その1!
その1担当です。
がんばります。
「はぁ…」
今日も憂鬱な一日が始まる。
毎日朝起きて学校に行き、そのまま帰ってくる生活。
学校にも潤いが無く、つまらない日々が続くだけ。
「あら神無おはよう。ご飯出来てるわよ。」
「わかった…」
別に学校でいじめられてる訳では無い。
まあ、友人が多いのかと聞かれるとそうでもないのだが。
「いただきます…」
「はい、どうぞー」
もそもそと食べる。今日の朝食は大根の味噌汁と卵かけご飯だ。
嫌いな物は無いが、さすがに寂しいと思う。
面倒なので文句は言わないけど。
「ごちそうさま…いってきます…」
「はい、いってらっしゃい」
家を出て、学校に行き、面白くもない学校でつまらない日々をただ繰り返す。
こんな日々が変わればいいのに。
私はふと、そう思った。
*
ジリリリリリリリリ!
「んぁ…?」
ジリリリリリリリリ!
「おっと、目覚ましか」
枕元の時計が鳴っている。スイッチを押して目覚ましを止める。
「朝か〜」
昨日夜更かししていた所為で、あまり寝れていない。
大好きな学校に行く為、早起きを心掛けている俺には少し辛い。
「あ、やべ、今日母さんいないじゃん」
寝不足の上に朝食無し。
これは年頃の男子高校生には辛いものがある。
「仕方ない、とりあえず学校に行くか」
こんな朝からいないのも、僕の為に働いてくれてるからだ。
父は10数年前に亡くなり、顔も覚えてない。
女手一つで俺を育ててくれる母さんには頭が上がらない。
「いってきまーす」
家には誰も居ないが、挨拶だけはしておく。
(「〝いってきます〟と言うのは、行って帰ってくると言う意味が含まれているの。この挨拶だけは絶対に忘れないでね。」)
いつもどこか抜けてる母さんの言葉が頭に浮かぶ。
なんとなくふわふわしている母親が、この時は真面目な顔をしていた。
「さて、今日も元気に学校に出発だ!」
鞄を背負い走り出す。
暫く走ると、前方に人影が見えた。
「お、水無月さんだ。」
登校中にクラスメイトと遭遇する。
なんだか毎日を詰まらなさそうに過ごしてるイメージがある。
顔は綺麗だし、スタイルもいいから上手くすればクラスの中心人物になれそうなものだけど。
「どうしよっかな〜」
普通なら迷わず話しかけるところだが、相手はあの水無月さんだ。
クラスが出来て初日に、下の名前を呼ばれてからは話しかけてくる声を全て無視して帰った伝説がある。
「流石に無視されそうだし、かといって神無って呼ぶのもヤバそうだしなぁ…」
そうこうして迷っているうちに、
「よお!和也、元気してたかー?」
クラスメイトの沖田 翔に遭遇してしまった。
「おはよう、翔。てか昨日の夜まで話してたんだから元気も何もないでしょ」
「はっはっは、寂しい事を言うなよ和也〜。和也様、あの夜の事も忘れてしまったのですか?なんておいたわしい…」
「あの夜ってなんだよ…」
翔と話してる間に、水無月さんはいなくなってしまった。
「おい翔、お前の所為で水無月さんと話すチャンスが無くなったじゃんか」
「あん?水無月さん?やめとけやめとけ、あの人めっちゃ怖いから。知らねえの?」
「いや、知ってるんだけどさぁ…」
「なのになんで絡もうとするんだよー。あ、あれか?好きなのか?」
「違えよ」
「さいですか…」
「さて、早く学校行かないと遅刻するぞ。走るか翔。」
「あ、待てよ!」
*
「ふう、なんとか間に合ったかな?」
「アウトだ馬鹿者。」
「げ、まじかよ…」
朝礼の先生が坂沼先生だったために、遅刻。
坂沼さんは遅刻に厳しく、少しでも遅れたら遅刻にしてくる厄介な先生だ。
これは翔を恨んでもいいと思う。
「ちっくしょー。翔の奴…」
「ん、沖田の事か?あいつの所為にしているから成長しないんだぞ、田島。」
「へいへいー」
「さっさと着席しろ。」
言われた通りに席に着き、授業の準備をする。次の科目は確か英語だったはず…
「田島、遅刻したの?」
「え?」
話しかけてきたのは、隣の席に座る水無月さんだ。
「え、ああ、そうだけど…」
「…私の、所為?」
「え、なんで?」
「いや…後ろでなんか、話し合ってたから…」
「あー大丈夫。あれは沖田が悪いんだ。水無月さんが気にする事はないよ。」
「…そう…」
「そうそう、気にしないで。」
「わかった………ありがとう…」
「あ、え、…うん。どういたしまして」
意外だ。
彼女が自分から、しかも自分の所為ではないかという呵責によって話しかけてくるという事自体が意外なのに、お礼まで言うとは。
実はいい人なのかもしれない。
「さて、英語の準備を始めるか。」
今日もまた、楽しい一日が始まる。
*
「うぁ〜」
一日の授業が全て終わり、放課後だ。
僕は特に入っている部活も無く、予定としてはこれから帰るつもりだ。
だが。
「ゲーム、欲しいよなぁ…」
欲しかったゲームの発売日が今日なのだ。
個人的には今日すぐに街へ繰り出し、ゲームを購入してそのまま家でゲームを満喫したい。
「よし、行くか!」
待ちに待ったゲームなのだ。
僕は月始めに食費など合わせて5000円もらえるのだが、毎月貯めてるので結構懐は暖かい。
「買ってやる!買ってやるぞ!」
そのゲームの名はVRO。ヴァーチャルロールプレイオンラインというのが正式名称だ。
その名の通り、仮装世界で自分の好きなキャラを使い、生活していくゲームらしい。
しかしこのゲーム、ヘッドギア方式で頭に装着し、仮装映像ではなく、脳に直接映像を送る方法でゲームをするため、脳に与える影響に対して問題があり、発売出来なかったらしい。
僕も母さんには反対されたが、たまにわがままぐらい許してくれるだろう。
駅に着き、電車に乗り、隣町へ。
そこのゲームショップへ行くと、既に長蛇の列が出来ていた。
「はいはい!押さないで!押さないで!VRO、残り5個!」
「げ、まじ?」
走る。走る。走る。走る走る走る…
「売り切れでーす!」
間に合わなかった。
「まじかよぉ…俺のVRO…」
「あ…田島…」
「へ?水無月さん?どうしてここに?って、それVRO!?」
「あ…うん…」
「しかも2個ある!?お願い!譲って下さい!」
「ええ……どうしよう…かな…」
「お金なら出します!お願い!」
「…じゃあ、5万…」
「え…」
「どうする…?」
無表情に見つめてくる水無月さん。
てか、水無月さんって本当に綺麗だなぁ…じゃなくって!
「わ、わかったよ!5万、出すよ!」
「交渉…成立」
そう言って微笑んだ水無月さんの笑顔が僕にはとても眩しく見えた。
「はいこれ。VRO。」
「あ、ありがとう!この恩は今度学校でね!」
「わかった…」
「じゃーねー!」
そう言ってダッシュで帰る。
電車に乗り、降り、家まで走り、気付いた時には家のベッドで、VROを着けて寝ていた。
「よし、始めるぞ…」
スイッチに手を掛け、ONにする。
瞬間目の前に光が満ち、新たな旅立ちを感じさせるBGMが鳴り出す。
それにしても今日は凄い日だった。
朝水無月さんに話しかけられたと思えば水無月さんからVROを譲って貰った。
「いってきます」
本当に、本当になんとなくそう呟く。
こんな日々がずっと続けばいいのに。
僕はふと、そう思った。
終わり。
その2は頑張ってね!




