「2人」
どうも4話担当でございます。処女作故何かと至らぬ点あるかと存じますが生暖かい目で見ていただければ幸いです。
―田島 春子
「…-チャルロールプレイオンライン開発会社であるヴァ―テック社の発表によりますと、本日午後8時、メインサーバーが何者かに攻撃を受け、維持不可能となったとの事です。ヴァーテック社の記者会見の…」
「このような事態を招いたことは誠に申し訳ありません。現時点での対策としては、電源を抜く、ヘッドギアを体から外すなどの強制終了措置を講じる事です。しかし、これらは危険な作業でありますのでくれぐれもご注意くださ…」
(私は何をしているのだろうか。夕食の片づけが済みテレビを見ていると、オンラインゲームでの事故のニュースが流れたことまでは覚えている。気が付いたら息子の頭に繋がれた機械に手を掛けていた。ニュースでは何と言っていたか?ヘッドギアを頭から外す…?この深緑色の機械のことか…)
―あなた、私達の子供は私が守ります―
*
―田島 和也
(暖かい光が足から頭を包んでいくのを感じる。
今まさに転移しようかというとき、リィンと僕は固く手を握っていた。
リィンと一緒なら何とかなる、なんとなくそう思って…)
*
―田島 春子
勢いよくヘッドギアに手を掛ける。瞬間、和也の頭が電流に包まれ、ヘッドギアが固く固定される。非常警報用のスピーカーが甲高い音、いや声を発した。
『おめでとう!このヘッドギア使用者は幸運にも《裏世界の主》の家臣に選ばれたよ!以後10週間に渡りこの体は《ロキ》のコントロール下に置かれるんだ!死なないように管理しておいてねー!よろしくー!』
*
―田島 和也
光が消えると、そこは白黒の世界だった。まるで、《ロキ》が言っていた《裏箱庭》のように…
「どういうこと…?」
「私にも分からない。ただ、ここが《裏箱庭》であることは確かなようね…」
(ここは塔か?まさかさっき言っていた《影の塔》…?いやまさかそんなことは…というかよくこいつはこの状況で冷静でいられるな…)
突如声が響く。
「さあ!君の王に会いに行きなよ!」
《ロキ》の声だ。君、という点に引っかかるが、言われるがままリィンに手を引かれて前に進む。
《箱庭》であったならば豪華絢爛であったであろう塔の最上階に位置する玉座には、拍子抜けするような光景が広がっていた。
「ようこそ、我々の世界へ。」
「歓迎するわ。私達の2人目の家臣さん?」
おそらく男女2人組であろうその人たちは、《裏箱庭》には似ても似つかぬ双子の子供であった。
「2人目、というのはどういうこと?」
「「えっ?」」
(声を揃えて首をかしげる。かわいい。ではなくて…)
「申し訳ありません!おそらくこちらの不手際で2人もこの世界に…何なりとご処罰を!」
(突然態度を変える《ロキ》をリィンは不思議な物を見ているかのように見つめていた。)
「どういうこと…?」
「おそらく《ロキ》はあの2人の家臣でしょうね。それで私たちのどちらかを召喚するつもりだった、というところかな?」
「大正解!よくわかったねー。」
「仕方ないから特別に君たち2人を家臣にしてあげる!」
(リィンの冷静さはこの状況でも健在か…。そして、その後聞いた話は僕たちには到底信じがたい物で、受け入れがたいものだった。
僕たちは《裏世界の主》の家臣であり、《裏箱庭》でプレイヤーと決闘をして帰還を妨げること、《陽の塔》に行きプレイヤーを殲滅することが任務であると告げられた。)
「そんなこと出来るわけないじゃない!そんな、人を、殺す…なんてこと…」
「そう?嫌ならいいんだけど、ただ君は死ぬかもねー?」
「そうそう。ちなみに協力すれば君は絶対に死なない。いいことずくめじゃない?」
「それに、別にシステム上君が決闘で倒したって死ぬわけじゃないし?10週間以内にクリアできなかったら死ぬだけー!」
(こいつらは揃いも揃ってテンション高いな…しかしこれは従うしかないのか…?)
「アイドはどうなのよ!こんな奴らに手を貸してプレイヤーを殺すの!?」
「えっと、俺は…」
*
―田島 春子
(対処法を間違えた?でもテレビではそう言っていた…
どうして?なんで私の子がこんなことに…
こうなると分かっていればこんなゲーム絶対に許可しなかったのに…)
植物状態と化した和也を抱きしめつつ後悔の念にさいなまれる春子。
しかし、彼女と同じ状況におかれた母親がまた一人…
*
―水無月 夕奈
『おめでとう!このヘッドギア使用者は幸運にも《裏世界の主》の家臣に選ばれたよ!以後10週間に渡りこの体は《ロキ》のコントロール下に置かれるんだ!死なないように管理しておいてねー!よろしくー!』
この音声は神無の母親である彼女の下にも届いていた。彼女もまた自責の念に駆られていたのであった…
*
「…回の事件を受けて警察は捜査を開始しましたが、いまだ進展はないとの事です…」
「…くの被害者は原告団を結成、ヴァーテック社に対して訴訟を行う構えで…」
*
―沖田 翔
沖田 翔。和也の友人であり、また今回の事件の被害者でもある。彼は単独で《ノルン》の町に飛ばされ、現在パーティ募集中である…
(ったくなんでこんなことになってるんだ…10週間以内に倒さなければ死ぬとか正気の沙汰じゃない…おまけに知り合いもいないしどうしろっていうんだ…)
初期の4つの町はそれぞれ特性があり、《マール》は魔法の町、《ノルン》は剣の町、《ゾッカ》は商業の町、《ペタラ》は職人の町という風になっていた。おそらくチュートリアル後にそれぞれ転移するはずだったのだろう。
(俺はもともと剣が好きだったからいいものの、《ゾッカ》などにでも転移してたらと考えるとゾッとするな…とりあえず情報を集めないことには何ともならん。こういう時の定番は酒場だよな…?)
酒場。それはRPGでの冒険者が集う定番の場所。それはVROでも同じであり、そこは熱気で包まれていた。もちろん、それは冒険者独特の熱気ではなく、怒りであったのだが…
翔が到着したとき、そこは怒号が飛び交う場所であった。そんな中で、彼は隅で本を読んでいるプレイヤーを見つけた。
「こんにちは!隣、いいかな?」
「…………。」
「えっと、聞こえてる?」
「…どうぞ。」
(どうにも感じの悪い子だな…情報屋っぽかったが初日じゃそんなものもないかな…)
「何か御用ですか?」
「えっ?」
「席なら向こうにあるでしょう。何故わざわざここに座ったのですか?」
「えーっと、そうそう、君が読んでる本が気になったんだ。それ、何の本?」
「北欧神話です。《ロキ》と名乗っていたでしょう?何かヒントがあるかと思いまして。」
「それで、手掛かりは?」
「ロキとは、《閉ざす者》、そして、」
―《破壊する者》―
*
《箱庭》の中心に位置する王都、その中央に《陽の塔》は位置している。同心円状に美しく広がった町並みを貫くようにそびえ立つ塔、それが突如変質を始めた。
塔の先端が色を失い、一部が崩落し《影の塔》とそっくりな形を現す。また、町も外側からまるで浸食されるかのように灰色となっていく。
《裏世界の主》が動き出した瞬間である…
なにかと崩壊させたくなる人です。
脳内映像を文字に起こすのは大変ですね。
以上、Kでしたー




