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おれさい  作者: 卯の雛
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おれさい!!

 俺は異世界に転生した。それも最強の力を持ってだ!

 家くらいなら飛び越えて、投げた石に追いつくほどの脚力。おまけに超のつくイケメンときた!

 今日から俺は勇者だ! 新しい、最高の異世界ライフの始まりだ!


 なんて思ってたのにさぁ……。


 巨大な化け物、瀟洒な剣士、おまけに俺以外に勇者を名乗る奴まで――って、俺が一番じゃないのぉ⁉

 この世界には俺の知らない秘密がある……のか?


 ま、イケメンなんだしヒロインには期待してもいいよな!

 いや待って! 俺にだって期待してもいいんだからなぁ⁉


================================


【注意】以下、四コマ風ギャグ改変……


『おれさい!!』


【異世界】

 なんだかんだあって転生した。


「現実じゃないみたいだ」


 凹凸の激しい地面、吹き荒すさぶ砂塵。辺り一帯、視界良好の荒野。


 ――これ詰んだのでは⁉



【最強の……】

「まぁ、やたら体が軽いし、脚力もパワーも申し分ない。人がいるところまですぐに行けるだろう」


 身体能力を確かめ、あらためて『最強の力』を体感する。


「そうだ。剣も試してみよう」


 転生したときの装備品の一つ、剣を壁に近づいて斬りつける。


「おお、綺麗に一筋」


 刃こぼれもない。


 ――まさか『最強の刀』を持って転生したってのか⁉ それはそれで!



【例のサービス】

 不意に剣に自分の姿が映り込む。非の打ち所がないほどのイケメン、イケメンがここにいる。もはや髪の黒さしか原形が残っていない。これが自分なのか。


「信じられない。似ても似つかないとはまさにこのこと」


 遠回しに元は駄目だったと言われているようで――。


「誰が不細工だ!」



【願い通り】

 勇者みたいな格好をしているのに魔法の一つも使えない。


「勇者なら少しくらい魔法が使えてもいい気もするが」


 僕が願ったのは「勇者」でも「魔法使い」でもなく「最強の力」だ。一つは叶ったのだからそれで良しとしよう。


「『力』って言ってんだから魔法使えても良いじゃないか!」


 良しとしてください。



【危険が接近中】

 得心がいき試すことも思いつかなくなってきた頃、遠くから何者かが近づく音が聴こえてくる。けたたましい轟音を走らせる方角に視線を転ずれば、まさに怪物と呼ぶにふさわしい大きな化け物がこちらに向かっていた。


「いけない!」


 上を見上げるほど大きな化け物。100mはありそうな背丈。まさに特撮映画で見るようなそれだ。


「ファンタジーで実写版はいけない!」



【立ち位置】

 化け物が踏み荒らした先から砂煙を巻き上がる。視界が遮られ呼吸が苦しい。ここから逃げなくては、無我夢中で回避しようとした僕の体は宙を舞い化け物の肩へ跳び乗った。


「ゲッホ! ゲホァッ! あぁ……あ?」


 ――肩の上? これはマスコットのポジション!


「降りろ」


 非常に低い声色での威圧された。



【言葉を練る】

 化け物はこちらの返しを待っている。何を言えばいい。言葉を返さなくては――。


「雑魚の癖にいつまで居座るつもりだ。早く降りねェと握り潰すぞ」


「俺は魚じゃない人間だ! 練り物になるつもりはないぞ!」


「そういうことじャねェよ」



【分かっていても】

「やれるもんならやってみろよ」


 あ、やべ。言っちまった。


「ぶッ潰れろ」


 僕は叩き落とされ、化け物は地団駄を踏んでくる。さすがに避けるが、脚力が役に立った。

 奴の攻撃、範囲が広くとてつもない速さだ。だが当たる気は微塵もしない。むしろ当たったとしても――。


「だが当たってやる気はないぜー!」


 バンジージャンプに時間がかかるタイプ。



【心は変化してる】

「畜生、なンで当たらねェ。こンな雑魚一発当てればすぐペシャンコだッてのによ」


 奴が苛立ちながら放った言葉。その言葉が、僕の最強を証明したいと思う心に火をつけた。もう逃げない、正々堂々真正面から受け止めてやる。


「やれるもんならやってみろよ」


「お前それさッきも言ッたぞ」


「……やれるもんなら――」

「いや分かッたから」



【見慣れた光景】

 色々あって別の場所を見つけた――森林地帯。


「ずっと茶色一辺倒だったから緑があると新鮮だな」


 景色が少し変わるだけでも心持ちが随分と盛り上がる。


「そういや転生前にも茶色一辺倒な見た目があった気が。なんだっけ、確か昼ごろに……」


 ――弁当だ!



【過程を楽しむ】

 森林地帯の手前には通せんぼをするかのようにフェンスが立ちはだかる。5mほどの木と金網で作られた障壁、上の方には有刺鉄線が張られている。


「今ならこのくらい飛び越えられるだろうけど」


 だがあまり高スペックでゴリ押ししていくのもゲームを作業しているようで面白くない。


「そう。チートを使ってギャルゲーをするようなもの。たまには引くことも大事なのさ」


 ゲームでは。


「リアルの恋愛は知らんがな!」



【連想】

 森林には用もないので、フェンスに沿って再び街を目指して黙々と歩き始めた。

 森林は荒野と違い視界が悪く何が潜んでいるのか分からない静かな恐怖が不安を煽る。しかしこのスリルが沸々と高揚感をそそる。


 ――肝試し。


 この手前のフェンスも期待を持たせてくれる。どう考えても人の手が加えられており、こんなものを作る理由は大方領地を守るためだ。


 ――人がいる。


「お化け屋敷やってんのかな?」


 違います。



【風情】

 ――跳べば上から確認できる。街がどこにあるのかもわかるだろう。


「ま、何が起こるか、何があるのか分からないからこその良さもあるよな」


 分からないからいい。分からない方がいい。アイドルの彼氏持ち、人気者の裏の顔、サブアカウント、中の人……。


「風情も何もないよ! パンドラミミック!」



【ヒロイン】

「無粋な真似はやめて、地力で目指していこう」


 顔を上げたとき、金網にしがみつく人間を見つけた。


 ――これは、ピンチのヒロイン! 助けたら俺も……。


 小太りの中年が危うく金網にしがみついている。


「おっさんじゃねぇか!」



【選択】

 声をかけると彼は慌てふためいた声をあげながら身を強張らせる。


「おっおらフェンスで遊んでただけだっ、まだ森には入ってないから許してほしいだっ」


 ――いまいち話が呑み込めない。誰かと勘違いしてるのか?


「いや、俺は――」


 二言目をかけようとしたとき、彼はバランスを崩して宙に放り出された。


 ――危ねッ……! どうする⁉ ヒロインじゃないが?


 助けなさいよ。



【属性良好】

 落ちてきたおっさんを受け止めると、彼はこちらを確認して首を傾げた。


「誰だ⁉」

「いやこっちのセリフだよ!」

「あ、いや。助かっただ」


 カンヴァは照れを抑えながらも事情を話してくれた。


「実はここには薬草を採りにきただ」


 ――なまり、薬草、田舎者……。


「美少女だったらなぁーッ⁉」

「えうぇ⁉」


 理不尽。

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