7.二人の≪ロキ≫
長らくお待たせしてすいません、七番手の者です。手術とか入院とかしてたらおそくなっちゃいました。
今回が初投稿ということもあってペンネームとか特にないです。何にしようか......あ!話に北欧神話がちょっと出てくるから《ロキ》にしよう!
......ってのは冗談で、今回はロキ回です。拙い文章ですけど楽しんでもらえたら幸いです。
コメント待ってます!
「行っちゃったねー」
「行っちゃったねぇ」
「「で?不手際って?」」
はぁ。明言はしてないけどこれ絶対疑われてるな、これ。外見は無邪気で可愛い子供だけど中身は......。あんまり想像したくないな。取り敢えず油断大敵。
「えっとですね、本当は女の子の方だけを連れて来るつもりでした。事前の調べだと彼女は常に単独行動なのでまさか他のプレイヤーと一緒にいるとは......」
《裏世界の主》になぜ家臣が二人も来たのか弁明する。正直自分でも苦しい言い訳だと思う。ネット上で人付き合いの仕方が変わる人なんてごまんといる。でも嘘は言ってない。それに奴らの気になってるポイントはきっとそこじゃない。
「まぁ僕達が心配してるのはそこじゃない」
ほらやっぱり。
「そうそう。私達はちゃんとあなたが《箱庭》全体をきちんと支配できてるか、ってことしか心配してないよ」
可愛らしい笑顔で《裏世界の主》が言う。今ほど自分に年下属性がなくて良かったと思うことは無かった気がする。できれば今後も無いといいな。奴らの前でボロを出したら命取りになる。気を引き締めなきゃ。
「セキュリティ関係とGMとしての仕事に関しては全く心配ありません。私にとっては年頃の女の子の心境の変化よりは分かり易いですから」
後半部分に関しては少し情けない気もするが、自信ありげに言い切れた。本当のことだし。
「......君の言葉を信じよう」
「それよりそろそろ《箱庭》に残して来たプレイヤー達の様子を見て来た方がいいんじゃない?」
そういえばさっきあの二人がいた時とうって変わって落ち着いてる。信じるとか言ってるけどまだ完全には信用されてないかな。
「そうですね。では、《箱庭》と《外》の様子を見て参ります」
少し大袈裟なくらい恭しくお辞儀をしてから素早く玉座から離れ、俺ら用の部屋へ向かう。
*
部屋は広さの割りにあまり家具を置いてない。ソファとベッド、あまり大きく無い机だけ。それなりに疲れたしソファにどっぷり腰をかけてくつろぐ。
「ふぅ」
それにしてもここがVROの中で良かった。現実世界と違って聞き耳をたてられても扉をしっかり締めておけば外に音が漏れる心配が無い。例え盗み聞きしようとしてるのが《裏世界の主》であっても。都合上向こうに従ってる形を取っているが、あくまで《箱庭》のシステム上の支配権を持ってるのは《ロキ》だ。
「にしてもつかれましたよ〜。めんどくさい交渉とかを全部押し付けてひどくないっすか先パイ」
ー 仕方ないでしょ。わたしは《外》から《箱庭》に入り込んで来ようとするヴァーテック社員とか政府とかをブロックするっていう大事な仕事をしていたんだから。
うん、問題なく先パイと通信できるみたい。良かった。彼女は《外》の世界に残ってシステムを管理してるこの『計画』の発案者兼世界一のハッカーだ。世界一っていうのは憶測だけど。希望的観測とも言うね。一番じゃないとこの《箱庭》を乗っ取り返されちゃうかもしれないし。
「っても事前に作っといた対策プログラムだけで大半はシャットアウトできるんですよね?」
ー ......まぁそうね。暇だったから片手間にあなたの事見てたんだけどなかなか上手い演説だったわよ。あの手のことが上手いとは思わなかったわ。
「人にやらせといてそれですか......。大勢の前に立つと、あの時は浮いてたけど、少しハイになるじゃないですか?俺は本番に強いタイプなんですよ」
ー 登場シーンでは、物理的だけじゃなくて空気からも浮いてた気がするけど......まぁそれはいいとして。わたし達の名前は結局にしたんだ。
「神話のロキって男でもあり時には女で、ずる賢く人々に恐れられてる。しかも名前の意味が『閉ざす者』、『終わらせる者』。俺達にピッタリだと思って前もってきめてたんですよ!」
この名前が思いついた時えらく興奮した。チーム名を考えるのとか昔から好きなんだよね。
ー うん、やっぱりあなたに任せといて良かった。それにやっぱりあなたと組んで良かった。あなたにはわたしが持ってない物があるからね。自分に神の名前とかつけちゃうネーミングセンスとか。
「最後の部分は照れ隠しとして受け取っておきますね」
話し合いも大事だけど、そういえばプレイヤーの様子見に行かなきゃいけないんだった。もちろん十週間の間プレイヤーをほったらかしにして待つわけじゃない。むしろ逆で動向を常に把握する必要がある。
ふと時間が気になったから右手を振ってメニュー画面を起動させる。
一般プレイヤーは運営がリアルさ?みたいなのを追求した結果ホログラムをポップアップさせることなく念じるだけで持ち物とかステータスを確認できるわけだが、システムに介入して俺だけを例外にしてもらった。この《箱庭》特有の仕様に慣れないうちに俺の持ってるGMの権限が暴発したらシャレにならないからだ。ポップアップ式の方が制御しやすい。
ちなみにこのホログラムは他人から見えないようになってる。本来《箱庭》には無い仕様だからプレイヤー見つかった時に幸せな展開が待ってるとはとても思えないし。まぁ、他人の目があるところでは極力使わないつもりだ。
メニュー画面の右上に表示されてる時刻を見ると、19時半少し前だった。つまりチュートリアルが終わってから30分くらい経ったわけだ。まだプレイヤーに大きな動きは無いはず。
「先パイ、頼みたいことがあるんですけど」
ー ん?何?
「後でプレイヤーの動きを把握しに行こうと思ってるんですけど、この格好じゃ目立つんでもう一つアバター作ってもらっていいですか?」
ー 構わないわよ。外見はどんなのがいい?普通は髪型とか瞳の色とかランダムで決まるけどせっかくだからあなたの好みに合わせて作ろうよ。
「本当ですか!ありがとうございます!」
思わず頬が緩む。
正直なところ、新しいアバターを作る必要があるわけじゃない。ホログラムみたいに俺を他人に見えないようにするだけでもいい。でも自分で《箱庭》を体験した方がプレイヤーの動向が分かりやすい。プレイヤーの動きを把握するのは俺の仕事だ。システム面は先輩の担当だから当分俺の他の役割はバグ探しとかだけ。バグはプレイヤー達が《陽の塔》を攻略するのも邪魔したり、逆に悪用されたりする可能性があるから、任されてる役割は十分大事ではあるけどこの《箱庭》では出番は少なそう。
ってそれっぽい言い訳を並べてみたけど、本音としてはただ遊びたいだけだったりする。俺はいわば広報みたいなポジションで、今《箱庭》はプレイヤーの出入りが無い訳だから正直明日から暇そうだし。俺はこの計画の手伝いをしてるに過ぎない。それに世界初のVROに参加できるだけじゃなくGM権限すら持ってるのに楽しまない手はない!
「まずですね......性別は女の子で!」
ー はい?
「チュートリアルで集まった人たちを見て気づいたんですけど、せっかくの仮想世界ってことで女の子の髪の色が藍色とかライムとか銀とか現実世界ではなかなかいないような色が多いみたいです。もちろんそういう色も捨て難いんですけど、特に銀髮とかいいですよね、ここは敢えて原点回帰ってことで黒髪でお願いします!あ、で、髪型はVRO発売前にゲーム雑誌で見かけた時から目をつけてたんですけど、シリアルナンバー10682237の (中略) っていう感じの美少女お願いします!!」
言いたいことは全て言い切った。我が人生に一片の悔いなし!
...ってあれ?先輩から返事がない。
「先パイ、全部聞き取れましたか?何ならもう一回言いましょうか?」
ー 結構です。
あら?即答ですか。
「なんだ〜、聞いてたなら返事くらいしてくださいよ」
ー どこから指摘すればいいか迷ってて.......。まず、あなたにネカマの趣味があるとは思ってなかったわ。
「いやだなぁ先パイ。ネカマとかそういうんじゃないですよ。俺はいくらキャラが強くたって可愛いいか美しくないと台なしな気分になっちゃうんですよ。見た目の麗しいキャラを使って高みにのぼることに快感を覚えるわけで」
ー 分かった。わたしがあなたの思考回路を理解するのは無理というか無駄なのが分かった。聞いてる時間がもったいないから黙って。
「質問しといてそれは酷くないですか!!?」
ー うるさいなぁ。あなたが色々語ってる間にアバターできたわよ。ん?これって.......
「どうすか?なかなか可愛いでしょ。いや、相当可愛いでしょ。ポイントは目元で...」
ー いや、聞いてないから。ふとどっかで見た覚えがあるなぁなんて思ってたのよ。今気づいたんだけどアバターの外見がこの間あなたのPCを物色してた時に見つけた画像フォルダにあったイラストにそっくりなのね。
え......?今なんと...?
ー それにしても二重ロックがかかってたフォルダ。気になったから開けてみたんだけどね、びっくりしたわ。人の性へ...ゴホン、好みに口を出す趣味はないんだけど......あれはやめた方がいいわよ。
「ちょっと待ってください。何で俺のPCの中覗いてるんですか?」
ー わたしはただパートナーが信用できる人か、隠されてることはないか調べただけよ?なぁに、その結果今私はあなたがわたしに隠してたことは全部わたしが知らなくていいようなものばっかりだったし、調べた結果今わたしはあなたに全幅の信頼を寄せてるわけだし...。結果オーライじゃない。元気出して。
うわぁ。もうやだこの人。自分のこと正当化し始めたよ。もう突っ込む気も失せた。というより突っ込んだら話が別の弱みも暴かれそう......。先輩には一生敵わないんだろうな、悲しいことに。
「お陰様で目が覚めました。こんな下らないこと喋ってる場合じゃないですよね」
ー じゃあ次。《ロキ》として邪魔者とかを処理するには強いに越したことはないんだけど、キャラクターのステータスはどうするの?世界三大ゲーム大会を総ナメなさったチャンピオン様はGM権限を使った全ステータス極振り等のチートはやだ、とか言っちゃう?プライドが許さないとか言って。
いやみったらしいなぁ。やっぱり内心では勝手に俺のPC内を漁ったことに対してやましい気持ちとかあったのかな。
「全ステータス極振りとか少し動いただけで目立ちますよ。せっかくアバターまで作って目立たなくしたのに意味ないじゃないですか」
それに他の人と同じ条件じゃないとGMとして難易度調整をするべきかどうかの判断がし辛くなる。勿論、張り合いも無いしクソゲー化して俺が楽しめない。
ー じゃあどうするの?
「STR(こうげき)極振りがいいです」
ー え?極振りってバランス悪いし欠点が多いって聞いたけど?それにSTR極振りって火力余剰じゃない?
「ボス戦に関しては大人数でも長期戦になるレベルのHPの高さだから余剰ってことはないと思います。でもまぁボス級や耐久型のプレイヤー以外に対してはオーバーキルかもしれないですね。それに耐久力もかなり低いかな」
ー じゃあなんで?
「たとえ紙耐久でも敵の攻撃を喰らわなきゃ問題ないし。AGI(すばやさ)が低くても相手の動きをうまく先読みすればいい話。その辺は他のゲームで培った経験で補えます」
ー それじゃあ唯の縛りプレイじゃない。
「そうでもないですよ?極振りだと一撃で落とせる敵の範囲がかなり広がるから一対多だと攻撃を当てさえすればサクサク進むっていうメリットがあります。《箱庭》は多くても10ポイントくらいまでしか攻撃に振ることを想定しないで作られたみたいで。だって余程の達人か考え無しの人じゃない限り極振りとかしないでしょうしね!」
ー なるほど、そういうこと。確かに極振りは勇気いるわよね。他の部分はほぼ諦めるわけだし。
「俺は負ける気ないですけど、もしもの時って先パイはGM権限使ってBANとかできるんですか?」
ー 一時的に活動停止ならできるわね。本来このゲームでのBANは強制ログアウトを伴うから今はできないのよ。ログアウト不可の状況長期的な活動停止は拷問レベルのことだから精神衛生上良くないだろうし......。
「分かりました」
もう一回時間を確認する。あと十分ほどで20時か。そろそろ行く必要があるかな。先輩と会話してると演説の時とか並みにハイになっちゃうんだよなー、なんでだろ。それにしても無駄に駄弁りすぎた気がする。反省。でもまだ言わなきゃいけない大事なことがある。
「時間が時間なんで最後に一ついいですか?」
ー お、もうこんな時間。
「リィン - 神無さんに関して一つ。無事こちら側に引き入れることはできたんですけど......」
ー 良かった。奴らに反対されなかったのね。で?他に何か問題でもあったの?
「問題ってほどではないんですけど、どうやら他の男とパーティを組んでたみたいで奴らはそいつも仲間に引き入れました」
ー えっ?神無が他人と?しかも男?
やっぱりかなり動揺してる。だから言い出しにくかったんだ。
「ええ。かなり信頼してるように見えました。この部屋に俺が来る直前に塔の外に送り出しました」
ー そう......
「彼 - アイドって言うんですけど、俺もよく知らないんでどう言う奴かは先パイの目で確かめてください」
ー 分かった......
やっぱり心配みたいだな。それもそうか。
「他になんか確認しておきたいこととかありますか?」
ー ない、かな。うん、大丈夫そう。
ソファから立ち上がる。小さく伸びをする。いくら感覚がリアルだからといって流石に体が固くなってるわけじゃない。ただの癖。
「じゃあそろそろ行きますね。次会えるのはいつですかね。取り敢えずお互い頑張りましょう」
ー セキュリティは任せてね。
「先輩の腕は身を持って体感してるんで全く心配してませんよ。ではまた今度、先パ......夕奈さん」
そう言ってから通信を切って、《ロキ》であることを一旦やめてアバターを変えてから、俺は《箱庭》
へ旅立った。
ハイテンションで押し切ったらなんかグダグダしちゃった感が...。リレー小説難しいですね。
一人目のロキを変人枠にしようと思ったんですけどこれじゃ痛い人ですね。
それじゃ、次の人がんばれ!




