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夏の物語  作者: 皐月 朔
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教室にて

「…….暑い」

呟くつもりはなかったのだが、知らず知らずのうちにそう呟いていた。まるでコンロにかけられた水のようにその呟きを止める術はない。

暑さについで呟いてしまえば、その認めたくない事実を認めることになり、決して呟かないように気をつけていたのだが。

その後悔を咎めるように、正面、椅子の背もたれに顎を預けたクラスメイトがやや上目遣いで睨みつけてくる。

「悪かった。俺も言うつもりはなかったんだが」

「いいよ、別に。俺も口にしないだけでそう思ってることに変わりはない。もっとも、俺の場合はそう口にするだけの余力も残ってないが。いや、ほんとにその言葉を口にできるお前はすごい」

ペラペラとよほど長い言葉を紡いだクラスメイトはそこで椅子から上体を離した。

「まったく。こんなに暑い日は教室で座るんじゃなくて舟遊びにでも興じたいものだよ」

「舟遊びもなにも、舟を浮かべられる水場がないだろう」

住んでいる地域の近辺には水場がない。一番近いのは川だが、それも車で1時間という距離。気軽に持ち出せる移動手段が自転車という学生にとって、その距離は絶望的だ。

「お前はほんとに夢のない男だね。いいじゃないか。できないからこそ口にすることでその涼しさに肖りたいという俺の気持ちを汲んでくれよ」

「できないからこそ余計に辛くなるだけだと思うんだが」

「あー!!なにも考えずに舟の上で微睡みたい!!」

突然大声を上げ、教室内の視線を集めた友人は、そのま上体を反らし、机に背中を乗せる。

大声を上げたのが誰かを確認したクラスにいる同級生たちは、元の談笑に戻り、その流れに従うようにして窓の外に視線を向ける。

今日もまだまだ太陽は元気だ。


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