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幻影モノクローム  作者: 蜂村どぉ
第一章―暁探偵事務所―
4/5

平凡な高校生―有村嘉一―3

 アンティーク調の、大きな掛け時計がカチカチと秒針の音を刻んでいた。

 先程まで、壮絶な戦いを繰り広げていた筈の真美と吉富が静かに、来客用のソファーに座る嘉一を見詰めていた。

 嘉一は、緊張からか、面接練習をしてきた内容をすっかり忘れてしまう。妙な緊張感を感じ始めているのは、不思議と読めない所員(メンバー)が揃っているように感じているからだ。

 その緊張感はまるで、珍獣ばかりを寄せ集められた動物園の檻の中に入れられている感覚だ。感情の読めない、妖しげな赤い光を放つ暁彦の目に、内部を探られている感覚さえ覚えてしまう。

 唾液が口内に水溜まりを作る。それを飲み込み、嘉一は、口を開こうとする暁彦を見詰めていた。

「それじゃあ、軽く質問タイムと行きますかー。暁彦はん、よろしゅう」

「ああ。それでは、質問タイムに移る」

 とても真面目な顔をした暁彦は言った。

「好きな食べ物は?」

「ええ!? ちょ、面接じゃ……」

「答えてくれないと、真美が爆竹に火を点ける」

「危険危険! しかも、ここ屋内!」

「スリー、チュー、ドーッグ」

「なにそのカウント! 今答えますから! 焼き肉です、焼き肉!」

 その返答をキアラはノートに記入して行く。何故書くんだと、全力で嘉一は叫びたかった。

 再び暁彦は口を開いた。

「好きなスポーツは?」

「スポーツは……陸上です。一応」

「クラブ活動はしているのか?」

「中学の三年間陸上していましたが、高校は帰宅部です」

「好きな動物は?」

「……猫です」

「ぼ、僕も猫が大好きだぞ! 僕と一緒だ!」

 月夜は嬉しそうに笑いながら、嘉一を見上げる。興奮しているのか、頬には赤みが帯びていた。血色のよくなった顔色をした月夜を見た嘉一も、思わず笑ってしまった。

「月夜が嬉しそうで俺は嬉しい。では、次の質問だ。この事務所で働こうと思った経緯(いきさつ)は?」

「自分を成長させる為に……」

 自分でも誉め称えたい真面目な回答を嘉一はしようとした。

 だが、

「ダウト。嘘が見え見えだ。本当の目的は?」

「……え?」

 それに嘉一は言い様のない汗を流した。

 嘉一は知らずに恐怖心を抱いていた。全てを見透かしているかのような、暁彦自身に恐れを抱いていた。

「こ、小遣い稼ぎの為に……」

「違うな。それは表向きだ」

 嘉一は焦りに似た何かを感じた。背中には汗がびっしょりと流れ、中に着ているインナーが素肌に貼り付いている。それに気持ち悪さを感じる、嫌悪感は抜き取られてしまった。

 暁彦の赤い光を宿す瞳に、嘉一は固唾を飲んだ。

「……まあ、いい。嘉一、お前のことは軽くだが調べておいた。吉富と月夜、キアラが……な」

「……え?」

 嘉一は小さく幼い月夜を見た。

 こんな少年が調べたというのに驚きが隠せない。

 無垢なる真紅の瞳には嘉一の顔が映る。嘉一の、焦った表情が。

「有村嘉一。誕生日は六月十一日で双子座。血液型はAB型。身長は百七十一センチ。体重は五十九キログラム。出身は埼玉。そして、高校入学を機に上京し、従兄弟であるホストとして活躍する兄弟の家に居候。因みに高校は烏丸(からすま)高校。そして、陸上の特待生()()()

「……どうし、て?」

 嘉一の表情には、生気が感じられなくなっていた。何もかも。どこもかしこも暴かれた、光を当てられた犯人になった気持ちだ。

 視界が定まらない。何を見ているのかさえ、嘉一は分からなくなっていた。

 震え上がるような思いだ。光を失った黒目をした嘉一の心境は、酷く冷静そうでありながら、まるで凍てつく南極の氷雪地帯に居るかのような冷酷さ。

 嘉一の瞳を見たキアラは、思わず息を飲んでしまう。飲まれてしまいそうな、漆黒の瞳(ブラック)。感覚が正常であるキアラは、たらりと一筋の汗を流した。

 嘉一は思う。『過去』を言われても、今の自分なら大丈夫だということを。

「何故、陸上部に入らなかった?」

「走ることが出来なくなったからです」

「……そうか。お前が走ることが出来なくなった理由は()()()()()のせいだろう?」

「…………」

 嘉一は黙った。それは、紛うことなく嘉一が肯定しているということだった。

 それを感じた暁彦は、小さく笑った。どこまで調べたのか敢えて言わない。暁彦は間違いなく、漆黒の瞳(ブラック)の嘉一を受け入れようとしていた。

「そして、最後に聞く。ここに来た時の率直な感想を言って欲しい。感じたことでもいい。包み隠さず言ってくれ」

 品定めするかのような、赤茶色の双眸。嘉一の恐怖心はもうどこかに消えていた。真っ直ぐと自分を射抜く瞳に、嘉一は迷わずに口を開いた。

「色で溢れている世界が白黒に見えました。まるで、モノクロの写真に囲まれているようです。その光景がどことなく懐かしい。それでいて、心地のいい空間に感じました」

 光の戻った黒い瞳。強い意思の籠った瞳に射抜かれていた暁彦は、満足そうに口許を緩めた。

「お前も俺達と同じだ」


「――合格だ。これから、共に働こう。まだ嘉一はバイトという形だが、共に依頼人の助け力になろう」

 それを聞いた嘉一は、大きな声で返事をした。

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