嫁ぐ前に逝ってしまいそうです
誤字脱字はスルーで。
結婚式の日は縁談が来て一月と直ぐである。
やることは沢山ある。一月の間でドレスを選び、招待状を出し、侯爵家の家令と打ち合わせ…etc.
一月じゃ、無理!死ぬ…。鏡を覗くと見える……自分の死相の浮かんだやつれ顔が…。
ハッキリ言って、死ぬほど怖い。幽鬼のようである。
一応だけど旦那様になる、侯爵令息こと馬鹿息子は打ち合わせに一度も顔を見せない。どうでもいいですけどね。夢の怠惰&スローライフが私を待っているので、馬鹿息子なんぞお呼びじゃないのよっ!
式の前日に侯爵夫人とは、初めて顔を会わせましたが、とても穏やかで感じの良い方でした。何故こんな方から馬鹿が産まれるのか……人類の神秘ですね。(侯爵本人は体調が優れず欠席)「息子を頼みます」と涙ながらに頼まれてしまいましたが、お断りですっ。
………いえ、侯爵夫人に直接そんな事は言えませんから、「出来る限りは善処します!」と伝えておきました。善処はしますよ?出来る限り……ですけどね?
ついに結婚式当日……お~い…馬鹿息子よ?式が始まりそうなのに、一向に表れませんが?侯爵家の家令が、一服盛ってでも連れてくると言っていたが……。
来ないなら来ないで、代理に当家の兄を無料で貸し出しますが?
代理人結婚…斬新すぎるな?しかも代理人が兄って……しょっぱいな…。
今日の結婚式の出席者は、侯爵家の親戚の関係者で埋まっております。一応私の家族は前列の席に居ますが、家族しか居ません。
子爵家の親戚はほぼ、農作期に入り結婚式に回す人手など、皆無だからです。猫の手も借りたい状態ですよ。
子爵家の親戚はどこも大変なのですが、流石は侯爵家の親戚ですね。上流階級の方々は急な結婚式にも対処して下さいます。暇か?暇なのか?それとも持てる者の余裕とでも言うのか?羨ましい…。
つらつらと、考えて居ると新郎側の控え室が何やら騒がしくなってきた。
「おいっ!逃げたぞっ!追えっ…追うんだ!絶対に逃がすな!…それから大至急、睡眠薬入りの飲み物を持って来させろ!捕まえた後に鼻を摘まんで、飲ませるんだっ!!」
何やら不穏な会話が新郎側の控え室の方から聴こえる。今の声は…確か家令のラハグローと名乗った人の声ではなかっただろうか?家令の人とは、式の打ち合わせで何度も会っているけど、とってもダンディーで優しくて声を張り上げる様なタイプでは、無かった筈なんだけど……。
しかも、一服盛って来るって冗談じゃ無かったんだ…。雇い主の息子に睡眠薬だったとしても、盛るなんて…そこに痺れる憧れ……無いわ~(笑)
馬鹿息子の逃走がありましたが、若干の遅れで結婚式が始まりました。
私が新婦入場で父と共に式場に入場すると、既に待っていた馬鹿息子(どうやったかは不明だが睡眠薬を回避している)が苦虫を噛んだ様な顔で私を見ている。こっち見んなや。
パイプオルガンの音が鳴り響く厳かな雰囲気の中ゆっくりと、父にエスコートされ馬鹿息子の方に連れて行かれる。屠殺場に連れて行かれる家畜の気分です。たが、この苦痛を過ぎれば後は薔薇色の未来が私を待っている…筈だ。きっと。
現在私の顔は所謂花嫁のヴェールで隠れていて、見えない様になっている。
私の方から馬鹿息子の顔は良く見える。初めての接近遭遇ですね。気分は未確認生物と遭遇している気分です。
流石に腐っても侯爵令息だ。顔とスタイルは素晴らしくバランスが取れている…一般的に見て、美形だと思う…ただし私は興味が湧かない。どうでもいい。早よ終われ。
「健やかなる時も………うんたらかんたら」
「病める時も………うんたらかんたら」
眠い……私はただならぬ眠気に襲われている。この結婚式の準備のせいで、殆んど寝ておらず寝不足なのです。神父さんの誓いの言葉が子守唄に聞こえます…………。
「では…ここで誓いのキスを………」
はあっ!?バチっとめが覚めましたよ!聞いてません、聞いてませんよ?騙されたのだろうか?
若干慌てたが、よくよく考えて見れば馬鹿息子は私に興味が無いのよね?むしろ嫌いですよね?だったら、キス何かしないよね?した振りとかにしてくれるよね?慌てて損するとこだったよ。やれやれ。
馬鹿息子が私の顔を隠していたヴェールを上げる。一瞬馬鹿息子がビックリした顔をしたが、今日の私はビックリするほどのご面相か?お化粧でクマは隠れている筈だから……あっ…単純にブスだったから、ビックリしたのか?コノヤロー!?
これだから容姿が整っている奴は嫌いなんだよ。
馬鹿息子がゆっくりと、顔を近づけて来る。
私はこの時、何故楽観視したのかを後々まで悔やむの事になるのであるが、今はまだ知るよしも無い事である。
振りなのにちょっと近過ぎないかなぁ…と思っていると、
チュッ………。
〇×△□¥*$%∂∀∂⇒*×?#☆※~~~~~!
な…何すんだっ…この馬鹿っ…うげっ……。
「これで神の承認を得ました…おめでとうございます」
ナ…ナニ…モ…オメデタク……ナイ…ヨ……?ワタシ…ノ…ファースト……キ……………………。
列席者が皆割れるような拍手を贈るなかで、私は一人真っ白になってしまっていた。口から魂が飛び出ていたかもしれない。
その後にあった結婚指輪の交換の時も、結婚の書簡への署名の時もずっと燃え尽きたままでした。
正気になったのは、侯爵家の屋敷に連れてこられた時でした………。
結婚式の事は、この世界の事ですのでツッコミは無しでお願いします。ソンナカンジナンダヨ…キットサ………。