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双剣の英雄  作者: ラズ
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1-2

 僕は思わず少年に駆け寄った。

「ひどい傷……」

 少年はもう虫の息と言ってもいい。

 髪は赤黒い血で固まり、顔も自分の血なのか返り血なのかはわからないが、すっかりまだら模様になっている。

 なによりもひどいのが、血で汚れた白銀?の鎧の腕や腹の関節部分に突き刺さったままの無骨な小ぶりの剣だ。

「どうしよう」

 このままだと、あと数分……もしかしたら数十秒で彼は死んでしまうだろう。

 初めて身近に感じた濃厚な死の香りが、ここには充満してる。

 かといって、自分では何も出来ない。なんの対処もできない。そんな現実に頭痛がした。

 今の自分では、彼を看取ることしかできない。

 だが、―――本当に? 本当に自分ではどうすることも出来ないのか?

 そう思ったときだった。不意に右の腕輪が熱を持つように熱くなったのだ。

「っ……!」

 そうだ。僕はこの感覚を知っている。まるで、誘われるように唇を動かした。

『慈愛の光よ 我らを救い給え。 今一度奇跡を満たせ――セラフィムブレス』

 地面に魔法陣のようなものが浮かび上がり、幻想的な白い光に少年が包まれる。

 僕はそこで我に返った、そして先ほどの呪文の効果を思い出した僕は、慌てて少年に今も突き刺さる2本の剣に手を添えた。

「ごめんね。これだと治療できないから……すこし我慢して」

 そして、僕は力一杯、少年に刺さった剣を一本ずつ引き抜いたのだった。

 剣を引き抜く衝撃に少年は耐えるような声をだしながら、しかし次第に落ち着いた呼吸に戻っていく。

 少年は剣を抜いた衝撃からか、すこし意識が戻ってきたようだ。すこし焦点のあわない目が僕を捉えると、少年は呟いた。

「……おまえは?」

「今は喋らないで。自分の体を治すことに専念するんだ」

 少年がこちらの意図を理解したのか、軽く頷くとまた意識が沈み、眠りについたようだった。

 僕はほっと安堵のため息を吐く。先ほどの呪文は体は癒やせても、体の異物を取ることはできないのだ。だから、どうしても刺さった小ぶりの剣をどうにかしなければならなかったのだが、どうにかこうにかうまくいって良かったと安心する。

 それと同時に、不安が募るのを隠すことが出来なかった。

 僕はどうして、あんな瀕死の人間を治すような呪文を知っていたのだろうか?

 大きく破損した記憶に不安を持ちつつ、このままでは血の臭いに獣が集まってくかもしれないと思い、少年に肩を貸しながら引きずるようにして、その場を後にした。


 

 森の奥の方へ彼を運ぶ。

 さすがに、自分よりすこし背の高い少年を引きずるのは骨が折れる。そして意識がない分、すごく重たい。そろそろ、自分の体力が心配になってきたが、とりあえず安心して身を隠せる場所が無ければ、共倒れになるなと頭の中で呟いた。

 すると、また開けた広場のような場所に出た。

 正面には切り立った崖とその崖に出来た小さな洞くつが見える。

 僕は少し迷った。この洞くつに身を隠すのは悪くないが、洞くつに『先客』がいる可能性がある。けれども、このまま彼を引きずり歩いてもお互い体力の無駄だ。

 僕は、とりあえず彼を一度近くの草むらに隠して、洞くつを調べることにした。



 洞くつの中は薄暗く。奥がよく見えない。明かりがほしいけど、今は贅沢を言えない。

 幸い、洞くつ内の空洞は浅く、一番奥まですぐに着くことが出来た。入り口が大きく開けているためか、一番奥は非常に薄暗いが周囲が見えないことも無い。あと、幸いなことに最も奥にはわき水が湧いていて、水には困らなさそうだった。

 『先客』の痕跡も無く、中はごつごつした岩しかない。

 僕は安心すると共に、彼をこの洞くつに運び込むことにした。

 すこし、肌寒いのが気になるが、文句を言っていられる状況でも無いので、僕は急いで行動に移した。



 彼を洞くつに運び込むと、さすがに気を失っている人にこの気温は辛いだろうと、来ていたコートを脱ぎ、彼の体にかけてやった。

 コートを脱ぐとやはりすこし肌寒い。たき火がしたい。そう思った僕は、枯れ枝を求めて、彼を置いて外に出ることにした。

 幸い、今は昼だが、夜になるとたき火ないのは辛い。僕は枯れ枝を求めて森の中を彷徨った。

 そして、僕が腕に抱えるだけの枯れ枝を森から集めて洞くつへ帰ってくると、気を失っていた彼が目を覚ましていた

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