった。
心配を掛けたのだろうか?と、少し申し訳ない気持ちになった。
「殿下。ここにいらっしゃいましたか。」
副団長さんが戻ってきた。
ナイスタイミング副団長。
「殿下の対戦相手ですが、ガイムという男でよろしいでしょうか、まだ隊長クラスではありませんが、実力はありますので、よい鍛錬相手になると思います。」
「ガイム?先程の大男か?」
殿下が聞てくる。
あれ?殿下いつから聞いていたんだろう?
まあ大した話はしていないし、いいか。
「他にガイムと言う人物が居なければ、奴ですね。」
カイルが答えた。
「では、ほどなく始めますので、あちらのお席でお待ちください。」
といって、副団長は、他の騎士達に声を掛けに行った。
席まで移動しながら、
「何が始まるの?」
私が小声でカイルに聞く。
「あぁ、今から鍛錬がてらの、模擬戦をするんだ。」
模擬戦か、あれ?さっきの殿下と副団長の会話って、
「まさか、殿下も参加されるのですか?」
驚いて殿下に尋ねると、
「あぁ、体を動かしたい気分だからな。」
殿下が飄々と答える。
「ガイムが相手って話は……もしや。」
「そう、殿下の模擬戦の相手がガイムだよ。」
カイルが声を拾って、教えてくれる。
大丈夫なのかな、殿下。
殿下って執務室でしか見たことないし、動けるのだろうか?
リナは顔色を曇らせ心配する。
だって相手はガイムらしいし。
ガイムは昔からパワーが熊並みだから、殿下、ケガをしないといいけれど……。
副団長が用意してくれた席に腰を下ろす。
リナの隣は殿下だ。
ふと見ると、手にハンカチを握りしめている。
緊張しているのだろうか?
私がハンカチを見ていることが分かったのか、殿下が
「これは、そうだよな、今は必要なかったようだ。」
そう言ってハンカチをしまった。
何に必要だったのか?
模擬戦が始まる。
実力の近い者が一対一で戦い、決着がついたら、次の試合と、どんどん進められていくようだ。
拮抗した実力のある者同士は、見ごたえのある戦いっぷりだ。
頭を狙ってはいけないルールが一応あるが、潰した刃の剣での戦いとは言え、体に当たると、かなり痛そうである。
痛そう、見ているのが辛いな。
表情に出ないようにしないと、兄さんキャラが崩れそうになる。
「あっ、フィリップだ。」
「あいつの相手、マジかよ。あいつ、昔から本気出さないし、鍛錬もすぐサボっていたから、実力がよく分からなかったんだよ。この模擬戦に出るってことは、騎士団でも上位だって分かったけど、まさか、相手が騎士団の小隊長だぞ。凄いな。」
カイルが少し悔しそうに話す。
どうやら、この模擬戦は実力ある者しか出られないようだ。
騎士団でも小隊班長以上の実力者が出場している。
ちなみに今日は、団長らは参加していない。
団長らは、気分で参加することもあるらしい。
フィリップやガイムなどのように隊長職についていないが、人数合わせで、次期班長候補の実力を買われ出場している若い騎士も数名いるようだ。
「おお、剣裁きがかなり巧いな。楽勝じゃねーか、あいつ、マジかよ。」
カイルが嬉しそうに語っている。
私のフィリップの印象は、昔も今も変わらず最悪だ。
確か、意地悪くて全てにおいて緩い奴だったとしか記憶していないけど、剣の優れた才能があるようでなによりだ。
無表情でぼんやり見ていると、殿下の名前が呼ばれた。
殿下がスクッと立ち上がると、わぁっと歓声が起こった。
あれ?殿下は意外に人気者?と思っていると、隣のカイルが
「殿下、ああ見えて、かなり強いぜ。まぁ、見てみろって、驚くぞ。」
そう耳打ちしてきた。
「でも、相手は殿下の倍ありそうなバカ力のガイムだよ。ケガしないかな?」
「はは、要らぬ心配だな。ほら。」
話している隙に始まっていたようで、カイルがほらと言った瞬間、殿下に目を向けると、勢いよく振り下ろすガイムの剣を全て軽く受け流し、ガイムの懐にあっという間に飛び込み、とどめだと剣を喉元に突き刺す寸前のところだった。
ドスンという音と共にガイムが尻もちをつき、あっという間に参りましたとなっていた。
讃える声や拍手、指笛が高々と鳴り響く。
「どう?少しは殿下を見直した?」
カイルに聞かれる。
「見直すって、殿下のことを?そうね、書類仕事しかしているところを見ていないから分からなかったけれど、剣技がとても得意なのね。知らなかったわ。」
内心、今までのギャップから男らしく素敵♪であったと思っていたが、今の格好はアルムだし、カイルに聞かれるのは少し恥ずかしく、声に色を付けまいと淡々と話してしまった。
カイルがなぜか不服そうにしていた。
何、その表情?何か間違った?
そこに殿下がニコニコしながら戻ってきた。
目の前に来ると、何か言ってほしそうに、キラキラした目で見て来る。
カイルが何か言ってやれと、目配せを見て来るので、
「殿下、剣技が達者なのですね。えっと、凄く見直しました!」
さっきのカイルとの会話を若干反省しつつ、そう言うと。
「そうか!」
と、本日二度目のニコニコ笑顔で殿下は嬉しそうに返事をし、
いつもの王族スマイルではない、満面の笑みを浮かべていた。
「これで正解?」
カイルに耳打ちし、質問すると、カイルは遠い目になって、返事をくれなかった。
やったね、殿下。




