クエスト始動‼︎
アイビー王国、フリージアからだいぶ離れ、三人の精霊使いは目的地へと足を運ぶ。
喧騒的な街並みから、次第に閑散とした山道へと……
依頼を受けた精霊使いが窮する問題の一つはいわゆる「移動」である。
未だ、科学技術の確立していない中で、主な交通手段は徒歩とモンスターが牽引する荷車であった。
「それで、アリスちゃん、今回の依頼って何だい?」
歩を進めつつ、グレイズが問いかけた。
「あら、まだ言ってなかったかしら?」
「聞いてねーよ!」
アリスがすっとぼけ、シャインが即座に突っ込んだ。
「今回のクエストはハンティングよ」
フッと鼻で笑うと、アリスが答えた。
「ハンティング?」
シャインが疑問付を頭上に浮かべる。
ハンティングとは狩猟を意味し、クエストにおけるハントとはターゲットの討伐を指す。
「そう……山林に広く囲まれた孤児院・ルー=ガオーハウス。そこで、殺傷事件が起きたの。重軽傷多数、孤児院12名、警備員5名が亡くなったみたい。犯人は犯行後、近隣の森へ逃げ込んだそうよ。場所がかなり田舎の奥地だけあって、街に逃げ出すことも叶わない。道中、襲われる危険があるからね。それで、私達に助けを求めたってわけ」
淡々とした口調で説明した。
「ふーん、なるほどね。で、ギルドに依頼が来たってことは地元の自衛団でも、どうにもならない敵、つまり、俺たちと同じ精霊使い《スピリットマスター》か……」
グレイズが即座に分析して結論をだす。
「そういうことよ。目撃者の話ではどうやら相手は狼男みたい」
「狼男ねえ……」
シャインが訝しむ。
「シャイン、油断は禁物だからね」
「分かってるって!」
「もう、本当に大丈夫かしら……」
アリスが心配そうな面持ちをする。
「それよりアリス、何でこのクエスト受けようと思ったんだ?」
シャインが疑問に思い……
「確かにアリスちゃん、よりにもよって何でこんな物騒なクエストを?」
グレイズがつられて問いかける。
「べっ、別にいいでしょっ。そんなことより、あんた達ちゃんと気を引き締めなさいよ!いつ、狼男が襲って来てもおかしくないんだからね!」
急に焦りだした、アリスの様子を見て二人は顔を見合わせ、「何かある」と思うのであった。
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三人は街のはずれで手に入れた旅人専用の荷車―四足獣が牽引する荷車に乗って山道を駆け抜けていた。
あたり一面は木々に囲まれており、寄せ来るものを阻む様はさながら天然の要塞であろうか。
広大な森は外界との隔絶を表しているようであった。
視界を奪う程ではないが、あたり一面に霧が立ち込めている……朝が訪れるのだ。
もう、あと1時間もすれば、目的地というところで、夜通し走り続けた四足獣が急に足を止めた。
四足獣は唸り声を上げるばかりで、前には進まず。
不可思議に思った送迎人の目に映ったのは、霧に包まれる人影……影はどんどん近づいて来る。
霧をかき分け現れたのは人……否、狼男であった。
「ワオオオーン‼︎」
突如、獣は吠えた。
咆哮により、霧は掻き消され、大気が震える。
送迎人が人だと見間違えたのは、二足歩行であったのと、その自然な歩き方があまりにも人間のそれに酷似していたためであった。
シャイン、アリス、グレイズの三人はすぐ様、戦闘体制に移行する。
三人とも一斉に荷車から勢いよく飛び降り、狼男の眼前に着地した。
「さあ〜て、やるか!」
シャインがパキパキと腕を鳴らす。
「運転手さんはもう、行って大丈夫だぜー、後は俺たちやっとくから」
グレイズが振り返り、余裕の表情を浮かべて言った。
運転手は「ひぃ」と悲鳴を上げ……さっきまでシャイン達を乗せていた荷車は転進、そして一目散に走り抜けて行った。
「それじゃあ、みんな、行くわよ‼︎」
アリスが告げると、三人の背後にそれぞれの契約精霊が現れた。
シャインの背後には天使の精霊アテナ。
アテナはベージュ色の服装に身を包み、金髪の美女。白い羽に頭部には天輪がある。
アリスの背後には妖精の精霊リデル。
リデルは小鳥サイズの少女であり、青い髪。背中からは四つの羽がはえている。
そして、グレイズの背後には鬼の精霊酒呑童子が厳しく現出した。
酒呑童子は赤茶の肌に鬼の角、片手にはおそらく酒の入っているであろう瓢箪を持っている。
「エンジェルフォーゼ‼︎」
「フェアリーフォーゼ‼︎」
「オーガフォーゼ‼︎」
シャイン、アリス、グレイズが合掌をし、一斉に叫んだ。
それぞれの精霊がそれぞれの宿主に重なり合うのを最後にあたりは光に包まれた。
光がおさまると、そこには天使に変身したシャイン、妖精の姿をしたアリス、先ほどの酒呑童子と融合したレイズが佇んでいた。
目前には狼男が、「グルル…」と今にも襲いかかってきそうな殺気を放っている。
「さあ、初めようぜ!」
シャインが告げると獣は再び大きな雄叫びをあげる。
戦いの火蓋は切って落とされた。