表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/52

殿下に命じられました

異世界が流行りと聞いて、書いてみたのですが、中世ヨーロッパはよく分からないので、ゆるゆる設定です。

ゆるいです。

心を宇宙のように広くして、お読みください。


「兄さん、大変です!まずいことになりました。」


 ウェルト王国直属の研究所から依頼され、領地に生息している珍しい動植物を兄が管理しているのだが、その定期報告を終え帰宅した妹が、そう言い放ちながら、慌てて部屋に滑り込んできた。

その部屋の奥では、肩甲骨まである美しいアッシュブロンドの髪を一つに縛り、淡いブルーの目に細長の眼鏡を掛けた無表情の男が、書類に囲まれた執務机に座り、熱心に本を読んでいた。


 兄さんこと、アルム ハートフィル

ハートフィル侯爵家子息 である。


そして、慌てて部屋に入ってきた、この兄と瓜二つの顔を持ち男らしく見える様に凛々しくメイクを施し男装をしている女。

 彼女は、アルムの年子の妹、リナ・ハートフィル である。


「どうした、妹よ。」

兄は、本から視線を上げて、慌てた様子のリナを見て、またヘマをしたのか?という意味を込めた微笑を浮かべながら聞いてきた。


「聞いて兄さん、エドワード殿下が、兄さんを側近にしたいって、言いだしたの。毎日、登城して、殿下の執務を補佐しろって。返事を一度、家に持ち帰りたいって言ったのだけれど、命令だから明日から来いって言われてしまって、どうしましょう……。」


それを聞くと、アルムは真剣な顔つきになり、ジッとリナを見つめ、黙った。

リナは、アルムが怒ったのかもと不安になり、身が縮む。


「兄さん、怒ってる?」

「いや、リナには、怒っていないよ。」


そう言って、リナにニコリと優しくほほ笑んだ。

 天使のほほえみである。

 リナはホッとした。


「良かった。兄さん、極度の人嫌いだから、毎日、城に行くなんて凄く嫌がるでしょ、私がうまく断れなかったから、怒っているのかと思ったわ。」


アルムは少し沈黙し、またリナをジッと見つめてから、

「そうだね……それなら、今まで通り、リナが僕の代わりに行ってくれないか?」

 そう、言った。

 そう言ったのだ。

リナが兄に代わり、殿下の仕事を手伝いに行けと……。


リナは焦った。

いくらなんでも王城で仕事だなんて、女の私には務まらない。


「む、無理よ!私は兄さんのように優秀ではないもの。殿下の手伝いなんて出来ないわ。」


「大丈夫、リナは優秀だから。ほら、父さまにも鍛えられているだろう。殿下の手伝いなんて、なんてことないよ。そうだな、今から殿下に、この件の手紙を書くよ。領主代理の仕事があるから、手伝えるのは1年ですって、期限をつけよう。それなら何とかやれるんじゃないかな?」


「何かあったら兄さんが助けてくれる?」

「ああ、もちろんだよ!」


「絶対に?」

「ああ、約束する。」


「…分かったわ。それなら、やってみるわ。」


リナは自分が断れなかったことで、引き受けることになったのだと、後ろめたい気持ちもあった。

それに、もし何かあったとしても、すぐに優秀な兄に代わってもらえば、何も問題ないだろうと、その時は、気軽に考えてしまい快諾してしまった。


 この時、兄は心の中で、僕の妹、チョロいと思っていた。

そして、こんなに自分の事を信用してくれるのはもの凄く嬉しい限りだが、親しい人の言葉を簡単にホイホイ信用しすぎるのではと、少し心配に思っていた。


 リナは兄の部屋を出た後、廊下を歩いていて少しずつ冷静になり、多方面の問題があれこれ頭の中に思い浮かんだ。

そして、引き受けたことを後悔し始め、ため息をつきながら自室へと戻った。


侍女が着替えを手伝い、ドレスへと着替える。

兄に似せていたメイクを一度落とし、いつものメイクを薄く施す。

服の中に1つにまとめ、服の中に仕舞い込んでいた腰まであるアッシュブロンドの髪の毛を外に出し、丁寧に梳かし編み込みに結ってもらう。


支度を終えると、窓際にあるテーブルの横の椅子に、令嬢らしからぬ態度で、ドサッと持たれかかり座った。

男装の時の振舞いが、まだ抜けていない様だ。


「お疲れでございますか?すぐに、お茶をお持ちいたします。」

「ありがとう。甘いものも欲しいわ。」

「かしこまりました。」

彼女の専属侍女、エマはいそいそと、お茶の準備に取り掛かった。


ふーっと、窓の外を見ながら、また1つため息をつく。

さっきの会話を思い出していた。

兄さんの部屋を出てから、よくない考えが次々に浮かぶ。

段々と不安が押し寄せてきていた。


 まずい、まずいよね。

いくら今までバレていなかったとしても、長い時間、殿下の近くで過ごすというのは、非常にまずいと思う。

 うん、バレると思う。


バレるとは何の事かというと、交換ごっこの事である。

私と兄は、年子で、幼少期は外見が双子のようにそっくりであった。

幼い頃からサボり癖のある兄におど、お願いされ、交換ごっこと称し男装しては、兄さんの代理をしていた。


つい最近、二年前まで、兄の代わりに男装して領主代行の仕事をやらされ、私生活でも兄の学友に私が混じるという悪戯をさせられたりなど、交換ごっこの延長でリナがアルムに変装して色々とやっていた。

家族には最初から見破られていたが、15、14歳くらいまでは、他人に気づかれることはなかった。


しかし、年を重ねるにつれ、体形、声、仕草に男女で成長の違いが現れ始め、メイクなどで誤魔化しても勘の良い人には見破られるようになっていった。

現在、18、17歳にもなると男女差は目に見えて分かるので、おふざけで交換するのは、やめている。

 殿下への定期報告以外は……。


どうしても、お城に行きたがらない兄の代わりに、月一の殿下への定期報告だけは、三年前から兄に変装し、リナが引き受けていたのだ。

 現在まで何も問題は起きていない。


最近ではメイクなどを念入りにしているが、顔見知りであるとバレてしまうので、兄とすり替わっていても、一人に対して長い時間、関わらないように注意している。

長くても殿下への報告に一刻くらい対面し、会話するくらいだ。


しかし、これから一年間、毎日、長時間、殿下の傍で働くなんて、絶対にボロがでる。

 下手したら、一日でバレてしまう恐れがある。


 エドワード殿下、苦手なんだよね……。


定期報告の間、読み取れない薄気味悪い笑顔をずっと浮かべてるし、報告以外の会話をしたがって、何かを聞き出そうとしてくるし、王族だから家臣のハートフィル家の情報を集めようとしているのかな?とも思うのだけど、時々、家には全く関係ない質問もしてくるし、思考が読み取れなくて何を考えているのかサッパリ分からない人なんだよね。


正直、得体が知れなくて怖すぎる。

そんな人に、兄さんとの入れ替わりがバレたら、必ずよくないことになる。


 家から勘当、一生奴隷扱い、国外追放、はたまた王家への虚偽罪、不敬罪で、生涯牢獄、斬首刑!!!

嫌な言葉しか浮ばない。


 ヴッ怖ぃぃっ!

即決断、誤ったかもと、ため息が出る。


「今からでも兄さんに代わってもらえるように言いに行こうかしら。」


侍女の用意したお茶を飲みながらブツブツと口に出し考えていると、ドアを軽やかにノックする音がした。





楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ