遊びにきちゃった
お読みくださりありがとうございます。
今日、王城勤務はありません。
もともとお休みの日です。
休みでよかった。
兄さんがあんなに取り乱した後だったので、すぐに殿下に会う度胸は、私にはありませんでしたから、今日は兄さんと作戦会議の予定でした。
だがしかし、なぜ、なぜ、我が家にこの人が居るのでしょうか?
「いや~、昨日あまり話が出来ないままだったから、会いに来てしまったよ。仲良くなるって約束しただろう?」
「ええ、約束しましたね・・。」
ですが、昨日の今日で、なぜ我が家に来たのですか?
ハロルド・アーハイム。
「はははっ、リナ嬢は社交辞令だったのかな?寂しいな~。」
「いいえ、カイルとマリ姉の従兄ですもの、仲良くしたいのは本音ですよ。アーハイム様。」
「でも、さっきから、やたらと冷たくない?あっ、僕の事はハロルドって呼んで。私はリナって呼ぶから。」
「冷たくないです。ただ少し、距離感に戸惑っているだけで、それでは、ハロルド様と。」
「え~ハロルドでいいのに、まあいいか。」
その会話を横で聞いている兄の背後に、もの凄く毛の逆立っている大きな黒の獣の影が見えるのです。
私は兄の逆鱗に触れないように、冷静に淡々と対応しているのです。
そんな兄のことをカイルが宥めます。
「まぁまぁ、アルム、そんなに威嚇しなくても、彼はリナを取って食べないから。」
「そうよ、アル。ハロルドがリナに触れようものなら、鼻血が出るまで、私が蹴りをお見舞しますから、安心なさい。」
兄の隣に座るマリアも、兄を落ち着けさせるために援護します。
マリ姉、サラッと怖いこと言っていますね。
ハロルドは彼らに挟まれている状態です。
「ふ~、それで、ハロルド殿は我が家に何しに来たのかな?」
少し落ち着いたようで、アルムが質問すると、
「だから、さっきも言っている通り、リナと仲良くなりに来ただけだよ。」
と言って、ニコッと私に微笑んだ。
兄が、スンッと、無表情に戻り、額に青筋が浮かぶ。
「そんなわけないだろう。あんな見合い茶会の翌日に来るなんて、リナを狙っているのだろう?成敗してくれるわ!」
兄さん、成敗って……。
だんだん顔と裏腹に声に力が入って乱暴になっていますよ。
親しくない相手なのに、地が出ています。
「落ち着いて、兄さん。」
机の横に配備してあった剣を掴み、今にも鞘から抜こうとしている状態で、少し椅子から腰を浮かせた兄を、横に座っている私は慌てて止めた。
そんな内心取り乱す兄の前で、ハロルドは冷静であった。
「確かに、昨日の茶会は婚約者の居なくなった私の為に、公爵夫人が出会いの場として用意してくれたものであった。しかし、本当にただの出会いの場であり、直ぐに婚約者を決めるというものではなかった。だから、昨日は気の合う娘に出会えたらいいな~くらいの気持ちでいた。それだけだ。」
淡々と話し出したハロルドに、皆が注目した。
「それに昨日、リナとは、ほんの一瞬しか会話をしていない。気に入るも何も、彼女の事を何も知らないから、狙うも何もない。ただ、従兄のマリアやカイルが、えらく心を開き、大事にしているのが分かったので、興味が湧いたのだ。だから、彼女の人となりを知るために今日ここに来た。」
家に突然来た理由を説明した。
「ほら、やっぱり、婚約者候補にしたいと考えているじゃないか。リナはまだ誰にもやらん。さっさと帰れ!」
アルムが吠える。
「落ち着いて兄さん、ハロルド様は、従兄が親しくしている相手が気になったから来てみただけで、婚約とかは関係ないわ。」
私もその気もないので、兄を宥める。
その言葉にハロルドが反応した。
「そうとは限らない、私が君を知って、君を気に入って、君も私を受け入れたならば、婚約を申し込むかもしれない。だってリナも婚約者は居ないのだろう?問題ないだろう。」
そういえば、私も婚約者を探さなければいけなかったのだと思い出した。
「……それも、そうね。」
私が小さく呟くと、紅茶を飲んでいたカップを皿の上に置いたカチャンという接触音が、部屋の隅々まで聞こえるくらい、静まり返った。
その沈黙後、兄が暴れそうになったので、マリアが兄を部屋に回収して、私とハロルドとカイルでお茶の続きをした。
自分たちのよく知る従兄であるし、少しは話をしてみてもよいというマリアの判断だった。
いきなりだが、私は馬に一人で乗れる。
例の交換ごっこの延長でもあり、兄の友人やカイルと共に出かけていたのだ。
今も一人になりたい時などに遠乗りをする。
なぜ唐突に乗馬の話かと言うと、お茶をした際に、ハロルドも気晴らしによく乗るらしく、自分のおススメの場所があるとかで、ぜひ今度一緒に行こうと話したからだ。
交換ごっこが染みついている私には、男性との会話は苦にならない。
変な話でなければ……。
実は乗馬の話の前に、ハロルドが元婚約者の話をしていた。
少しばかり気まずかった。
あんなことがあったのだから、ハロルド本人はどう思っているのか気になるところではあったけれど、触れてはいけないだろうなと思っていたのだが、案外サッパリしていて、自分から話をし出して驚いた。
今回の事は、全く引きずってもいないのだという。
どうやら元婚約者とは、政略結婚という言葉がピッタリの間柄であったらしい。
婚約は幼少期に、家同士で結び。
彼女が社交界デビューしてからは、エスコート役に、それ以外は誕生日にプレゼントを贈るだけ、そのプレゼントも使用人が用意していたという感じであったらしい。
ハロルドは多くの女性に優しい、いわゆる、タラシであると耳にしていたので、このことは意外であった。
元婚約者とは、あまりお互いに性格が合わず、お互いに歩み寄ろうとも思わなかったので、気が付いたら彼女の心は遠くにいっていたと。
「彼女は、愛されているっていう証明が欲しかったんだと思うんだ。そういえば、彼女が社交界デビューした頃に一度だけ、婚約者なんだから、毎日、会いに来い、手紙を書け、デートをしろ、プレゼントをしろって言ってきた事があってね。何でって聞いたら、それが世間一般の婚約者同士だって聞いからだって……まあ、私もそう言われたから、言われた通りに少しは努力したんだけれど、お気に召さなかったようで、しばらくして、あなたに期待した私がバカだったって言われてしまったよ。それから最低限の関りになった。」
何も言えなかった。
そんなことをやり通せるのは、うちの兄バカップルだけであろう。
「まあ、どんな形であれ、彼女が幸せになれたなら良かったって、少しは思うし、私とは、もう関わりのないことだと断言できてしまう。だから、今度決まる自分の婚約者は、出来れば自分で会って、見極めたいとは考えているんだよね。」
「そうなのね。頑張って。」
「ああ、頑張るよ。」
ハロルドはフワッと笑った。
沈黙したので、リナは話題を変え、楽しい話、乗馬の話へと変えたのだ。
アドバイスや励ますなんて、そんな高度なことはリナには出来ない。
だから、聞いてあげるだけで、何もしない。
あとは、元気な話でもして笑えばいい.
それから3人での会話は終始弾んだ。
帰り掛けにハロルドがリナに聞いてきた。
「リナは、私の婚約のことを聞いたのに、何も言わないんだね。」
なんでそんなことを聞くのだろうと思ったが、正直に答えた。
「私には、掛ける言葉が思い浮かばないし、それに誰かに話すだけでも気持ちが楽になることもあるかなって。まあ、あなたは、今回の事、自力で乗り越えられるようだし、私の助けは必要ないじゃない?」
「その通りだ。正直、周りが騒ぎすぎて、そっちの方が大変なんだよ。ハハッ、ありがとう。」
ハロルドはスッキリし、満足した顔でカイル達と共に帰っていった。
ハロルド達が帰宅後、拗ねて部屋に引きこもる兄さんの所へ向かい、話をした。
最初は、いじけていた兄だが、ハロルドはカイルの従兄であるし、同じ家族枠の扱いであるとリナが話すと、そうかと言い、立ち直ってくれた。
そして休み明けに会う、殿下への対策案を一緒に考え始めた。
ハロルドも寂しい思いをしたのです。
次の話は少し短いので、後程、投稿してしちゃいます。
次回は王城です。




