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3・死神との契約

「冗談、私絶対生きるって。あなたも見てたらわかるでしょ、感動の場面。ここで助からなくてどうするのよ」

「どうするって、だから俺が来たんじゃん」

「は? じゃあなた、死神?」

「さあ、こっちじゃそう呼ぶのか? まあ、呼び名なんてどうでもいいけど。ここんとこ自殺するやつとか多くて俺らも手がまわんないんだよね。だから新人を青田買い、使い方これでいいのかな、まあ、早い話が仕事しない?」

 少年は手を出すと、心臓マッサージ中の葵の体から葵の霊体を引っ張り上げた。

「何すんのよ、勝手に出さないでよ。私生きるんだから」

「だからもう、無理なんだって。こんなに魂がするりと出るってことは見込みないんだよ」

「いやだ――離せ、ばか、ばか」

「あんた、さっきのおばさんと同じことしてるぜ、乱暴だな。血は争えないな」

「うるさいっ」

 手を振り払って自分の体に戻ろうとした葵は、さっきどうやって戻ったのかわからなくなっていた。

「言うの忘れてた。営業成績のいい奴には、何とご褒美があります」

 もったいぶって手を広げながら言った少年は、葵がふんっと横を向くのに慌てて言葉を続ける。

「ご褒美ってのは無事生還ってことだけど――やめとく?」

「何? どういうこと?」

「この体を、ちょい植物人間的なもので生かしといてやるから仕事しない?」

「何とか的とか言わないでくれる? 死神のくせして」

「使い方、間違ってた?」

「うるさい、やってやる。そして私は生き返る」

「じゃ、ここにサインして」

 少年は肩に斜め掛けしていた鞄から一枚の紙とペンを取り出して葵に差し出した。

「よく読んでって言ってもこっちの言葉じゃないからわかんないかも。とりあえず、ここの余白に名前書いてね。複写になっているんでよろしく」

「変なこと、書いてないでしょうね」

「書いてないって。期間限定の臨時職員扱いになっているのと契約満了の時、一定の成績以上なら本人の魂はこの世に留めておくことになっている。葵はそれでいいんだろう?」

「そうだけど、信用できるの、その話」

「俺を信じてって、そりゃさっき会ったばかりだから無理かもしんないけど。今はそれしか言えないな」

 葵は紙を暫く睨んでいたがこのまま拒んでも死ぬらしい。それなら駄目もとであがいてみようとペンを握りなおす。

「これでいい?」

 受け取った紙を簡単に目で追って、空いている所に何やら少年は書き込みを始める。

「名前書いたあとに付け加えるってどうなのよ」

「ああ、これは今日の日付と担当者、つまり一応指導教官の俺の名前を書き入れたんだよ。契約成立です、澤田 葵さん。俺教官の貫太郎です」

「かんたろう? 何よそれ、今風じゃないよね」

 出された手を握り返して葵は言った。

「ええっ? そうなの? じゃあ何がいい? 松吉とか、義三郎とかは?」

 貫太郎の問いに葵は答えず、ぐるりと肩を回す。

「で、仕事って?」

「おお、結構タフだね、死にかけてたのに」

 貫太郎はははと笑って鞄をさぐる。

「今日は俺の仕事見ていてよ。じゃ、行こうか」

「うん」

 葵は貫太郎について行きながらぐっと拳を握る。

 ―― 絶対生きてやる。それと……服装のチェンジは譲れない。紐無しのスウエットの上下なんてあんまりだ。



 こうして葵の臨時職員としての生活が始まる。


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