第3話
『Sixth sense』という組織を知ったその日に僕と矢飛は二人で話し合う事にした。
場所は近くにある図書館だ。
奈美聴と千里ちゃんには席を外してもらっている。
「だけどお前はそんな事して大丈夫なのか?」
「え?何が?」
「何がって・・・お前もそんな事したらシックスセンスの奴らに追われるんだろ?」
「多分ね」
軽い返事だった。
それが少しイラっとした。
「だったらお前が奈美聴を守らなくても・・・」
「『僕が守る』?そんなの無理に決まってるじゃない」
即答だ。
「相手は私見たいに身体的に特殊なのは居ないけど大人なのよ?普通の一般人である御勘君では守りきれるはず無いじゃない」
それは当然だった。
僕はただの高校生でしかない、だとしても矢飛にも奈美聴にも危険な目にはあってほしくなかった。
そういえば一つ疑問があったんだった。
「そういえば、なんでシックスセンスなのに『視覚』や『聴覚』が特殊な奴を集めてるんだ?シックスセンスって言ったら『超感覚』だろ?」
色々言い方はあるがここは向こうの言い方を基準にする。
「そうね、でもねこういう見解の人もいるの。『視覚』『聴覚』『嗅覚』『触覚』『味覚』五つが優れている者に『超感覚』が付くという説」
「そういう事か」
理解した。
「そう、その感覚全てをの核を別の一個体に移植して『超感覚』を創ろうという計画が行われているの」
「だから矢飛もシックスセンスから逃げる必要があるんだな」
「ご明察」
さてここからが本題だ。
「で・・・シックスセンスからはどうやって逃れるんだ?僕達は学生だから学校には行かないといけないし、警察にでも頼むのか?」
「警察も無理よ、すでに手は回ってるだろうから。それに学校はシックスセンスの監視下よ?」
「な!・・・それはどういう・・・」
「勢和高校はシックスセンスが創立した。特殊な力がある人、ありそうな人を集め監視するための学校って事」
また頭が追いつかなくなった。
そんなに僕は頭は悪い方ではない、むしろ良い方だ。
だけど、ここまで常識を超えているとついていけなかった。
「一応学校として普通の生徒も入り混じってるわよ。そして御勘君はその一人ね」
無関係とでも言いたげだった。守りきれないと言ったのだから。
いや多分言いたかったのだろう、だけどきっと矢飛一人でも奈美聴を守るのには無理があるのだろう。だから僕を突き放す事が出来なかったんだ。
「けどさすがに一般の生徒の前や日が高い時にはまず来ないわ、一応犯罪には手を染めれないはずよ。そう制定されてる。後家の中も大丈夫でしょうね」
なら、やる事は決まった。
「だったら僕達は奈美聴を登下校時に護衛すればいいんだな?」
「そういうことね」
簡単だった。でも相手は大人だ、何をしてくるか分からない。
念には念をいれなければならない。
なのでまずはスタンガンを僕は持つ事にした。奈美聴には防犯ブザーを持たせ絶対に携帯は持つようにさせる。
そして僕と矢飛が奈美聴の家に迎えにいくまでは奈美聴には家の中で待ってもらう事にした。
これで当面は大丈夫なはずだ。
ここまでの準備をしたからか僕は安心していた。
安心してしまっていた。相手が大人だって事分かっていたのに。
◆
次の日矢飛と決めた事を実行し学校へと向かった。
千里ちゃんは朝は車で送ってもらっているので心配は無い。
特に何事も無く昼休みに入る。
だがそこで問題が起きた。
教室の窓際に居た矢飛がこっちに手招きをする。
そっちに行ってみると「見て」と校門を指さす。そこには2台のワゴン車と4人の男が立っているのが見えた。
一目でシックスセンスの奴らだと分かった。「奈美聴ちゃんを呼んで」と言われたので奈美聴を呼ぶ。
「奈美聴ちゃん、あそこに居る人達の声聞える?」
「ちょっと待ってぇ」
すると奈美聴は目を閉じて集中しだした。
「本当に・・・出来るのか?」
と僕が呟くと奈美聴が口を開く。
「今日・・・下校時・・・校門にて・・・西木を確保」
「マジかよ・・・」
奈美聴は本当に特殊な『聴覚』を持っていた。それを目の当たりにした。
「ふむ、じゃぁ私達は裏口から出て・・・」
「第二班・・・裏口・・・待機」
チッ、舌打ちをしてしまう。
「裏口もダメなら周りのフェンスを登らないとね、もしくは学校に隠れ過ごすか」
「後者はあまり取りたくない手だな」
「そうね、ちょっとそれは危険すぎるわね、うん、放課後までに抜け出す方法を考えておくわ」
「私に今できる事はあるぅ?」
「いや、十分よ。ありがとう」
僕も僕で抜け出す方法を考えよう。
出来る限りの事はしよう。
昼休みが終わり授業が始まる。
授業の内容なんか一個も入ってこなかった。
◆
放課後、矢飛が考えた方法はフェンスを登って逃げる事だが矢飛自身は囮になる事だった。
「考えうる限るそれが最善よ。まず私が裏口でシックスセンスの奴らの前に出て注意をひきつける」
こんな方法は取りたくなかった。
「多分その時に校門の方の研究員もこっちに回ってくるだろうけど、その時に逆側のフェンスから登って逃げて。どっちに回ったかは御勘君がここから電話で奈美聴に伝えて」
「お前はどうするんだ?逃げ切れるのか?」
「当然!これから先守らないといけないんだから守って見せるわよ!」
「そうか、なら僕は信じるぞ!矢飛!」
「私も信じるからねぇ矢飛ちゃん!」
「うん!!」
僕はこの時は何も言わなかった、この背筋が凍るような嫌な予感の事を。
まずはそれぞれの配置につく。
今は昇降口に奈美聴、裏口の死角になるところに矢飛がいる。
そして部活をしている奴らだけになり静かになりだした5時ちょうど。
矢飛からのメールで僕達の作戦は決行された。
『送信者:杉目矢飛
タイトル:Ready Go!
本題:友達を守るために!』 メールの受信後すぐに校門の方で変化あった。
僕はすぐに奈美聴に電話をする。
プルルルル・・・プルルルル・・・
「はい、もしもしぃ」
いつも通りの声だ。
緊張してるかと思ったんだけど・・・なんだ案外平然としてるな。
「もうすぐ車が出るぞ!どっちにでもすぐ行けるようにな」
「うん」
校門にある車を凝視する。
車は・・・左に走った!
「右だ!奈美聴!右に走れ!」
「うん!分かったよぉ!」
「僕は矢飛を見に行くから、寄り道せずに直で帰れよ!」
「直喜君・・・矢飛ちゃんを守ってね?」
「当然!!」プツッ
言われるまでも無い!
僕だって矢飛と同じ気持ちなんだ!
奈美聴も矢飛も守ってやる!!
僕は裏口まで全力で走った。
≪杉目矢飛side≫
私は裏口で研究員の囮として現れ引きつけている。
あたかも失敗と見せかけてちょっとしまったように「あっ」と叫んだからまず囮とは思わないだろう。
ただ、必死に逃げていても研究員の方が基本的に早かった。
人前に出るのが一番早かったけど逃がそうとしているのはあの奈美聴ちゃんだけに余分に時間を稼ごうとしている。
ただそれが仇となって落ち詰められてしまった。
「さて、どうしたものかしら」
時間は十分稼いだし奈美聴ちゃんは問題無いだろう。今度は自分だ。
自分自身も逃げ切らなくては意味が無い。
「さぁ、大人しくこっちに来い」
いかにも悪者の台詞っぽい。
まぁ実際に私たちから見たら悪なんだけど、しかも2対1は分が悪い。
「お困りかな?杉目少女」
突然の声に驚いてしまった。
どこに居るか分からなかったけど誰かはすぐに分かったので返事をする。
「大いにお困りですね」
「そうか、ならば・・・」
すると私のすぐ横に彼女が立っていた。
「この松北手羅が手助けしてやろう」
松北さんはほとんどのスポーツで助っ人を頼まれる程の実力があると聴いた事がある。
体力測定はいまいちらしいけど、かなり期待できるはず。
「おい!お前はここの一般生徒だろ!邪魔をするんじゃない!」
研究員が叫ぶ、そりゃそうよね。
一般人に危害を加えない制約もあるんだし。
「一般生徒?シックスセンスの研究員あろう者が何を言ってるんだ?」
『!!』
な・・・なんで松北さんがその事を!?
「おいおい、杉目少女も私がどういう存在か分からなかったのか」
どういう存在か?彼女は何を言ってるんだ?
「ふむ、本当に分からないのだな」
すると彼女は高らかと再び名乗りを上げる。
「私は勢和高校2-B松北手羅!特殊部位は『触覚』だ!」
「・・・・・・・・」
研究員も私も固まってしまった。
それほどに突然で突飛な事だったのだから仕方ない。
「では、行くぞ下衆共」
底冷えするような声音で告げる。
あたりに緊張感が漂う。研究員もその緊張感にあてられて構えている。
私もすぐに構えて相手の出方を見る。
「君は左側の男を頼む、私は右側の男をやる」
それだけ言うと松北さんは右側の研究員に向かって走るだす。
それをスタートにするように私も左側の研究員へ向かって走りだした。
勝負はほとんど一瞬だった。
松北さんは向かって行って相手の右ストレートを軽やかに流し懐に潜り込んで鳩尾にヒジ打ち。
一発で研究員をのしていた。
私はというと隠し持っていたスタンガンを相手の首筋に当てて気絶させた。
「ふむ、なんだ歯ごたえの無い」
「ありがとうございます。けどまさか松北さんが私と同じだったなんて」
「私は前から君が私と同じ『覚人』(かくと)だと気づいていたのだがな」
「覚人?」
「なんだ、そんな事も知らないのか?杉目女子は元シックスセンスの研究員ではなかったのかな?」
そうだとしても知らないものは知らない。
確かにシックスセンスでは研究員をしてたけど、実際は実験体に近かったからほとんど必要の無い事は教えられなかったのだろう。
だとしたらなぜ松北さんは知っているんだ?
「ふむ、疑っているな?ただ私は実験体として検査されている時に研究員に・・・」
『私とは何だ?』
「と問いかけただけだ、そしたら覚人だとすぐに教えてもらってな」
「そうなんですか、それにしても松北さんが強いのは何か習っていたんですか?」
「いや、私は何も習ってはいないよ、せいぜい書道くらいだ」
「じゃぁなんであんなに・・・・」
「触覚が優れているからな」
「それがどういう・・・・」
「杉目女子、私の体力測定の測定値を知っているか?」
「え・・えぇ、あんまり良くないって・・・」
彼女は力強く頷く。
「そうだ、ならばなぜ私がスポーツで助っ人などを頼まれると思う?」
それは前々から思っていた。
なんで松北さんが助っ人を頼まれるのだろう?と。
しかも野球ではピッチャーをやっていた気がする。
「それはな、私が技の出し方を体がすぐに覚えてしまうからなんだ」
「技を?」
「そうだ、だから私は野球の変化球はほぼすべて投げれるし、バスケットはフリースローラインより内側ならどこからでもシュートが決めれる、サッカーでのハットトリックだって決められるぞ」
やっと理解できた。
触覚が優れているということは触る物に関する感覚が普通の人より感じやすい。
だから変化球は一度やったらその型を体が覚える、バスケのシュートも力があったらスリーだって簡単に決めれるのだろう。
「じゃぁ研究員を倒した時のアレは・・・」
「うむ、空手の型だ。正確には初めに合気道が混じっているがな」
それを聞いて安心した。
なぜならこんな心強い助っ人が近くにいたんだ。
すると遠くから足音が聞えてくる。
「そういえばまだ二人残ってるんだった」
「ふむ、軽く捻ってやろう」
研究員はすぐに私たちの前に現れた。
倒れてる他の研究員を見て少し唖然としていたがすぐに構えていた。
しかも今回のはしっかりとしたファイティングポーズを取っていた。
「今度は私が左側を、杉目少女は右側を頼む」
「分かりました!」
今度の研究員は格が違っていた。
スタンガンが当たらない、向こうで松北さんも手こずっているようだ。
何発か入っていたがあまり力が無いから倒れてくれない様子だ。
私はこの時松北さんに視線がいってしまっていた。
ガッ・・・・・
鈍い音が響いた。
目の前が揺れる、感覚が薄れていく。
そのまま意識を失った。