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幻影モノクローム  作者: 蜂村どぉ
prologue
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prologue

 ――陽の光が怖い訳じゃなかった。

 朝陽(あさひ)を見るのがいつの間にか嫌いになっていた幼き頃の自分に彼は目を(そむ)けた。

 (ほま)れ高い家系に生まれ落ちても、陽の光を浴びることすら禁じられていた『少年』は、窮屈(きゅうくつ)な薄暗い部屋に閉じ込められ続けた。

 大量の本を読み(ふけ)り、機械的な動作と言動しかしない使用人には面白味を感じなければ興味すら失せていく日々を、ただただ送る。

 読み飽きた著名(ちょめい)な作家陣の本は乱雑に積み重ね、食事と排泄、入浴、睡眠しか送らない生活を送ろうとも、全てに飽き飽きする。

 扉を叩かれた時、『少年』は退屈な世界を忘れ去ろうと寝台から上体を起こす。

 入室して来た自分よりも年上だが、初々しさのある執事服を身に纏った青年が緊張をしている様子で面接官に対するお辞儀のように腰を折った。

「お初にお目にかかります。本日より暁彦(あきひこ)様専属の執事に任命されました、神蔵(かみくら)吉富(よしとみ)と申します」

 青年は顔を上げた。鳶色(とびいろ)の髪は短く切り揃えられ、顔立ちはとても整っている。年齢は高校生くらいだろう。若いのにご苦労なことだ、と少年――暁彦は思った。

 暁彦は髪を切ることも禁じられていた為、前髪は目を隠す程伸び、後ろ髪は背中まで伸びている。運動もしていないせいか、とても貧相(ひんそう)身体(からだ)をしていた。まだ年齢は十歳になったばかりだが、暁彦自身は誕生日に対する関心はなかった。

 暁彦は口を開いた。

「神蔵吉富」

「は、はい!」

「無理に『演技』をしなくても大丈夫だぞ」

「……っ!」

 吉富は驚きに目を見開いた。

 彼は動揺している。『普通』を装った自分を一目で見破った幼い少年に言い様のない恐怖を感じ、(おび)え震えている。

 暁彦は口許(くちもと)に笑みを浮かべ、前髪を掻き上げた。

 色素の薄い透き通るような茶髪から現れたのは、妖しげな光を放つ、赤みを帯びた茶色い瞳。肌は陽の光を浴びることがなかった為に白く、白磁器のようだ。

 吉富は息を飲んだ。全てを見透かす双眸(そうぼう)だけじゃなく、暁彦の容姿を見て心臓を掴まされた思いに(おちい)る。

「吉富。髪が鬱陶しいから切って欲しい」

「承知しました」

「それと、俺を陽の下に連れていってはくれないか? 陽の光を知らずにいては、どうもこの部屋で生活を送り続ける自分に嫌気が差してきた頃合いでな。他の使用人は面白味がなくて飽きる。だから、俺は吉富のような人間が来てくれて嬉しかった。これからよろしく頼む」

「はい。暁彦様がそう願うのならば、わたくし神蔵は全身全霊をかけて如何なる困難にも立ち向かう所存です」

 吉富は洗練された所作で礼をする。

 入室してきた頃の緊張めいた顔はしていない。(むし)ろ、とても晴れやかな表情をしている。

 暁彦は再び口を開く。

「吉富に聞きたいことがある」

「何でしょうか?」

「ある本で読んだのだが、『探偵』というのは全く飽きの来ない素晴らしい職だというのは本当か?」

「……探偵、ですか? わたくしはよく分かりませんが、依頼を受けて人の役に立つという点ならば素晴らしい職なのでしょう」

「……そうか。吉富、俺は探偵になりたいんだ。犯罪とはこの目で見れた物ではなければ犯したことはない。だが、『探す』というなら俺は探偵に夢を抱いている」

 暁彦は寝台から出ようと身体をずらす。暁彦は患者の着るような身なりをしていた。

「――吉富は俺の部下だ。探偵事務所を開く時、吉富は事務所のナンバー2となるんだ」

 暁彦は吉富に手を差し出す。

 吉富は暁彦の白い手を暫しの間見詰めた後、彼の手を握った。



 ――この世界は色鮮やかなのに、『彼等』には全てが白黒に見える――。



 六人の男達は出会った。『探偵』という一つの単語を軸に、彼等は奔走(ほんそう)する。

 無くした『自分』と見付けた『自分』。それだけが彼等を突き動かす動力となるのだから。

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