表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある女の子の不幸

作者: ふうか

「私は日本一忙しい小学生だった。」



これは私が子供時代を語るときの決め台詞。


ある時は誇らしげに、ある時は恨み節として語られた。










日本がまだ景気が良かったそのちょうど終わり頃、

一つの家庭に女の子が生まれた。



両親は共働きで2人とも公務員。

小さな町には少し目立つ大きさの家に住み、

車は多い時で4台あった。




一番古い記憶は、

父が運転する車の助手席。

母は後部座席で化粧をしており、

私は両親の職場からほど近い保育園でいつも両親にバイバイをした。



同じくらいの頃の記憶には、

自転車に乗って高校に向かう姉と、

その後ろ姿に手を振る私がいる。

私はその12歳上の姉が大好きで、

幼い私の自慢だった。


「いってらっしゃい。」という4歳の私に、

姉は応えることもなく、

自転車に乗り振り向きもせず、

ただ遠くなっていった。



そして姉との記憶はぷっつりと途切れ、

家出をした、という事実を耳にしたのは、

何年前のことだったか覚えていない。







私が一人で夜、トイレに行けるようになった頃、

母は私をいろんな教室に連れて行った。


一番最初に連れて行かれたのは剣道の道場だった。

なんだか重そうな鎧をつけた人たちが大きな音でぶつかりあっていた。

「やる?」と聞く母に、

訳も分からず「やる。」と答えた。





小学校に上がる頃、

私の一週間のスケジュールは、

月、書道、剣道。

火、スピードスケート、バレエ。

水、剣道

木、そろばん、算数塾。

金、英語塾、茶道

土、剣道、水泳

日、ピアノ


となっていた。



習い事が一つで終わる日は幸せだった。


剣道は大嫌いだったけれど、

辞めたいというと母親が激怒した。

バレエは好きだったけれど、

一度だけ発表会に出た後、

知らないうちに辞めさせられていた。






私には8歳上の兄もいた。

兄は私をよく殴った。


兄が壁を4回叩いたら『部屋に来い』の合図。


行くと腰を揉めとか、

ジュースを買いに行けとか言われ、

行かないと殴られた。





9歳の時に犬を飼った。


シーズーの、子犬だった。


私が床に座って本を読んでいると、

必ず寄ってきて私にくっついてボールで遊んだ。


寒くないようにストーブの前に檻を立てて、

トイレを覚えた時は自分のことのように喜んだ。


朝も早く起きるようになった。

散歩に行って、ご飯をあげた。


学校が終わると、走って家に帰った。





部屋に帰ると犬がいるのが幸せだったけれど、

ある時夫婦喧嘩をした母親が、

「犬なんか汚い!」と行って、

檻ごと犬を私の部屋から引きずり出し、

衣装部屋になっていた屋根裏に無理やり押し込んだ。


檻から出すと犬は部屋のあちこちでおしっこをするようになり、

私もだんだん面倒を見なくなり、

一日のほどんどは檻の中に閉じ込め、

誰もかまうことはなかった。








私の家では、

殴り合いの喧嘩がよくあった。


私をよく殴った兄は、

母のことも蹴っ飛ばした。

父と兄も殴り合ったし、

ある夜、夫婦喧嘩がエスカレートして、

激昂した父が母の腹を思いっきり殴った。


2階で寝ていた私はサイレンのような音で目を覚ましたが、

それは腹を殴られて苦しみ悶える母の叫び声だった。


母は苦しみながらも「コロシテヤル!」と叫んでいた。


私は裸足で外に飛び出した。

その日は土砂降りで、パジャマはあっという間にずぶ濡れになった。

街灯を避けながら、夜の闇に隠れるように歩き回り、泣いた。



家の周りと少し離れた公園の近くを歩いたけれど、

結局行くところなんかなかった。


家に帰りベッドに潜ってまた泣いた。

ずぶ濡れのパジャマが冷たかった。











大学入学と同時に家を出た。


本当は家からも通える距離だったけれど、

私は一人暮らしをした。

いろんなアルバイトをしたけれど、

どれも一年足らずで辞めた。


いろんな男の人と付き合った。

浮気もして、二股もした。

目の前で彼氏は泣いたけれど、

私は愛してくれるなら誰でもよかった。



2年めの春に実家に顔を出すと、

犬は目が見えなくなっていた。




卒業間近になって、

就職も決まった。

パチンコ屋でアルバイトをした帰り、

犬が死んだと母からメールが来た。


泣きながら車を運転して実家に帰った。

信号をたくさん無視したけれど、

誰も私にぶつかってきてくれなかった。

実家に帰ったら、

犬はもう処分された後だった。




就職して、

やっと自立したと思った。

正社員の仕事は誰も私に優しくしてくれなくて、

1年過ぎた頃に辞めた。


今は夜のお店で男の人の相手をしている。


綺麗なドレスを着て、

にっこりすると、

男の人は優しくしてくれる。


ご飯を食べさせてもらって、

お酒を飲ませてもらって、

家に帰って、

午後4時に起きたら、

またバイトに行く。



みんなが優しくしてくれる、

この仕事が好きた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ