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リレー小説書きます  作者: 蟻
2/9

2.邂逅

遅れて大変申し訳ありません。

二番手担当の植木鉢です。

二日とか言ってた奴なんなんだろ。俺ですね、俺ですよ。すみませんでした。

待ってくれた他の奴ら、本当にありがとう。

後は・・・頼んだ・・・ぐはっ

 


 *

 side水無月 神無



 今日もつまらない学校が終わる。朝、定刻通りに学校へ来ては適当な文庫本を読んで時間をつぶして、面白くもない授業を受けた後にクラスメイトと事務的連絡をして帰る。

 ただ淡々と流れていく日々はいつか変わるのだろうか・・・大学に入って就職して、結婚して家庭を作り、老後を過ごしてそして死ぬ。今の私たちの未来なんてこんな言葉だけで十分だ。平凡でつまらない、いや、平凡なのはいいんだけどつまらないのは嫌だ。やっぱり、こんなプログラムに沿って動くだけの生活なんて変わればいいのに。ああでも変わっちゃうのはちょっと怖いかもなぁ・・・。

 窓際の席から見える灰色の薄暗い空を眺めながらとりとめのないことに想いを馳せてるといつの間にかホームルームが終わっていた。

 部活に行こうと慌ただしく準備する人たち、帰りにどこかに遊びに行くのだろう、楽しげにカラオケやゲームセンターの話をしている人たち、その場で勉強を始める人・・・そんな放課後になった直後の忙しい雰囲気に満たされた教室の風景が、けれど私に精巧な絵画でも見ているような気持ちにさせる。

 いつものことだがやっぱり少し寂しい。でもまぁ今日はいつもと少し違うんだけど。

 私は憂鬱だった学校とは違い、楽しみにしていることを思い浮かべながら教室を出る。

 その時、


「ゲーム、欲しいよなぁ・・・」


 そんな呟きを、聞いたような気がした。



 *



 早々に学校を出た私はいくつかの電車を乗り継ぎ隣町にある学校から最寄りのゲームショップへ向かった。

 そう、私が楽しみにしていたのはとあるゲームなのだ。

 そのゲームはVRO、ヴァーチャルロールプレイオンラインという正式名称があるが、もっぱら「箱庭」と呼ばれることが多い。というのも、このVROというタイトルの副題として「箱庭の世界」というのが採用されているのだ。私にはその副題の方を英語にした方が良かったと思えてならないのだが。制作会社が何を考えていたのかは分からないから仕方ない。調べれば分かるかもしれないけど別にそこまで興味はないし。

 それはともかく、このゲームの大きな特徴はリアルさを求めたことだろうか。従来のゲームのように自分がキャラクターを操ってゲームをプレイするのではなく、自らがゲームの中に入って自分自身がそのゲームのキャラクターとなるのだ。そしてさながら自らの周りの世界が異世界に変わったかのように思えるそうだ。そのためにヘッドギアを装着し、脳波を読み取ってキャラクターを動かすらしい。その仕組みは秘匿され、詳しくは分からない。そしてその技術が脳に与える影響を政府が認可するかどうかで今まで発売が延期されていたけど、今日やっと発売する。


 閑話休題それはさておき。


 学校から最寄りのゲームショップ。ゲームショップとは言ってもそんな洒落たものではなく、田舎に存在するゲームのあるお店といったものだ。けどそれでも私にとってはゲームショップだし、下手な都会の店より品ぞろえはいいらしい。

 そんなゲームショップには既にVRO――「箱庭」でいいよね?――のヘッドギアを買いに来た人で溢れている。その値段から多くは大人だけど制服を着た私と同じ高校生らしき人もちらほら列に並んで買うのを待っている。私もその列の最後尾に並ぶと、粋なゲームショップの計らいか、設置してあるテレビから流れる「箱庭」の紹介動画などを見つつ、店の前でヘッドギアを売っている販売所までの時間をつぶす。


 そうして私の番が来た。

 当然1つだけ買うつもりだったけど、何故だか急に2つ買う気分になってしまった。

「ゲーム、欲しいよなぁ・・・」の呟きが頭をよぎったからだろうか。それとも私がいつもの私といつもとは違う私をゲーム中で使い分けたかったのだろうか――「箱庭」はヘッドギア一つにつき一つしかキャラクターを作ることができない――。けれどどれもしっくり来ない気がする。きっとこの時2つ買う気分になった理由は後になっても分からない、そんな気がした。

 でもラッキーなことにお金には余裕があるし、たまにはそんな贅沢もいいかな。


「すいません…2つお願いします…」


「数に限りがあるので2つだと割高になりますが、よろしいでしょうか?」


「ええ…構いません…」


「二つで12万円になります。・・・払えますか?」


 制服を着ているからか支払い能力に疑問を持たれてしまったが、私は普段からお金を使う性質たちではないので大丈夫だ。無言で財布から紙幣を取り出して、店の前のテントにいる係員に渡す。


「はい。確かに12万円ですね。右手にある受け取り所で引き換えてくださいね。」


 言われたとおりに引換所で引き換えて、テントから出て周りに居る人と同じようにヘッドギアを眺めてみる。緑がかった紺、所謂深緑色をしている。その流線型の形はどことなくかっこいいかもしれない。一通りの検分を終えて、さあ早く家に帰って「箱庭」に行こう、と私にしては珍しく上機嫌になっていた時、


「まじかよぉ…俺のVRO…」


「あ…田島…」


 何処かで聞いたような声が聞こえてきて、そこには地面に手と膝をつき頭を垂れるという典型的な格好をした田島が悲嘆に暮れていた。どうやらヘッドギアが直前で売り切れてしまったらしい。

 私の声を聞いて、田島はガバッと起き上がると驚いた顔で私を見た。


「へ?水無月さん?どうしてここに?ってそれVRO!?」


「あ…うん…」


 勢いに押されて思わず返事をしてしまったが、田島もヘッドギアを買いに来たらしい。


「しかも2個ある!?お願い!譲ってください!」


 田島はそう言うと勢いよく頭を下げる。


「お金なら出します!お願い!」


「えぇ…どうしよう…かな…」


 ・・・正直こんなに人がいるところで騒いでほしくなかったけど、売ることも含めて気分がいいから許してあげよう。


「じゃあ…5万…」


「え…」


「どうする…?」


 思ってたより高かったのか慌てて財布を取り出す田島。なんだか面白くて挑発するようなことを言ってしまった。因みに5万というのは1つ買ったときの値段だ。田島は1つしか買わないのだからこの値段でいいだろう。流石に、吹っかけてお金を取る程私も悪人じゃない。同じクラスで席も隣だし。


「わ、わかったよ!5万、出すよ!」


「交渉…成立…」


 尚も慌てつづける田島がおかしくて少し笑ってしまう。私はどうやら自分で思っていたよりも「箱庭」をできることが楽しみだったらしい。


「はいこれ、ヘッドギア。」


「あ、ありがとう!この恩は今度学校でね!」


「わかった…」


「じゃ、じゃーねー!」


 そう言って彼は駅の方へ走り去ってしまった。

 駅から走って来たからだろう、顔の赤かった彼のことを嵐のようだったな、と私は一瞬考えたが、私も早く「箱庭」をやろうと彼の消えた駅への道を足早に歩き始めた。



 *



 家に帰った私は「箱庭」の正式サービスが始まる18時の20分前には学校のことや夕食などすべてのことを終わらせてしまっていた。20分何もせずに待つのは大変だ。私はおなじみの文庫本を取り出し栞のページを開いて、読み始める。だけどゲーム開始を待ち焦がれてる私の頭には内容が全く入ってこない。さっきから何度同じページを読んでいるか。仕方ない、私は文庫本に栞をはさみベッドの脇に置いて寝転がる。

 シャツとインナーだけ着た状態で布団に入ってヘッドギアをつけて電源を入れる。肌を柔らかく滑る布が気持ちいいと思いつつNOW LOADINGの文字を見つめ、私は残りの時間が経過するのを待つ。

 こうして私は「箱庭」に旅立った。



 *

 side田島 和也



 暗くなっていた俺の視界が明るくなると、目の前にはまるで鏡に映したかのようにそっくりな俺が立っていたどうやらキャラクターメイキングをするらしい。現に聞こえてくるアナウンスもそう言っている。どうやら髪の色とか造形、声まで変えられるようだ。

 ただ、俺はキャラクターメイキングとか細かいことは分からないし、そこまで気にならない性質だから俺自身の姿で「箱庭」をプレイすることにした。

 アナウンス声に従い、完了のボタンに触れる。システム音がピロンと鳴りステータス画面に移った。このゲームはリアルさを特徴にしているが、ゲームシステムにもそれは採用されているらしく、レベルやスキルやそれに伴うシステムアシストによる挙動の補助はなく、ステータスの大部分、というかほぼすべてが最初のステータス割振りで決定してしまう。だけど、実際のところこうも横文字が並んでると俺には何が何だかわからない。だって見てくれよ、これ。どういう意味か分かったもんじゃない。


 VRO――「箱庭の世界」――へようこそ!


 《ステータス設定》 残りポイント20


 STR 0

 AGI 0

 DEX 0

 VIT 0

 INT 0

 MND 0

 HP 0

 MP 0



 全部横文字じゃねえか・・・。少しくらい説明があってもいいものだと思うんだが、不親切な制作会社だ。

 まぁ、俺もゲームくらいするからHPとかMPとかはわかるけどVITとかINTとかその他諸々の意味は全く分からない。

 ・・・こういう時はあれだ、お婆ちゃんが言ってた。選べる状況なら目を瞑ってでも選べって。そう、つまり目を瞑ってどれかを選ぶんだ。そしてそこに賭けるんだ。

 俺は目を瞑り、右手に人差し指で「1」を作る。まっすぐ上に持っていき俺の目の前に展開するウィンドウに下ろす。すると俺の指は期待通りにポーンという音とともにどこかの項目をタップする。正直失敗しなくて良かった。実は目を開けずに指を振り下ろして何かに当てる動作って難しいんだよね。

 そうして、恐る恐る目を開けてみると俺の指はSTRという項目を指していて、その数値は1を示していた。

 それを見て俺は自分のステータスに覚悟を決めた。


 VRO――「箱庭の世界」――へようこそ!


 《ステータス設定》 残りポイント0


 STR 20

 AGI 0

 DEX 0

 VIT 0

 INT 0

 MND 0

 HP 0

 MP 0



 よし、残りのポイントを全て振るボタンで操作は簡単に終わったし、さっさと次に行こう。次はどうやらキャラクターネームの決定のようだ。これでもう戻れない。まぁ戻る気も戻るボタンもないんだけど。

 さて肝心の名前だけど、実は決めてある。カッコよさと母さんからもらった本名の妥協点を考えて「アイド」という名前だ。

 早速ウィンドウに入力して次へ進む。

 これで設定は終わりみたいだ。うむ、シンプルでいいね。



 *



 設定が終わったところで壮大な感じのするオープニングと共にゲームのロゴが表示されてチュートリアルが始まった。凄いなーとか適当に思いつつ、早くゲームがやりたい身としては邪魔なだけなのでスキップする。

 チュートリアルをスキップすると一度視界が暗転した後、俺は急に青白い光に包まれて地面に降り立った。

 どうやら 無事「箱庭」に旅立てたらしい。

 俺が降り立ったのは、石畳に日本でも田舎に行くとあるような民家が立ち並ぶ結構大きな街、所謂始まりの街という奴だったようで、それを証明するかの様にすぐそこの看板には「マール」ーー始まりの街ーーと書いてある。

 それにしても人が多い。この「マール」の広場はそれなりに広いけど人が多過ぎてだいぶ窮屈になってしまっている。他人が多いところはあんまり好きじゃないし、とりあえず現状確認のためにも一旦、人の少ないところへ向かうことにする。

 広場に面する路地の一つを抜け、人のいないところを目指す。歩いてる途中に周りを見渡すとその驚くほどのリアルさを改めて実感する。

 立体なのは仮想現実だから当然だとしても、道の端に植えてある街路樹を触ってみるとその質感に驚かされる。ゴツゴツとコブのある幹に、微かに葉脈の筋が判別できる葉。

 どれほどの技術によって再現しているかはわからないが、そよ風とそれに揺れる木々とわさわさとした葉擦れの音。さらには木々を見上げたそのまた向こうに見えるゆっくりと流れゆく雲。


「ほおぅ・・・・・・」


 思わず感嘆の溜息を漏らす程爽やかで美しい景色でありながらこれがデータの塊であるポリゴンでできているという。はっきり言って、信じられない。

 石畳の街と相まって何処か異世界に来たような感じを俺に与えるが、よくよく考えてみると仮想現実というのは最早異世界と言っても遜色ないんじゃないだろうか?

 柄にもなくそんな思索に耽っているとなかなか良さげな裏路地が見えてきた。ゲーム開始直後で更に裏路地だからだろう、NPC、プレイヤーに関わらず人がほぼ全くいない。

 だからと言って真っ暗な訳でもなく適度に陽光が差し込んでいて、しかもベンチまでーーいや、どうも先客がいたようだ。

 先客は俺と同じくらいの少女。

 彼女はどうも何かに絶望しているようで、「箱庭」初日のサービスだと言うのに萎れてしまった花ように膝を抱えたところに頭を埋めて、ベンチの上に座っていた。

 これがスカートだったら嬉し恥ずかしなパンチラなのになーとか軽く現実逃避して面倒なことになったなぁという思いを誤魔化しつつ、初期装備の麻のシャツとスボンを穿く彼女を観察していると彼女も此方に気づいたらしく顔を上げた。

 と、思ったら上げて此方を確認した途端にその顔をバッと下げて、しかも先にも増して自分を守るかの如く自らの膝をキツくかき抱いてしまった。しかも耳を傍立てると微かに「どうして・・・どうして・・・」と呟いて啜り泣いている。

 一瞬見えた顔は何と無く見覚えがあるような気がしたが、それよりも何よりも少し前まで泣いていたのが良く分かるほど泣き腫らして赤くなった目が印象的だった。


 正直サービス開始直後からこんな明らかな面倒事に関わりたくないけど、明らかに此方のことを知ってて驚いた風だったしなぁと俺が悩んでいると、彼女の方もどうやら少し落ち着いたらしくおすおずと此方を見上げてくる。


「ねぇ…貴方、田島君よね…?」


「・・・・・・」


「ねぇ……ねぇってば!」


「お、おう…田島だが」


 暫く唖然としてしまって声も出なかったが、それも仕方がないことだと思う。


 見ているだけで触り心地の良さそうな絹糸が如き白銀の髪に薄いけれど深い青ーー薄藍とでも言おうかーーそんな瞳。少しつり目気味だが、ちょこんとした小さな唇に形の良い鼻がそのつり目の無愛想さを打ち消している。

 そして藍に白銀という涼しげな印象を持った彼女が、今はその若干のつり目に涙を浮かべ、しおらしく膝を抱えて此方を見上げていた。

 その予想の斜め上を行く可愛さに動揺し過ぎていた俺は、真っ先に考えなくてはならないゲーム内でのリアルネームの発覚という重大なことにすら気付かず、相手の問いに首肯してしまっていた。


「そっか…じゃあ田島…ちょっと愚痴聞いて…」


「え…あ、あぁ、そのくらいならお安い御用だけど…」


 ヤバイ、今絶対俺の顔真っ赤だ。

 幸い俯いて俺に問いかけた彼女は気付いてないようだけどどうしよう。こ、こうなりゃ男は度胸、なんともない振りして隣に座ってしまおう…。


「ぐ、愚痴聞くのはいいんだけど、なんで君は俺の名前を知ってんだ?」


 彼女の隣のスペースに腰掛けつつ、なんでもない振りをして彼女の方向を見ないようにして疑問に思ったことを尋ねる。それでも言葉の端に動揺が出てる気がしたけどそこは気にしない。


「え、あ、え…?あ…そっか…ここはもう「箱庭」の中だもんね…。

 なら、改めて…水無月 神無…です。」


「み、水無月さん!?き、奇遇だね!さっきはありがとう、お陰で助かったよ。

 え、ええとそれで、愚痴だったよね。俺で良ければ喜んで相手になるよ!」


 驚いた。というか驚き過ぎた。確かに水無月さんならあの可愛さも納得だけど、なんというか、元々あんまり化粧とかしなさそうな娘だったけど、着飾ると凄い可愛いな…。

 そ、それは兎も角愚痴を聞くんだったな。

 しかし、本当にどうしてここまで悲嘆に暮れてるんだろうか、まぁこれから分かるだろうけど。


「それで、なんで水無月さんはこんなところでずっと泣いてたんだ?」


「え、ええと…その…ステータス設定の画面があったじゃない…?端的に言ってしまうと…………しまうと………うぅ…ぁ…私のばかぁ…。」


 結局ちゃんと聞き出すのに10分くらい掛かったけど、その代わりだいたいのことは分かったし、水無月さんもだいぶ落ち着いたようだ。


 水無月さんの話を纏めると、キャラクターメイキングの時の決定ボタンーー画面中央右端にあるーーを押したところ連打してしまったらしく、キャラクターメイキングの後のステータス設定画面でVITの値の「残りのポイントを全て割り振る」ボタンを一緒に押してしまい、それに気付かずステータス設定画面の決定ボタンも押してしまったそうだ。

 つまり、さらに端的に表すと所謂VIT極振りという状態になってしまったらしい。


 ・・・え、極振りってそんなに悪いことなの?俺の読んだことのある小説には極振りの主人公がメッチャ強かったんだけど。

 それを彼女に伝えたところ、バッカじゃないの!?と彼女にしては本当に珍しく、大声で怒られた。クラス初日に下の名前で呼ばれた時以来のことだ。

 どうも彼女によると極振りが上手くいくのはお話の中だけの話であり、実際は他の要素での欠点が多過ぎでダメダメらしい。


 その後話し合って、彼女のステータスの件は運営にメールをして直せるように掛け合ってみるということで、一応の決着がついた。

 そこで、俺は自身の当初の目的だった装備などの確認を行うことを提案してみると、彼女もまだ確認していなかったらしく、快く応じてくれた。


「箱庭」にはメニュー画面などはなく、勿論アイテムボックスやレベルなんかもない。代わりにあるのはステータスという万人が使える魔法ーー魔力を消費することもなく、人々に元々備わっている機能らしいーーと冒険者鞄、熟練度と言った現実的なものばかりだ。

 こう言ったところもリアルさを追求しているのだろう。ステータスの魔法も頭に自らの情報が表示されるだけで、操作は念じて行うようだ。どうやら目の前にホログラムが現れるような不思議要素をできるだけなくしたいらしい。

 けれど納得のいかないことに武器防具を装備する時はその重さというのは無視されるみたいだ。何故だ。


 兎に角、俺たちは自分の冒険者鞄にあるものを確認する。

 因みに、この冒険者鞄というのは大きさに関係なく10種類のアイテムを10個ずつまで入れることができる袋だ。

 そして、当然どちらも今日ゲームを始めたばかりだから持っているものは同じだ。


 初心者用ポーション×10

 初心者用武器セット

 初心者用防具セット

 10000V


 思ったより種類が少ないな。それぞれ確認してみる。自分の持ち物だからか念じるだけで詳細が分かる。

 初心者用ポーションは回復量は少ないがHPとMPを同時に回復してくれる優れものだ。

 初心者用武器セットと初心者用防具セットはそれぞれ自分の好きな系統の武具、さらにはその種類まで決め、望んだものがその宝箱型のセットから出てくるもののようだ。

 例えば偏に剣と言ってもカトラスや刀、一般的な片手剣であるグラディウスやフランベルジュ、レイピア、大剣、スネークソードなどその種類は多岐に渡る。

 こんな感じで好きな系統の好きな種類の武具を選ぶことができるようになっているようだ。

 確かにこれなら多くの人のニーズに応えつつ、初心者らしく一種類の武具のみを与えることになる。スキルなどがない「箱庭」だからこそできるなかなか上手い方法だ。

 最後に残った10000Vだが、これも謎だ。

 Vというのは「箱庭」でのお金の単位でヴォル、と読むらしいがそれはいい。

 問題はその金額だ。恐らくだがさっきこの裏路地に来るまでに見た武器屋の商品を鑑みるに、初心者用の武具のグレードをワンランク上げて見繕ってようやく使い切れる金額位だろう。初心者全員に渡すにははっきり言って多過ぎる。

 まぁあって困るものでもないからいいけど。

 水無月さんも丁度確認し終わった風だったので興味本位で質問してみる。


「水無月さん、水無月さんは初心者用武器セットでどんな武器にするつもり?」


「そうね…私はこんなステータスだし…大盾と長槍のセットね…。何故か2種類でワンセットになっているみたいだけど。

 それと…その水無月さん、はやめて頂戴。「箱庭」ではリィンという名前よ。」


「あぁうん分かった、リィンね。因みに俺はアイドだ。改めてよろしく。」


 思ったより強く言われてしまった。どうやら水無月さんは無口じゃなくて思っていることを余り喋らないだけのようだ。最初の時よりも緊張せずに話せていると少し嬉しく思って、さらに質問を続ける。


「みな・・・リィンはなんでその武器にするの?さっきはステータスをもう一度直せるように運営に問い合わせるって決めたじゃん。」


「えっと…上手く言えないけれど、なんだかやり直せないような気がして…。設定し直せるなら設定の時にも戻るためのボタンはあったでしょうし、ここが「箱庭」…つまりもう一つの世界ならやっぱりこの世界も時間に沿って流れていくし、それなら過去には戻れないんじゃないかな、ってね…。

 何と無くそう思っただけだから確証はないのだけれど。」


「そっか…。そういうことならいいんじゃないかな。VITが何かは良く分からないけど、リィンがそう決めたなら。」


 俺は逆にこんな世界だからこそやり直しが効く、そんな気がしてたけど折角いい感じで話せてるのにわざわざ雰囲気を悪くすることもないだろうと、リィンに同意する。


「ありがとう、ところで貴方…。VITが分からないってどういう…こと?」


 リィンは戸惑ったように困った顔をしてこちらに尋ねてくる。ヤバい、困り顔も可愛い。じゃなくてだな…。


「ん?そのままの意味だけど?

 あー、つまりVITってどういう意味なんだ、ってことだよ。」


「いえ、そういうことを聞いてるんじゃ…って本当に分からないの?本当に?」


 彼女が驚いて呆れた顔でこちらを見てくる。薄藍の瞳が驚きに円くなるのも可愛い…って違う。


「あぁ、他にもSTRとかAGIとかあったけど、HPとMP以外はよく分からんな。

 良かったらあれどういう意味なのか教えてくれないか?」


 リィンは、最早頭痛が痛いわ…と呟き眉間に指を当てながらも説明してくれた。

 簡単にするとこういうことになるらしい。


 STR:主に攻撃力を司るパラメータ

 AGI:主に素早さや回避率を司るパラメータ

 DEX:主に器用さや命中率を司るパラメータ

 VIT:主に防御力、一部HPを司るパラメータ

 INT:主に魔法攻撃力を司るパラメータ

 MND:主に魔法防御力、一部MPを司るパラメータ

 HP:体力を司るパラメータ

 MP:マジックポイント、精神力を司るパラメータ


 成る程、分かりやすい。

 リィンならぬ、水無月さんは勉強もできるからな・・・説明が分かりやすい。


「ところで…その…つかぬ事を聞くけれど…貴方はこんなことも知らずに、どうやってステータスを決めたの…?」


「え、いや、その…お婆ちゃんの知恵で、かな…?」


 ここまで詳しく説明されて、しかも相手が操作ミスしたステータスに絶望してたから、適当に決めたステータスが申し訳なくなってきて、つい誤魔化しに走ってしまった。

 案の定リィンは狐に抓まれたような顔をしている。可愛い。これじゃあ俺が可愛いしか言えないコミュ障のようだが、そうとしか言えないのだから仕方ない。


「いや、その…正直に言いますと、勘で適当にです…。」


「え?は?……ハハッ、アハハッ…………はぁ…」


 リィンは驚き、茫然自失の様で乾いた笑い声をあげた後憂い顔で溜息をつく。

 そうして疲れた顔でこちらに向き直った。


「もういいわ、貴方の武器もどういうステータスにしたかも聞かないし、何も言わない。いちいち気にしてたら私の方が持ちそうに無いわ…。」


 げんなりした様子で席を立ち上がったリィンが、広場の方に歩いて行くのを見て、俺も慌ててその後を追いかける。

 俺より少し背が低くて、けれど肩甲骨辺りまでの白銀の髪を風に靡かせ前を見つめて歩くその堂々した姿は先程までベンチで蹲っていた少女にはとても見えず、それを間接的にも成したのが俺だということを思うと少し嬉しくなるのだった。




長くてすみません。

あと、話全然進まなくてすみませんでした。


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