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11・死神の正体

「ちょっと、何よ。何がおかしいのよ」

「ああ、ごめん。本当に葵っておもしろいよな。今さ、葵って体から魂だけ出ているんだぜ。魂が飯食ったり、風呂入ったり、しょん便したり……あ、失礼、トイレに行ったりするわけないじゃん。そんなだったら富士の樹海の中なんか糞だらけ……おっとまた失礼」

「――そうか。でもだったら何で寝るの?」

「俺達みたいに招魂士の魂には休養だけは必要なんだよ。どうして? とか聞くなよ。俺も知らないんだから。たぶん、魂だけの存在なのに実体があるっていうのが理由の一つだな。冥府の職員には体が与えられているから」

 貫太郎は、言うだけ言うとじゃあと毛布を被った。しかし、その毛布は葵によって直ちにはがされる。

「何だよ、寝かせろ」

「ちょっと、まだ聞きたいことがあるんだから」

「うるさい、俺は寝たいんだよ。おまえ、旅行とか行ったら朝まで起きていて、誰が寝言言ったとか、寝られないよおとか言いながら人の睡眠邪魔するタイプだろ。俺は寝る。質問は明日、以上」

 毛布を頭まで被って葵に背中を向けて貫太郎はすっかり寝る体制になってしまう。葵は仕方なくベッドに潜り込んだ。目を閉じてみると、葵も疲れていたのかすぐに眠りに落ちていった。





「おい、起きろ」

 貫太郎に体を揺すられて、葵はぎくりと目を開けた。何で何で……? すばやく左右を確認してそのうちに記憶も蘇る。貫太郎の部屋に泊まったのだ。初めての外泊が男の子の部屋なのだが、怒る親も今は近くにいない。ドキドキな経験もワクワクすることも、とにかく怒られることは何にもなかったのは確かだった。

「おい、いつまで起き抜けの気分に浸ってるんだ? 行くぜ」

 朝の支度も何にも、いきなり仕事なのかと、葵は名残惜しそうにベッドを離れた。確かにお腹はすいてないし、寝乱れているわけでもない。服も汚れてない上に体も汗をかいていたと思っていたのにその後もない。今宙ぶらりんなんだと葵は思う。死んでない、俗にいう生霊ってことなのか。こんなにしっかりと立っているのに。

 そして貫太郎は死んでいる……のか?

「あなたは死んでいるの? でも人は死んだら魂だけになって生まれ変わるって言ってたじゃない。じゃあ、貫太郎やギルたち、冥府の職員ってどうなってるの?」

「ギル……? ここの職員の誰かに会ったのか。まあ、話はそこじゃないか。俺達は確かに死んでる。けど前に言ったと思うけど魂は等級に分けられる。冥府から送りだされるのは等級のいい奴ばかりだ。残りの最悪な等級の魂は冥府に残って――分かるだろ?」

「最悪って」

 葵はごくりと唾を飲み込んだ。それってつまり、貫太郎は生前犯罪者だったの? そんな馬鹿なと打ち消したいが、貫太郎の真面目な顔がそれを肯定している。貫太郎は咳払いをして葵に頷いて見せた。

「そうなんだよ、俺達はこの世に生まれ変わるために生前の罪に刑罰を加えた年月、冥府の職員として働かなきゃならないんだ。そして俺は慶応三年に死んだ。西暦で言うと千ハ百六十八年だ」

「幕末ってこと?」

 ということは貫太郎は今から百年以上も昔の人だ。葵はそしてその年月、冥府職員として働いている貫太郎の罪の重さに身震いする。一体この人は何をしたのか?

「貫太郎」

「なあ、いろいろあるだろうけどこの際、それは置いといてサクッと魂を招魂しようぜ。葵は後三つ仕事をこなせば現世に戻れるんだ。俺の事に関わったって何になる? 行こうぜ」

 貫太郎はそう言うと、先に部屋からさっさと出て行く。残された葵も後に続くが昨日、自分に話かけてきたギルが貫太郎の名前を知らないと言い、顔を見て酷く驚いていたのを思い出した。

 

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