騎士団訓練所にて
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執務室に戻ると、殿下とカイルが何やら話をしていた。
「どうかなさいましたか?」
私は尋ねながら、自分の席に着こうとしていると、
殿下がスっと傍に寄ってきて
「これから気晴らしに騎士団訓練所へ出向く、ついてまいれ。」
と言い放った。
私は、いつものようにカイルが止めに入るだろうと思い、座って黙っていたのだが、何も音沙汰がない。
あれ?おかしいなと、カイルを見る。
「ついていってやれ。」
小声で言われた。
カイルがそう言うので、
「分かりました。」
と従った。
その間、殿下は涙目で私を見ていようだ。
さっきの嫌いにならないで云々のあとだ、また気にしだしたら厄介だ。
直ぐに返事しなくて、ごめんなさい。
騎士団か……。
ああ、そうか、きっと、私には言えないと言う殿下の悩みのことでの行動なのだろう。
それとも、執務に何か関係することなのだろうかと、アレコレ考える。
執務室を出たところで、隣のカイルに事情を説明してよという目を向けると、いいから黙ってついて行けと小声で言われた。
殿下の斜め後ろを歩きながら、騎士団の訓練所まで向かった。
訓練所に着くと、
「エドワード殿下、お待ちしておりました。」
二十代後半の青年が駆け寄ってきた。
第一騎士団、ジル副団長だそうで、適度な筋肉、小麦色の肌に白い歯、実に爽やかな好青年であった。
さあ、こちらですと案内され、整えられた土の長方形の敷地で、四方が観客席に囲まれた場所に連れてこられた。
敷地には50人ほどの男たちが集まっている。
「これからか?」
「はい、殿下も参加されると聞いておりますが、いかがなさいますか?」
「ああ、出来れば参加をしたいのだが。」
「分かりました。すぐに相手を選抜いたします。」
そういって、後ろに控えていた騎士に、殿下を頼むと伝えると、副団長は騎士団本部へ向かって行った。
「あっ。」
カイルが突然声を出した。
カイルの目線の方向に目をやると、ダークブラウンの髪を小さく一つに束ね、騎士にしては知的な面構えをした知人が、そこにいた。
カイルが、そいつから目線を外し、私を見る。
2人でアイコンタクトをして、そっと、殿下から距離をとった。
「フィリップだな。」
「だね。」
奴に気づかれませんようにと、小声で話をしていた。
願いもむなしく、その男がこちらに気が付いたようで、小走りに近づいてくる。
私はカイルの後ろにそっと身を隠す。
「やあ、カイルじゃないか、あれれ、若く実力のある将来有望株、出世頭、第一王子の近衛騎士だろう?そんな君が何故こんなところにいるんだい?」
カイルは近衛騎士の服を着ているから、ここにいると目立つ。
「まあ、色々あって。」
カイルは苦笑いし、手短に返した。
さぁ、もう話は終わった。
早くどこかへ行ってくれと言わんばかりに話しているのだが、そんな様子はお構いなしと言った具合に、フィリップは適当な話を出して絡んでくる。
その時、カイルの後ろに隠れるようにしていた私に、フィリップは気が付いた。
「へ?」
幽霊でも見たのかと言うくらいの驚いた表情をした。
彼は、兄の学院時代の友人で、リナとアルムの悪戯に、よくあっていたうちの一人だ。
おそらく、私の家族とカイルの家族以外で、彼が一番初めに入れ替わりに気が付いた人物である。
彼が初めてリナの変装に気づいた時の衝撃は今でも忘れない。
かなり癖のある人なので、私は彼がもの凄く苦手だ。
「なんで?リ、ぐぇ」
「やあ、久しぶり、フィリップ。元気かい?」
私は彼が話す前に、彼の足を思いっきり強く踏んだ。
とにかく今はそのことに触れるな。
話を合わせろと、少し近づき目で訴える。
彼はフッと笑い、理解してくれたようで、
「あぁ、この前の伯爵の夜会以来だ。婚約者とも変わりはないかな。」
返してきた。
良かった合わせてくれたと、ホッとしたのと、内心では動揺が治まっていなかったのとで、適当なことを口走る。
「あ~、彼女は見る度にますます綺麗になっていくから、攫われないかと心配だ。な、なあ、カイル。」
「え、あ、ああ、姉さんのことか、ああそうだな。」
しまった!カイルにマリ姉の話をふるんじゃなった。
バカップルだからって、ナンパヤローみたいなセリフを言ってしまったし、カイルに美しい姉の話しをしても困るだけだわ。
うわぁ、焦る。頭、ちゃんと働け。
顔が崩れそう。頑張れ、ポーカーフェイス。
ん?なんか、殿下もこっち見てる。
何、その怪しんでいる顔、凄く嫌だな。
よし、よし、切り替えよう。
「それより、君が騎士だなんて驚いたよ。昔は眼鏡も掛けていたし、文官になるのかと思っていたよ。」
「ああ、今は剣を振るうのに邪魔だし、アレは今のお前と同じ、唯のガラスの眼鏡だったから、ホラッ、眼鏡かけていると、弱そうに見えるだろ?その方が学生時代は都合が良かったから掛けていたんだ。」
リナを指さしながら話す。
「まあ、僕は弱そうに見えるけど、うちの父さまみたいな人もいるからね。」
学生時代は敢えて弱いふりをしていたって事か。
やっぱり、何考えているのか、さっぱり分からない人だ。
「お前の父親は、アレは規格外だから。まあ、本来の私も、じっとしているより、色々と動いて、ヤる方が好きなんだが。」
フィリップが何か言っているけど、最後の方は無視だ。
内心、生唾飲み込んでいるけど、反応しちゃダメだ。
「ハハッ、すまん、すまん。流石に今は表情を変えないか。まあ、文官やって書類仕事するより、体を動かす方がいいってことだ。皆、そうだろう。」
フィリップが悪いとは一切想っていないだろう口調で謝る。
いつもコイツは、人を逆撫でする事を言ってくる。
腹立つ。
「ああ、僕以外はね。」
リナは無表情でアルムになりきり、淡々と答える。
そこにドタドタと足音が近づいてきた。
カイルがそちらを見て、
「あっ。」
と、声を上げる。
カイル、その反応、二度目だからと、心の中で突っ込んだ。
リナも足音がする方を見た。
アイツもいるのか!?
「おおい、フィリップ、副団長が呼んでいたぞ。んん?カイルとアルムじゃないか、こんな所でなにしてんだ?」
そう言いながら、何に使うのかよく分からない大きな樽を両脇に抱えた、筋力バカな大男がやってきた。
彼の名前は、ガイム。
こいつも私にトラウマを植え付けた兄の学友の一人だ。
そして、男に一切、良い幻想を抱かせなくしてくれた人だ。
こいつは男しかいない時、エグイ猥談しか話さない。
ふたりっきりとか、拷問でしかない。
こいつも兄さんの悪戯の被害者だが、未だに私の変装を見破れない、おバカな男だ。
フィリップは、迎えが来てしまったかと、名残惜しい顔をしたあと、
「あぁ、分かったよ。今行く。カイル、アルム、あとで話しをしような。」
そう言った。
リナはフィリップと対面し、緊張していたせいか、話が終わると思い、気が緩んだ。
「あぁ、そうだな。」
気が抜ける返事をしてしまった。
それを聞いて、フィリップはニヤリと笑い、またなと、本部の方へ走っていった。
「お前は行かないのか?それ、運んでいる途中だろ?」
カイルがガイムに目を向け尋ねると、
「ああそうだった、忘れてた。」
ガイムは慌てて樽を持って走っていった。
はあ、よかった……いや全然よくないよ。
ガイムはともかく、フィリップにバレた。
「最悪だ。」
リナは思わず声に出して、愚痴をこぼしていた。
遂にフィリップが出ました。
地味に好き。
次こそ殿下が頑張ります。




