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14・飲み込まれる

「おまえは待ち合わせの場所に行け。これは俺の仕事だ、邪魔するな」

 そんな……葵は貫太郎の言葉に愕然とする。これを――放っておくのか。殺されるのを待つっていうの? そんな事できない、そんな事できない。

「貫太郎には悪いけど、助けられるかもしれないのに、出来る能力を与えられたのに使わないなんて私には無理」

 何が何でも邪魔をすると宣言した葵に貫太郎は天を仰ぐ。

「――わかったよ」

 大きなため息をついた貫太郎は、葵を放して立ち上がった。

「わかったから、おまえは手え出すな。これは俺の仕事なんだからな」

「うん」

 葵にどいてろと小さく言って、貫太郎は襖を大きく開け放つ。誰もいないはずの和室の襖が大きく開いて男は驚いて大声を出す。

「だ、誰だ、出て来い、このガキをぶっ殺すぞ」

 その男に向けて、テーブルの下にあった椅子が飛んで男の頬を掠め、壁に当たって大きな音がする。

「な、何だ?」

 その椅子の行方を追っていた男の頭にフライパンがもの凄い勢いで当たり、あまりの痛さに男は、少年を突き飛ばしてその場に蹲った。

「お兄ちゃん、助けてくれるの?」

 少年は目をまるくして目の前の空間に向かって話しかける。

「こっちにおいで、ここから逃げるんだ」

 ガラッとキッチンの窓が開いて、震える足を引きずりながら少年は進んでいく。やっと窓枠に手をかけたところに頭を振りながら男が立ち上がった。

「こらっ、逃げようとしてもダメだそこでじっとしてねえと足の骨を折るぞ」

 頭から血を流しながら、男が窓に乗り上げていた少年の足を掴んだ。

「嫌だっ、た、助けてお兄ちゃん」

「はああ? 何言ってんだ、どこにお兄ちゃんなんているん……」

 ソファーカバーが飛んで来て男を包みこみ、男の言葉は途中で途切れる。驚いて暴れる男は脚をもつれさせて床に転がった。やっと抜け出し、怒りに振るえながら包丁を握りなおしてもう一度窓に向かおうとした男に台所からキッチンばさみが飛んで来て男の腹に刺さった。

「うおおお、何だ一体?」

「今のうちに早く出ろ」

 恐怖で固まっていた少年が、その声に弾かれたように窓から飛び出して行く。その後に、もの凄い音とともに入って来た警官たちは包丁を持っている男が、腹にはさみを突き刺されて呻きながら床に転がっているのを見つけた。

「怪我をしているぞ、早く待機している救急隊員を呼んでくれ」

 刑事の言葉に一人の警官が飛び出す。その間にも男の胸元が青くなっていく。男が何かを呟いた。<

「何だ?」

「わかった、って言ったんだよ。俺をくれてやるって言ったんだ……糞野郎」

 警官に答えた男は、糸にでも釣られているように立ち上がるとその警官の腕に噛み付いた。

「うわああ、何をするんだ、離せ」

 思ってもみない男の行動に慌てながらも、警官は男の顎を反対の手で掴んだ。他の警官も寄ってたかって男を抑えにかかる。これで終わるはずが、次の瞬間には全て逆の展開で終わっていた。

 男に飛ばされた警官たちがリビングの壁にぶつかって倒れ、初めに腕を噛まれた警官は肩口から血を流してその場に崩れた。その中心に立っているのは先程の男なのに、その姿は大きく違ってきている。

 髪が逆立って目が飛び出したように大きく前に飛び出している。口は耳まで裂けていて、ずい、ずいと制服をまとっているままの腕を飲み込んでいく。肩が異常に張って猫背になり、爪が十センチはあろうかと思うほど伸びている。僅かに蟹股に足を開いた男は、腕を全部飲み込むと獣のような咆哮を上げた。

「しまった、喰われた」

 貫太郎がデニムにはさんでいたピストルを抜いて男だった物に向けて素早く照準を合わす。ズイーンという音がして怪物の真ん中に当たったと思ったが、怪物は素早くジャンプすると貫太郎の背後に回わった。

「ちっ、外したか」

 貫太郎は後ろを振り向きざま、スライディングの要領で、足元に向けて滑り込むと怪物の上半身に比べて華奢な足を掬った。大きな声とともにひっくり返る怪物が、振り上げた鋭い爪を貫太郎の肩めがけて突き刺した。

「痛ってえ、よくもやりやがったな、ギョロ目野郎」

 貫太郎が右手に持ったピストルの台座を自分を刺している爪に向けて叩きつける。爪が根元から折れて血が噴出す。が堪らず飛び出してきて、ナイフを怪物の背中に突き立てた。

 起き上がった怪物が大きく身を捩り、動きについていけず、葵はナイフを離し、横に振り飛ばされた。

「葵、そのままそこから動くんじゃないぞ」

 葵を目の端に捕らえた貫太郎は、向かって来た怪物に体を掴まれそうになった刹那、一瞬の間に相手の頭を掴むと跳び箱を飛び超すようにそのまま勢いをつけて飛んだ。着地する時には背中に刺さったままのナイフを股の下まで引き降ろしていた。

 どさどさと内臓が落ちる音と液体の流れる音。途端に金気を含んだ甘いような生臭い匂いが辺りを飲み込み、その時を待っていたかのように怪物の体が倒れた。

 その血溜まりにころころと小さな玉が転がった。貫太郎はその玉を拾い上げて容器に入れた。

「終わったの?」

 貫太郎がナイフを一振りして血を飛ばすと葵に渡す。

「終わった。殆ど喰われかけてたけど何とか間に合ったみたいだ」



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