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第8話

イジメに気付いた次の日。

昨日と同じでシューズには画鋲・・・だけではなく下駄箱そのものが歪まされていた。

「酷い・・・」

「・・・・・・・」

みるみる元気を失っていく千里ちゃんはこの前までの笑顔は見られない。

なんでこんなことに・・・・・

一体千里ちゃんが何をしたっていうんだよ。

僕は隠しきれない程の憤りを感じていた。




≪遠野千里side≫


ずっと言いだせなかった。

実はここに転校して数日が経ってすぐにシューズに画鋲は入っていた。

杉目さんが西木さんにシックスセンスの事を話した日。

私はすでにイジメあっていたのだと思う。

きっと前までのは私が突然転校して来てみんなの注目を集めたのが気に食わなかった人がいるんだろう。

ただ、それだけで日が経てばみんな騒がなくなって、そんな些細な事も無くなるだろうと思っていた。

実際そのイジメはすぐに終わった。

足がちょっと痛くて歩き方が変になってしまったのを御勘さんにバレてしまいそうになった。

きっと心の中では気付いてほしかったんだと思う。

そして、本当に気付いてくれた御勘さんに心魅かれてしまったんだと思う。



そして、また数日が経つ。

クラスメイトで移動教室の時によく手を繋いでくれる秀全君が私に

「放課後ちょっと付き合ってくれないかな?」

と言ってくる。

いつもお世話になっていると思うので私は二つ返事で

「はい」

と答えた。

そして放課後、私が手を引かれ着いた場所は体育館裏らしい。

私は少し緊張していた。

それは怖さからの緊張の方だ。

私は実は間違った選択をしてしまったのではないかと思った。

私は目が見えない。

だからもっと警戒するべきだったんだと。

「突然連れて出してすまない」

秀全君の声が聞こえた。

「いいですよ、いつもお世話になってるですから」

「そう、それはよかった」

彼は少し安堵しているようだ。

秀全君はみんなが言うにはとても優しい人だって事は聞いている。

実際優しくもしてくれた。

でも、声は緊張していた。

「遠野さん、僕は君が転校して来てからずっと気になってました」

そしてそれは突然だった。

「遠野さんは目が見えないから一生懸命に授業を聞いて、自分で出来る事と出来ない事をしっかりと見極められて頼ってくれる」

それは、私も一生懸命になる。

自分に出来る事も理解はしてる。

そうじゃないと他の人に迷惑をかけかねないから。

「僕はそんなしっかりとした遠野さんの姿にいつの間にか僕は目で追っていた」

彼は小さく深呼吸をする。

私は彼の話しが終わるまで喋らなかった。

ここに来て私もやっと理解した。


これは告白なんだ。


そして秀全君は意を決した様子。

彼も緊張しているんだ。

「そして、僕は分かったんだ」

緊張が最高潮に達した。


「僕は、遠野さんが好きだ。僕と付き合ってくれないか?」


私は泣きそうになってしまった。

本当に嬉しかったのと同時に少し申し訳なかった。

私は・・・その告白を・・・


「ごめんなさい」


断った。

「そうか・・・」

彼の残念そうな声がした。

「理由を聞かせてもらえるかい?」

理由・・・それを聞かれた時、私の頭の中をよぎったのは御勘さん名前だった。

「好きな人がいるんです」

声は震えていた。

「そうか、質問攻めみたいで悪いけど・・・その人っていつもベランダに行く時に手を繋いでる彼かい?」

御勘さんも私のせいで有名になってしまっている。

「はい」

「もしかして、もう付き合ってたりするのかな?」

「い・・・いえ!まだそういう訳ではありませんです!」

つい口調が強くなってしまった。

「そうか・・・だったら僕はまだ諦めないよ」

秀全君の意志がしっかりと伝わってきた。

まだ諦めない。まだ私の事を好きでいてくれるんだ。

そして私はその事に対して

「ありがとう・・グスッ・・ござい・・まず」

泣いてしまった。

私には彼がどんな人なのか分からない。

今どんな顔をしているのかも分からない。

けどきっと困っているのだろう。

私が泣いてしまった事に困っているのだろう。

けど、これは嬉し涙。

この震えは喜びに震えているだけ。

私は少し泣いた後出来る限り笑顔に徹した。

「断ってしまってずうずうしいかもしれませんが・・・これからも手を引いてもらえませんか?」

少しの間が空いて。

「遠野さんが引いてもいいと言うのなら喜んで」

と私の手を強く握ってくれた。


きっとこの時近くに誰か居たのだろう。

秀全君の告白の話しはすぐに広まっていった。

そこから本格的に私に対してのイジメが始まった。

これは私が秀全君の告白を断った報いと思った。

彼は本当に人気があって優しい人なんだ、そんな人の心を惹きつけた。

そして告白され断った。

きっと彼の事が好きな女の子は多いのだろう。

私はすぐに嫉妬の対象になった。

きっとこれは断った事の報い。

だから私だけが受けるべき痛みなんだよ。

だから御勘さん。そんな悲しい声をしないでください。


痛みは私が受けるべきものなんですから。


≪御勘直喜side≫


次の日、千里ちゃんは校門前で待っていた。

ずっと黙ったままだったけど、手を繋いでいる間は笑おうとしていた。

下駄箱前、僕が先に千里ちゃんのシューズの中を見る。

ヂャラ・・・・・

昨日と同じで画鋲が入っている。

下駄箱の歪みもそのままだ。

千里ちゃんが後ろで待っている。

僕は近くにあるゴミ箱に画鋲を捨てて千里ちゃんの前に置く。

「いいよ」

僕がそう言うと千里ちゃんが足でシューズの場所を探りながら恐る恐る履く。

中に何も無い事に安心して、少し息を漏らした。

そして手を繋ぎ教室に向かう。

僕達は割と朝早い目に来ているため静かだ。

その静かな廊下を歩いている時階段近くで屯って話している女子の集団がこっちを見ている。

その目には嫉妬が込められている。

僕等がその階段に差し掛かり上に登っていく。後ろでは小さな声で話声がする。


「いっつも手繋いでもらってウザくない?」

「しかも最近秀全君に告白されたって」

「あっ!知ってる!それ結局フッたんでしょ?」

「そうなのなんでも『他に好きな人がいる』だってさ」

「絶対調子乗ってるよ、あの子」

「だよね、だからシューズに画鋲入ってても仕方ないよね」


あいつ等がこんな事してるのか・・・

なんで千里ちゃんがあんな奴らに・・・でも。

今、ここであんな奴ら怒ったって損なだけだ・・・分かってる。

ここで怒る事は負けだ。相手の思うつぼだ。

でも・・・隣で震えてる千里ちゃんを見てると心が締め付けられる。

痛い・・・苦しい・・・自分の事じゃない。

でも痛い。

「大丈夫?直喜君、顔色悪いよぉ?」

「・・・大丈夫」

全然大丈夫じゃなかった。

でも耐えた。早くこの現実を終わらせるために。

きっと千里ちゃんの方が辛い。

僕以上に辛いはずなんだ。だから何も言えないんだ。

誰にも心配かけたくないから。

「・・・・・・・・」

黙っている千里ちゃんを見る。

顔は青ざめている。とても健康そうには見えない。

僕は強く手を握った。

そして急ぎ足でその場を去った。


2-B教室前、いつもはここで千里ちゃんと分かれ2-Aの教室に入る。

だけど今日は心配になって2-Bの千里ちゃんの席まで送る事にした。

千里ちゃんの席は窓際の一番後ろから一つ前。

その机には落書きがされていた。

少し不可解ではあったが落書きされている内容は根も葉もない嘘ばっかりだった。

千里ちゃんはそんな奴じゃない!

誰が・・・誰がこんな事してるんだ!!

僕は鞄から消しゴムを取り出し机の字を消していく。

奈美聴も手伝ってくれたけど中には油性で書かれたものもあって油性の物は後で消す事にした。

そして僕は2-Aの教室に入る。

矢飛が挨拶をしてくる。

「おはようお二人さん」

「おはよぉ」

「・・・おはよう」

「御勘君、顔色悪いね。考えすぎは良くないよ」

「そうだな、悪い。けど早くどうにかしてあげたいんだ」

早く終わらせてあげたいんだ。

「そんなの私だって同じよ、でも今は動くべきでは無いの。目星は付いても証拠が無いから」

そう、目星は付いている。

手羅さんが言っていたようにイジメを行っているのは2-Bの生徒である事は明白だった。

ついさっきの階段に居た女子は2-Bの生徒だった。

でも、あいつ等がやったという証拠が無い・・・今は何もできない。

けど今日はきっと少し違うと思う。

むしろ違うと願いたい。

手羅さんも秀全社も千里ちゃんを守ってくれるはずだ。

そう願った、今はただそう願った。



一限目、僕は気分が悪くなったので保健室に行く事にした。

奈美聴も矢飛も心配そうにこっちを見ていたがちょっと無理に笑って教室を出た。

教室を出た後僕は保健室に向かわず図書室のベランダに向かった。

これじゃまるで不良生だな・・・と自分で思いながらベランダに出る。

誰か・・・居る?授業中なのに?まぁ自分が言えたものではないけど・・・

僕が来た事に気付いた生徒が僕の方を見る。

その生徒は僕の知っている人だった。

「なんで、こんな所に居るんです。手羅さん」

「御勘少年に言われたくは無いよ」

松北手羅だった。

でも・・・なんで・・・

「千里ちゃんを守ってくれるんじゃなかったんですか?」

「そうだな、守る。だが、私が授業に出ては遠野女子とは別問題で守れない」

「別問題?守れない?」

「そうだ。授業抜け出して来たのだろう?少し話しをしよう」

手羅さんの顔は無表情だった。

「私がクラスから距離を取っている理由。教諭に嫌われている理由も話そう」

僕は手羅さんの近くに座った。

「まず私が距離を取るのは簡単にあの2-Aに存在する女子のグループが嫌いなのだよ」

それは昨日聞いた通りだ。

「イジメをし、他人を貶める。自分の立場が危ないと思えば他のグループに交じっていない物を餌とし自分を守る。そんな下衆なグループだれが入りたいと思うものか」

現実にそのグループが存在し。今も千里ちゃんが標的にされている。

誰もがみんな強くない。そんな自分の意志を主張出来ない。

それが現実だった。

「そして、私が教諭に嫌われているかだが。私は頭が良いのだよ」

知っている。校内で1位争いには決まって手羅さんと秀全社と(たまに)奈美聴が出てくるくらい頭が良い。

でも、それに先生が嫌う意味なんて

「以前からな私はこうして授業抜け出し一人世界を眺めていたのだよ。そして、その行動が気に食わなかったのか教諭達が私にテストを出した」

「テストですか?」

「そうだ、そのテストで満点を取れたなら授業は受けなくていいとな。そして私は満点を取った」

そこは良かった。でも問題は別にあった。

「そのテストの問題は大学で出るような物でな。専門の者しか分からぬような問題だったのだよ。そして私はそれを全て満点で解いたのだ。教諭方から威厳は消え授業に出れば私を腫れもののように扱うのでな。私は自ら授業には出ないようにしているのだ」

知らなかった。手羅さんにそんな事があったんなんて。

「でも、今だけは千里ちゃんを守るために授業に出てくれませんか?」

手羅さんは昨日と同じで「はぁ」と溜息をする。

「分かってます。授業で腫れもの扱いされるのが嫌なのも分かります。嫌な事させようとしてるのも分かってます。だから無理にとは言いません。嫌なら断ってください」

僕は自分の言いたい事を言った。伝えたい事を伝えた。

手羅さんは再び「はぁ」と溜息をつくと「君は・・・本当に優しいのだな」と続けた。

「だが、今回は断らせてくれないか?」

それが手羅さんの答えだった。

僕も断ってもいいと言うのを嘘には出来ない。

「わかりました。休み時間は千里ちゃんの事頼めますか?僕達も2-Bに行きますけど出来るだけ多い方がいいと思うので」

「うむ、分かった」

「僕はもう行きますね」

「非行には走らぬようにな」

いつものように手羅さんが茶化す。

「授業に全く受けない手羅さんに言われたくないです!」

こういうのは笑い話にした方がいい。

テレビでもそう言ってた気がする。

手羅さんは「それもそうだな」と言って笑っていた。



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