第6話
研究所を壊滅させた次の日。
僕達の日常が帰ってきた。
僕と奈美聴は一緒に登校している。
学校の校門前では千里ちゃんが待っていた。
「ただいま」「ただいまぁ」
そう言って僕と奈美聴は千里ちゃんと手を繋いだ。
「おかえりなさい」
千里ちゃんは僕達の声を聞いて安心したのか泣き始める。
「この前の杉目さんのお話をきいて・・・もう・・・かえって・・グスッ・・こないかと・・・」
少しづつ言葉にならなくなっていった。
でも千里ちゃんの気持ちは十分に伝わっている。
「心配かけてゴメンね。そして、ありがとう」
「千里ちゃん、はいハンカチだよぉ。使って」
僕達は千里ちゃんが泣き止むまでそのままでいた。
朝の教室もいつも通りだ。
矢飛と「おはよう」と軽い挨拶を交わし和やかな会話をする。
そして朝の時間は過ぎていき授業が始まる。
◆
昼休みには千里ちゃんが僕達の教室まで来てから図書室のベランダに向かう。
今日は珍しく手羅さんが先に来ていた。
「やぁ少年少女達。気分はどうかね?」
「普通ですよ」
「そうか」
そこで僕は気にかかっていた事を聞いてみる。
「あの手羅さん」
「なんだ?」
「あの子供達に居場所が出来たんでしょうけど・・・これからどうなるんですか?」
「さぁな」
手羅さんの返事はそっけなかった。
「さぁなって・・・」
「そこは子供達の意志が必要なのだよ、研究所で折られ叩き壊された・・・意志がな」
「・・・・・・・・・・」
「大丈夫だ。あの子供達の望む事は出来る限り政府も協力はする。私の権限でな」
「そうですか、ならよかったです」
そしてもう一つ
「倉木は・・・どうなるんです?」
「奴は下界送りになった」
「下界送り?」
「うむ、ただ働くだけの施設。それ以外の物は何も無い、近くに何かあるわけでもない、ただ無情に働くための施設があってそこで働いてもらう・・・永遠にな」
働くだけの施設。
法で裁けない悪人はほとんどそこに送られるらしい。
「そう苦しそうな顔をするな少年、奴は裁かれて当然の事をやったのだ。罪は贖わねばならないからな」
「・・・・・・・・・・」
「やっぱり君は優しいな」
僕は黙ったままだった。
「ただ優しすぎる。その悪人さえも許してしまうような甘い優しさはいつか自分が損をする。時には甘さを切り捨てる覚悟を持て」
「・・・・・はい」
そこからは昨日の話しは出てこなかった。
◆
放課後の教室、僕は部活に行こうとする矢飛に声をかける。
「どうかした?」
「いや・・・それほどのことじゃないんだけど、あのさ・・・僕って甘いのかな?」
少し間があいた。
「今更何言ってんのよ。御勘君は甘いに決まってるじゃない。話はそれだけ?」
「あ・・あぁそうか・・悪かったな引きとめて」
矢飛が教室を出ようとする。
教室を出る手前矢飛は足を止める
「でもね、あんたはそれで良いのよ」
それだけ言って走って出て行った。
放課後の帰り道。
一緒にいる奈美聴と千里ちゃんにも聞いてみる。
「やっぱり僕は甘いのかな?」
昼休み手羅さんに言われた事を完全に引きずっている。
さっきも矢飛に同じ質問したばっかなのに。
「甘いねぇ」
「甘いです」
二人の答えは同じだった。
「やっぱり・・・」
「でもねぇ、直喜君はそれで良いんだよぉ」
千里ちゃんも頷いている。
「前にも言ったでしょ?私達はそんな優しい直喜君が好きなんだよぉ。だから優しいままでいてよ」
「奈美聴・・・・・」
「御勘さんはやさしすぎるから御勘さん何です。やさしくない御勘さんは御勘さんにして御勘さんにあらずです」
「千里ちゃん・・・・・」
そっか、みんなはこんな僕で良いと言ってくれるんだな。
手羅さんの言う事はもっともだ・・・時には甘さは切り捨てなきゃならない。
でもきっと、それは今じゃない。
「ありがとう二人とも」
僕達の変わった日常は続いて行く。
終わりが来るまで。
END