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リレー小説書きます  作者: 蟻
3/9

3, 始まりの終わりは突然に

どうも皆さんこんばんは、音速の3話担当(自称)です。正直死にそうです。

3話としての充分な働きはした……はず。あとは任せた4話担当!

「なあ、そういえばなんで広場に向かってるの?」


一人でスタスタと歩いていってしまったリィンを追いかけながら、今更のように疑問を投げかける。

後ろから眺めているとよくわかるが、本当に綺麗で流れるような髪だ。いつか触らせてもらいたいな…………じゃなくて!


「おーい……聞こえてるー?」

「………………」


へんじがない。ただのしかばねのようだ。


「……このゲーム、プレイヤー登録のところでチュートリアルがなかったでしょ? 《ステータス》の欄にもそれらしいものはなかった。だから、そろそろ運営の方から大々的なチュートリアルがあるのかなって思って」


どうやら、しかばねではなかったらしい。


「なるほど……」

「アイドはゲーム……というかネットゲームに全然詳しくないみたいだから、真面目に聞いといた方がいいと思うよ。まあ、私も知らないことだらけなんだけどね。何しろヴァーチャル空間でのゲームなんて世界でも初めてのことだし」

「は、はい」


なんというか、リィンには世話になってばかりだ。そもそも、彼女がVROを譲ってくれなければ僕はこの《箱庭》にいないわけだし。

いつかまとめてお礼をしないとな。何がいいだろう。やっぱり、ゲームでの恩はゲーム内で返すべきなんだろうか? それとも、明日学校で何かあげたりとか……あれ? 普段の水無月さんって何が好きなんだろう?

うーん…………


「……何唸ってるのよ。着いたよ、広場」

「……え!? あ、マジで?」

「マジ。全く、そんなに熱心に何を考え込んでいたのか……」

「え、いやまー……アハハハ……」


まさか、キミのことを考えていた、なんて言えない。正確にはキミの好きなものを、だけど。

と、まあそれはさておき、目的の広場に着いた。

えーと、《マール中央広場》か。そのまんまのわかりやすい名前だな。このゲームに詳しくない身としては、これくらいの方が嬉しい。

さて、この《マール中央広場》はかなり大きな広場のようで、ところどころでNPCのものと思われる露店が開かれ、そこかしこでプレイヤー達が談笑していたが充分な広さがあった。


「さすが中央広場って感じだね。めちゃくちゃ広い」

「確かに。始まりの街ってことで最初はプレイヤー全員がここに来ることになることも考えて、広くしたんでしょうね」

「へええ、なるほどねー」


よく考えられているものだ。僕だったらそんなところまで気が回らないだろう。そもそもゲームなんて作れないけど。

そんなことを話していると、徐々に広場に人が増えてきた。僕らと、というかリィンと同じことを考えた人が集まってきたのだろう。この雰囲気からすると、もうすぐチュートリアルも始まりそうだ。



ゴーンゴーンゴーン



突然、パッと見た感じマールの街で最も高い建物であろう時計塔の鐘が大音量で響いた。


「始まるようね」

「そうだね、これは」


そう、この鐘こそがチュートリアル開始の合図だろう。むしろこれで何も起こらなかったらフラグ詐欺だ。

そして、そんな僕らの確信を裏付けるように、アナウンスが始まった。


《皆さんはじめまして、ヴァーチャルロールプレイオンライン~箱庭の世界~をプレイして頂き、誠にありがとうございます。運営代表のものです。これより、公式チュートリアルを始めたいと思います。今この瞬間からチュートリアル終了まで、全てのダメージと、エネミーモンスターの動作を停止いたします。戦闘中のプレイヤー様は、あらかじめご了承下さい》


なんだか、イメージよりも堅苦しいんだな。こんな世界的な一大ゲームの初回チュートリアルはもっと華やかで楽しげなものなんだろう、と予想していたので正直意外だ。あくまでもリアルさにこだわって、運営からの介入は最低限に済ませるということなんだろうか。


《…………ヴァーチャルロールプレイオンライン、略称VROは世界のリアルさをテーマとしており……》


……眠くなってきた。この調子だと、ゲームシステムについての細かな説明などは期待できないんじゃないだろうか。

それに立っているのも疲れてきた、気がする。ヴァーチャル空間だからそんなことはないと思うのだけど。


「ねえ、」


どっかで休まない?

リィンにそう声をかけようとした時のことだった。


『その声』が聞こえてきたのは。


『そいつ』が現れたのは。


そして、その瞬間に今までのVROは消滅したのだった。


『ねえねえ! いつまでそんなクソつまんない話を続けてるのさ!』


いきなり、チュートリアルを続けている運営の人の声を遮って、別の声が乱入した。

『その声』はやけにキンキンと響いて、聞く人を思わず不快にさせるようなものだった。言うなれば、食器を金属製のフォークで引っ掻いてしまった時のような。やけに耳に残る声だ。


『もう、待ち疲れっちゃったよ。せっかくチュートリアル終了までは待ってあげようと思ったのに。さっさと終わらせないキミ達が悪いんだからね!』


そんな台詞と共に信じ難い現象が起きた。なんと言えばいいんだろう。こんなの見るのは初めてだけど、敢えて言葉を当てるなら、


「世界が裂けた……?」


そう、文字通り空中に裂け目が出来たのだ。そして、その世界の裂け目から、『そいつ』は現れた。

魔法使いが着ているローブ、と言えばわかるかな。あの黒いローブのフードの部分に猫耳が、腰の後ろの辺りに尻尾が着いた半分着ぐるみのような外套をすっぽりと被り、顔には全体を覆うような白い仮面を被った小柄なやつだ。顔を覆う仮面と身体のシルエットを隠すローブのせいで正直言って性別は分からない。

まあ、ゲームのアバターだから実際の身長や声なんかも分からないんだけど。

『そいつ』は、全身に《システムエラー(異常因子)》と書かれた赤い警告ウィンドウを纏っていた。

明らかに異質な見た目とそのオーラに、僕らプレイヤー全員は誰一人として反応できずにいた。


『まったく、世界初の完全ヴァーチャル空間ゲームのメインサーバーのプロテクトがあの程度なんて、興ざめもいいところだよ。ボクはこの日を楽しみにしてたっていうのにさ!』


しかし、そんな僕らの反応なんて気にも留めず『そいつ』はあくまでマイペースに話を続ける。

訳のわからない愚痴を言いながら肩を回そうとして、やっと自分にまとわりつく警告ウィンドウに気づいたようだった。

警告ウィンドウに気づいた『そいつ』は、ウィンドウをいとも簡単につまんで取り除いてしまった。


「なんなんだよこいつ……」


ようやく声を絞り出した僕を嘲笑うかのように、『そいつ』はさらにとんでもないことを言い出した。


『もしかしてこれってセキュリティシステムだったりするの? この程度でボクを止められると思われてるなんて、失礼じゃないかなー。ねえ、キミ達もそう思わない?』


そんなことをプレイヤー達に問いかける『そいつ』。キンキン声が響いて、頭が痛くなってきた。隣を見るとなんだかリィンも辛そうに見える。


「大丈夫?」

「ええ、まだなんとか。それにしても、なんなのよアイツ。いきなり出てきて好き放題言って」

「わからない。でも、少なくとも歓迎されるべき客ではなさそうだね」

「そのよう……ね」


リィンととりあえずお互いの無事を確認をし、『そいつ』の正体について話をする。

すると、まるでそんな僕らの会話を見透かしたように、『そいつ』は新たな話を始めた。


『あ、そういえば自己紹介がまだだったね。これはごめんごめん。ボクはこの《箱庭》のメインサーバーを完全ハッキングした。そして、ボク以外の全ての人間から《箱庭》に対する管理者権限を奪ったんだ。つまり、』


そこで『そいつ』は言葉を切り、ひと息置いたあと宣言した。


『ボクがこの《箱庭》の《唯一神(ゲームマスター)》だ』


そう言い放った『そいつ』はシシシッと特徴的な笑い声をあげながら、


『と言ってもキミ達はまだ具体的には意味がわからないかもね。まあ、とりあえずボクはこの世界の全てを意のままにできると思ってくれて構わないよ。実際その通りだしね!』


嬉しそうに、心底楽しそうに言った。

僕は視線は『そいつ』に向けたままリィンに訪ねた。


「ねえ、もしかしてこいつってとんでもないこと言ってる?」

「もしかしなくても、とんでもないわよ。めちゃくちゃプロテクトが厚いはずの《箱庭》のメインサーバーをハッキングして乗っ取るなんてありえないレベルのことに決まっている」

「だよねえ……」


やっぱり『そいつ』の言っていることはありえないくらいおかしいらしい。僕が意味がわかってないだけかと思ったけど、そんなことはなかったようだ。


『さて、自己紹介も状況説明も終わったことだしそろそろボクの目的を言おうか』


こちらは欠片も納得していないが勝手に話を進めていく。マイペースなのは性格なのだろうか。


『こういうので回りくどいのは嫌いだから単刀直入に言うよ! ボクの権限でこの《箱庭》はログアウト不可能となりました! 完全に異世界となったこの世界でキミ達がどうするのか、ボクに見せてよ!』


……『そいつ』の放った言葉を僕らは、リィンも含めたこの《箱庭》にいるプレイヤー全員は、すぐには理解できなかった。

しかし、しばらくすると徐々にその言葉の意味を理解していき……


《マール中央広場》は感情の爆発に包まれた。


「ふざけんな!?」「早く帰せ!」「死にたくない!」「なんなんだよ……」、そんな叫び声、そして絶望、憤怒、悲壮、疑惑などの感情が広場を飛び交う。それだけ、『そいつ』の言葉は僕らに衝撃を

与えた。

このように広場が喧騒に包まれるなか、僕とリィンは何も言わずに次のアナウンスを読んでいた。

といっても、その行動の理屈はそれぞれで違う。

僕は未だに脳が『そいつ』の言葉を理解しようとしないため、声をあげられずにいる。しかし、リィンの様子を見る限り彼女は『そいつ』の言葉の意味をすべて理解したうえで敢えて何も言わずにいるようだった。なぜだか、その横顔は少し嬉しそうに見えた。


『まったく誰だい今「死にたくない」とか言ったのは。人の話は最後までは聞くものだよ。誰も「戦闘不能になったら実際にも死亡」なんて言ってないじゃん』


それを聞いて、多くのプレイヤー達はそっと胸をなでおろす。僕もその一人だ。どうもデスゲームではないようだった。


『じゃあ引き続きルール説明をしていくよ! さっきも言った通り、戦闘不能になっても実際に死ぬなどのペナルティはなしだよ。ただし、戦闘不能から蘇生する場合、特殊な処理を行うんだ』


そう言いながら『そいつ』は自慢げに両腕を横に大きく伸ばした。


『さっきボクは《箱庭》のマップデータをコピーして、もう一つのマップを作ったんだ。それが《裏箱庭》!』


愉快で仕方無いとでも言うような喜々とした声をあげる『そいつ』。メインサーバーのハッキングはこともなげにこなしたいうだが、これには手間取ったのかもしれない。


『《裏箱庭》は、見た目としてはこの世界と全く同じマップからごく一部を除くすべての生物オブジェクトを取り除き白黒にしたものなんだ。戦闘不能になったプレイヤーは全員強制的にこの空間に転送される。この《裏箱庭》は決闘の世界。この世界でプレイヤー同士の決闘に勝ったプレイヤーのみ蘇生できる、というルールなのさ!』


つまり、死んだらすぐには生き返れず、他の空間に飛ばされてそこで他の死んだプレイヤーと決闘をし勝った方が蘇生できる、と。


『あ、もちろん、戦闘型じゃないプレイヤーのために救済措置はあるから安心してね!』


聞いてもいないことを話す『そいつ』。何がそんなに楽しいんだろう。


『さて、蘇生ルールの説明も終わったしメインディッシュに行こうか。ずばり! このゲームの終了条件!』


「おぉ」


思わず声が漏れてしまう。

『そいつ』の話す狂気的な内容と、そのキンキン声にあてられてすっかり意気消沈としていた他でプレイヤー達もすかさず顔を上げる。


『おー、いい反応だね。そんなに期待されるとボクも張り切っちゃうよ』


おどけたように言いながら、例のシシシッという笑い声をあげ、このゲームの終了条件(あとでリィンに聞いたところこういうのをグランドクエストと言うらしい)を説明し出した。


『ここ《マール》は《箱庭》の北端に位置する街なんだけど、《箱庭》の中心、つまり、ここから南に進んだところに《陽の塔》っていう塔があるんだ。……ところで、さっき《裏箱庭》の説明をした時「ごく一部を除く全ての生物を取り除いた」って言ったけど、そのごく一部っていうのが、《裏世界の主》なんだ。そしてこの《裏世界の主》はこちらの世界での《陽の塔》に対応した建物である《影の塔》を根城にしている。そして、《影の塔》と《陽の塔》の対応性を利用して、こちらの世界に侵略しようとしているんだ。《裏世界の主》の力は圧倒的で、完全にこちらの世界に侵入された場合、一瞬でこの世界は滅ぼされてしまう。だから、《裏箱庭》から《箱庭》に移っている最中の力が弱まっている時に倒すしかない。つまり、この《裏世界の主》の討伐がゲーム終了条件だよ!』


……………………。


「長々と話していたけど、つまりどういうこと?」

「ここから南に行ったところの《陽の塔》っていうところにラスボスがいるからそいつを倒せばゲーム終了ってことよ」

「なるほど!」


最初からそうやってわかりやすく言ってくれればいいのに。あれだろうか、自分が考えた設定は事細かに説明したいタイプの人種なのか。


『とは言ったけども、これはただ《陽の塔》に行ってラスボスを倒せばいいっていうわけじゃない。さっき言った通り、《裏世界の主》を討伐可能なのは、やつがこちらに侵入を始めてから、完全に侵入し終わるまでの間だけなんだ。そして、やつは今日から9週間後に侵入を開始し、10週間後に侵入を完了しちゃう! そして、《裏世界の主》は《陽の塔》最上階である10階に侵入をするんだ!』


「……………………」

「……9週間後までに《裏世界の主》が来る10階にたどり着く、つまり1週間に1階層のペースで《陽の塔》を攻略していき、最後の1週間でラスボスである《裏世界の主》を倒せばゲームクリアよ」

「ありがとう!」


さすがリィン。すばらしくわかりやすい説明だ。

なるほど、1週間に1階っていうのがどの程度のペースなのかはわからないが、やるべきことはわかった。

だったらなんとかなるだろう。お婆ちゃんも常々「自分のやるべきことを見極めろ」って言っていたし。

よし! やってやるぞ!


「10週間を過ぎたらどうなるんだ……」


誰かがどこかでそう呟いた。なぜかその声は他のプレイヤー達の話し声に打ち消されることなく、よく響いた。


『あ、それを聞いちゃうー?』


耳聡くその呟きを聞き取った『そいつ』はまた嬉しそうに、しかも軽く言い放った。


『そりゃもちろんゲームオーバーだよね! ログアウト不能ものでゲームオーバー……これ以上言うことは必要かな?』


この言葉で僕らプレイヤーの間に再び緊張が走る。

戦闘不能で命を奪われないからと安心しきっていたけど、それだけで命の心配がないと安心していいわけはなかったようだ。


『じゃあもう質問はないかなー!? じゃあ最後に。この《箱庭》には東西南北それぞれの端に始まりの街が1つずつ、合計4つあるんだ。それぞれ《マール》《ノルン》《ゾッカ》《ペタラ》っていうんだけど、キミ達を今からランダムでその街のいずれかから半径1km以内のどこかに飛ばすから。そこからスタートってことで! あ、パーティー組んだらその人達は同じところに飛ばすから今のうちにパーティー組んじゃっていいよ!』


へえ、パーティーか。同じ地点で確定で始められるって安心感があるな。とりあえずリィンに組んでもらいたいな。

……組んでもらえるだろうか。いや、弱気になっちゃだめだ!


「ね、ねえリィン。俺とパーティー組まない?」

「え?」

「あ、いや、えーと……一人よりは二人の方が安全じゃん? どこで始まるかわからないわけだし?」

「ク、アハハ、もちろんそんなに必死に頼まれなくても組むよ。私もアイドと一緒の方が安心するし」

「ほんと!? ありがとう!」


良かった。これで断られたら立ち直れる気がしなかった。

《ステータス》からパーティー申請を選び、リィンにパーティーを申し込む。


《リィンさんとパーティーになりました。》


無事にパーティーになれたようだ。これでスタートから一人ぼっちってことにはならない。リィンを一人にすることもなくなる。

……僕の方が守られる側な気もするけど。ステータス的にも、知識的にも。


『そろそろいいかなー? じゃあキミ達をランダムで飛ばしちゃうよ!いい感じのところでスタートできるといいね!』


僕らの身体を不思議な光が包む。これが転移の魔法なんだろう。光量はとても多いのに眩しくはない。不思議な光だ。


『あ、そうだ。ボクの名前を伝えてなかったね。うーん……そうだなー……あ! なんかVROのメインサーバーをハッキングして内部資料漁ってたら《ラグナロク》とか《アースガルズ》とかいう単語があったんだよね。たぶん初期案では北欧神話をモチーフにする予定だったんだろうね。だからボクも北欧神話から名前を貰うことにしよっと』


どんどん視界が光染まっていく。これが完全に僕の身体を覆ったら転移するんだろう。

僕は、思わず隣にいるリィンの手を握った。なんでそんなことをしたのかはわからない。もしかしたら不安だったのかしれない。

リィン握った瞬間に一瞬手を引こうとしたようだが、すぐに握り返してくれた。


『決めた。ボクのことは《ロキ》って呼んでよ』


こうして、僕らの命をかけた10週間の冒険が始まった。

つーわけでとりあえず1話担当の意向に沿ってデスゲーム化させときました(

一人称視点って難しいです。ブレブレでしたorz

では、さらば!

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