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夏の物語  作者: 皐月 朔
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木陰で待つ人

 背後からは歓声が聞こえ、周囲からは蝉の鳴き声が響いている。

 そんな、人と虫の立てる音に囲まれた木陰には、どくだみの匂いが立ち込めており、決して快適な環境とは言えない。白い花が咲いているのが美しいとは思うが、近くで座り、その濃厚な匂いに囲まれてしまえば、その美しさを讃える気持ちも萎えてしまう。

 そんな、音と匂いに囲まれた場所からは早々に立ち去りたいのだが、そうはできない。

 影を作る主人にもたれかかり、歓声の発生源となっているコロシアムの方へと視線を上げる。

 が、その出入口となっている場所から人が出てくることはない。コロシアムの歓声に惹かれてコロシアムの中に吸い込まれていくばかりだ。

「・・・・・・いい加減に出てきてくれよぉ」

 この場所で待つように言われてそろそろ1時間ほど。

 コロシアムに入っていくときにはすぐに戻るから、と言っていたのだが、やはりあの言葉を当てにするべきではなかった。待ち人はいつも時間を少なく見積もって報告するのを夏の暑さで忘れていた。

「そろそろ帰ろぅ・・・・・・。もう待てねぇ」

 騒がしいのは仕方がないとして、どくだみがこれほど群生しているとは思わなかった。

 家に帰っても蝉の鳴き声はあるが歓声までは追いかけてこないし、どくだみの匂いもない。

 そう考えると、これ以上待つことができなくなった。

 立ち上がり、コロシアムに背を向ける。

 歩き始め、しばらくするとその背中に衝撃を感じる。

 振り返ると、そこには木陰で待っていた人の笑顔が日向の中で輝いていた。

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