おれさい!
剣に映った自分の顔を見る――かっこいい。文句なしのイケメンだ。少なくとも僕はそう思う。まるで他人のように。
「頼んどいてなんだけど、悲しくなるくらい変わったな。元の顔見られる自信ねぇや」
とは言え、正直泣くほど嬉しい。願いを聞いてくれた男には感謝をしなければならない。与えられた絶世の容姿、そして――最強の力に。
わけの分からない怪しげなサイト――異世界へ転生する方法。胡散臭いタイトルに手を伸ばし、文字通り“死ぬ覚悟”で選んで良かった。
今日から新しい僕の――俺の無双が始まる!
……はずなんだけど。間違いないんだよな? スーツの人!
この剣士、見た目からして違うとは思っていたが、あまりに違う! 最強の一発だぞ?
「ほう、刹那にして兵士たちを倒すとは。そしてこの一撃、大したものだな」
男は俺の拳を受け止めた。今さっき適当にぶっ飛ばしたザコと比較していいのだろうか?
でも、大丈夫だ。全部分かってる。この勝負の結果も、自分の強さも、顔の良さも。ただひとつ、この男の不敵な微笑の意味以外は――。
================================
【注意】以下、四コマ風ギャグ改変……
『おれさい!』
【WEBサイト】
インターネットを彷徨っていると、面白そうなサイトを見つけた。
「異世界へ転生する方法?」
僕はそのタイトルをクリックした。
『異世界に興味がある同志諸君よ。まずは初めましてとでも挨拶しておこうか。』
――軍隊かよ。
【挨拶】
――まあいいや。とりあえず続きを見よう。
『とはいえ、私の名は語るまでもないであろう』
――語れよ。
『なんせ君たちは異世界にいってしまうのだから』
――いや、だとしてもだろ。
『さて肝心な異世界へいく方法なのだが……』
――結局しねぇのかよ!
【さようなら】
『推察のほどとは思うが、転生と言うからには君たちには一度死んでもらうことになる』
――随分物騒だな。
『この世界とオサラバするということだ』
――まぁ、異世界だしな。
『それが嫌なら今すぐページを閉じてくれ』
「この世界とオサラバか、このページとオサラバか、なんてな」
数秒後、じわじわ後悔した。
【人の話は最後まで】
『それでも構わないという者がいるのならぜひ、下のリンクを開いて異世界へ旅立ってほしい』
――大袈裟な注意書きだな。ま、開くか。
色が反転したページに飛んだ。
「色が変わったけど。まさかこれで異世界行きましたー、とか? うっざ」
よく見ると『異世界に転生する手順』と書かれたタイトルがあった。
「あ、こっからね」
【注意書き】
最後の行に書かれている――このページからは後戻りできません。
「怖っ! え? ブラウザバックしたろ」
このページからは後戻りできません。
「戻れ戻れ」
後戻りできません。
「戻せって!」
できませんゆうてるやろ!
「キレんなよ!」
【逆転の発想】
「後戻りできないなら仕方ないか。説明読も」
1.丑三つ時に迎える死を受け入れる。
「ああ、箇条書きね」
――ん? ちょっと待てよ。
「これ受け入れなかったら進まないんじゃね?」
『お前転生したくないのか!』
【お地蔵さま】
「んで、受け入れた後は?」
2.死後に現れる閻魔に行き先を尋ねられたら――。
「え、いきなり閻魔かよ。てか呼び捨てじゃん。それで?」
30分以内に「異世界」と答える。
「ふーん、三十分以内に……」
――思ったより長くない? 閻魔、暇かよ。
『お前も呼び捨てじゃねぇか』
【言葉の意味】
「これは全部で四行あるのか」
3.遣いの者に授かりたい能力を問われたら、好きな能力を願う。
「好きなって、なんでも? リスクなし?」
4.晴れて異世界へ到着。おめでとうございます。
「良かったぁ。雨に濡れない能力を願うところだった」
晴れた世界じゃねぇよ! そもそも晴れてってそういう意味じゃねぇよ!
【時間の使い方】
丑三つ時、というのがピンとこないので調べてみる
「午前2時か。ってことは大体、一時間。一時間で死を迎えるのかぁ」
段々と恐怖が増す。
「一時間かぁ……」
新しいタブを開く。
「アニメ見るか! 二本分あるし」
現実から逃避する前に現実逃避である。
【うるさい】
部屋の照明と携帯電話の主電源を落とし、ベッドに潜る。
――怖い。
その言葉が脳裏を駆け巡っている。
――怖い。怖い。
考えたくないのに何度も何度もその言葉が浮かんでくる。
――怖い。怖い。怖い。怖い。
脳がバラバラに散らかった本を片付けろとうるさい。
「うるさいのは『怖い』の方だよ!」
【考えるより先に】
「落ち着かないし、さっきのサイトのこと調べよう」
電話の電源を立ち上げて待つ。起動時の眩しい光とどうでもいいロゴが癇に障って一層焦燥感を増幅させる。
「イライラすんなぁ」
単調な映像を繰り返す画面。そんなもの飛ばしてさっさと起動しろと人差し指が勝手に動く。
「ほら、俺の人差し指もご立腹だ……」
――ぎゃあー! 勝手に動いたぁ!
【確認しないと……】
中々終わらないアニメーションに対し、終われ終われと念じ続けてやっと操作できるようになった。
「今みたいのはそういうアニメじゃない」
慣れた手つきでロックを解除して、ブラウザを立ち上げる。
「時間もないし、早く」
調べるのは当然、あのページについてだ。
「おっ? 最新話上がってんじゃーん!」
さっきのページ調べろや!
【もはやルーティン】
履歴からもう一度入ろうと試すとサーバに繋がらないと弾き返されてしまった。
「他に何か情報はないか?」
あらゆる検索ワードを打ち込んで検索をかける。
「とりあえず『異世界』と『転生』、『方法』は完全一致で、『オサラバ』とかこの辺りを部分一致、『ラノベ』をマイナス検索にして」
しかし何度調べても掠った情報すら出てこない。
「な、んだと?」
若干プライドが傷ついた。
【懐かしいなぁ……】
「元々、適当に検索し続けて見つけたようなマイナーなページだから誰も見向きもしないのか? そもそも、やっぱ悪ふざけだったのかもなぁ」
時間を確認すれば、もう一時四十二分。
「後二十分もないのか」
ふと昔を思い出す。
「思い返せば――」
鬱陶しい奴らに目をつけられてビクビク怯えながら過ごす日々。
――思い返すんじゃなかったぜ。
【どうせなら】
「異世界に転生したらどうしようか」
最強になって悪い奴らをこてんぱんにして――。
「スカッとするねぇ」
可愛い女の子たちにちやほやされて――。
「ロマンだよねぇ」
主人公に負けて全部失うと。
「おい待て俺! 俺を一話限りのかませにするんじゃない! 夢を、夢を見よう!」
【いよいよ】
――あれ? 意識が……。
深く広がる思想の海に小石が投げられ落ちていく。小石は深く深く沈んでいき、そこは深海。小石の姿も捉えられぬ暗闇。さらに奥、突き進むと小石の姿が照らされた。深海に光、奇々怪々な光景に目を奪われながらも光を目指して進むと、小石は音を立てて落ちる。目の前には、鬼のような……。
「ちょっとぉ! いつまで寝てるの!」
「その閻魔はお呼びじゃねぇ!」
後書き
ご一読いただき、ありがとうございます。
原作が気になった方はぜひ、あらすじ記載の作品コードまで!