第2話
それから何日かすると学校で『金髪の美少女転校生』なんていう噂が広まっていた。
すぐに千里ちゃんの事だと分かったが、彼女はつい先日事故にあったせいで学校に来るのが遅れてしまっている。
クラスメイトである矢飛も転校生の噂は知っているようだ。
「もう転校生の噂で持ちきりね・・・しかも美少女が付けられてるからある意味転校生が可哀想かも」
確かに、普通に考えたらハードル高い気がするけど千里ちゃんに限っては問題なく思えた。だからだろう
「大丈夫だよ」
なんて言ったのは
「なんでそんなことが分かるのよ?」
そういえば、僕達が助けた女の子が千里ちゃんという事を矢飛にも話していなかったな。
矢飛もあんまり詮索してこなかった。いや・・・事故の事だったから遠慮してくれていたのだろう。
矢飛の心遣いに感謝しながら話す事にした。
「この前僕達が女の子の倒れている所に遭遇した話しをしただろ?」
「うん」
「その女の子が転校生の遠野千里ちゃんだったんだよ」
「そうだったんだ。んじゃ大丈夫って事は
千里ちゃん美少女という事なの?」
「僕の見る限りはね」
「ふ~ん、そうなんだ」
「ただ、その事故のせいでまだ学校に来れないらしいんだけど明日には来るらしい」
「千里ちゃん早く学校に来れるといいねぇ」
「そうだな」
◆
その次の日、転校生である千里ちゃんの噂は知らない人は居ないくらいに広がった。
実際千里ちゃんが美少女という事と見た目が幼すぎるという所は男子生徒の中では恐ろしいスピードで広がった。
そして休み時間には一目見ようと大量の男子生徒が2-Bに押し寄せていた。
そんな状態が続いている中、昼休みになると千里ちゃんは2-Aの教室に入ってきた。
みんなが注目してる中千里ちゃんは僕の名前を呼んだ。
「御勘さんいませんか?」
僕と千里ちゃんの接点を知らない生徒がざわざわと騒ぎだす。
変な事を聞かれる前に千里ちゃんに話しかける。
「どうしたの?」
千里ちゃんは少し照れながら
「いっしょにごはんたべませんか?」
「いいよ、じゃぁ奈美聴も呼ぼうか」
「はいです」
僕は教室で奈美聴と一緒にいる矢飛も呼ぶことにした。
「あとさ僕等の友達も一人呼んでもいい?」
「ぜんぜんかまいません、むしろよろこんでです」
二人を手招きして呼ぶ。
「千里ちゃんこんにちわぁ、元気なって良かったよぉ」
「はいです!」
キレの良い返事だった。
「初めまして、私はこの御勘君と奈美聴ちゃんのクラスメイトの杉目矢飛です。」
「わたしは遠野千里です。よろしくおねがいしますです」
「うん、よろしくね」
一通りの挨拶を済ませていつも通りに図書室のベランダに向かおうとする。
そこで千里ちゃんが僕に
「てをつないでくれませんですか?」
なんて言うものだから男子からの視線が痛い・・・これはちょっときつい・・・っていうかなぜ僕なのだろう?奈美聴も居るのに。
その痛みに耐え抜き図書室のベランダへ手をつないで行く。
そこまではまぁ良かった。耐え抜けれた。
みんな千里ちゃんが目の見えない事を理解してくれていた。
だが・・・さすがに
「おべんとう、たべさせてくれませんですか?」
は僕に頼むのはどうだろう!?
一応病院では時々僕が食べさせてあげた事もあったけど!!
こっちを見てる生徒から殺気が出てるんですが!オーラが見えるくらい殺気が出てるんですが!!
矢飛はこっちをニヤニヤながら見ていた。
助けろよ・・・
僕が冷や汗をかいていると奈美聴が助け舟を出してくれた。
「私が食べさせてあげるよぉ」
「ありがとうございますです」
さすが奈美聴だ、面倒見が良い。
千里ちゃんだけじゃなく僕まで一緒に助けてくれるなんて・・・
すると小声で矢飛が僕に向かって
「遠野さんって目が見えないんだね」
と尋ねてくる。
「先天的な病気らしい」
「そうなんだ」
矢飛は千里ちゃんの方に向きなおす。
そして真剣な顔で
「遠野さん、いきなりだけど目が見えないって怖い?」
「はい、すこしこわいです。けどいまはまえほどこわくはないですよ?」
「慣れちゃった?」
千里ちゃんが首を横に振る。
「いっしょにいてくれる『友達』ができたからです」
矢飛は少し黙った後優しく微笑んだ。
「そっか」
「はいです!」
キレの良い返事だった。
僕達はしばらく図書室のベランダで喋っていると後ろからいきなり喋りかけられた。
「まさか転校生と初日から一緒に昼食を食べているとわな・・・正直私もビックリだぞ少年。さながら君はギャルゲーの主人公ではないか」
松北さんだった。
しかもこの前もいきなり後ろに立たないでくださいと言ったのに・・・
「後ろ立たれる事はもう諦めて慣れますけど、ギャルゲーの主人公とかハーレムとか否定しつづけます!」
「だが状況を見てみたまえ、美少女が4人だぞ?4人!これをギャルゲーの主人公を言わず何と言うのだ?」
あっ・・・自分も美少女カウントに入ってるんだ。
「聞こえているぞ?」
「イタタタタタ・・・ちょ!すいません!」
「全く少年にはデリカシーという物は無いのか?いや、無いから主人公なのか?」
「知りませんよ!」
そこで千里ちゃんは松北さんに気付いたのか僕に話しかける。
「どなたかいらっしゃるのですか?」
「あっ、うん変人が・・・・・」
「少年・・・死ぬか?」
声が本気だった。
「び・・・美少女がいます!」
「びしょうじょさんですか」
「フッ、私がその美少女の松北手羅だ」
「わたしは・・・」
「知っている!私は学校中の女子はすべて網羅しているのだからな!当然転校生である君の事も知っている!」
この人何してんの?
「所で千里ちゃんは少年の事をどう思っているのかな?」
マジでこの人何してんの!?
「ちょ!そんな事・・・」
「私も気になるかな?遠野さん教えて」
「お前も敵か!」
奈美聴はというと顔を赤くしてアワアワうろたえている。
しかも僕はというと松北さんに取り押さえられていた。
そんな中で千里ちゃんが口を開けた。
「大好きです!!」
「ありがとう!だけどゴメン今は否定して!」
「わかりました!嫌いです!!」
自分で言っといてなんだけど傷ついた。
しかも男子から罵詈雑言をくらわせられるし、矢飛と松北さんはニヤニヤしてるし、奈美聴はなぜか失神してるし・・・くたびれ損だ。
その日は僕と千里ちゃんの話題が絶えなかった。 千里ちゃんが転校してきてから数日。
たった数日なのだが千里ちゃんはある程度の漢字を身につけていた。
千里ちゃんは目が見えない、だからいつも誰かが付いてあげている。
そして下校の時は僕と奈美聴と千里というのがいつもになった。
ある日、僕は気付いた。
「千里ちゃん足怪我でもしたの?」
歩き方が少しおかしかった。
「い・・いえ!なんでもありませんですよ!」
すぐ否定されて笑顔になった。
「まぁそれなら良いんだけど」
「御勘さんはしんぱいしすぎですよ」
「そうかもね」
そこから何気ない会話に入る。
「けど直喜君の良いところは優しいとこだからねぇ、心配性なのは仕方ないよぉ」
「そうですね、御勘さんはやさしすぎるかもですね」
「そ・・・そんな事無いって!・・・ほら!奈美聴も面倒見いいじゃん!絶対奈美聴の方が優しいって!」
何を必死に否定してるんだろ・・・
「そんなことありますよ、だってわたしがそう思っているんですから」
「自分ではそう思ってても人から見ると意外と違うもんなんだよぉ?」
「それに、そんな御勘さんだから大好きとおこたえしたのです!」
「私もそんな直喜君が大好きだよぉ」
「あ・・・ありがと・・・」
・・・・・・松北さんじゃないけど、僕ってなんか主人公なのか?
ここまで好感度上がる事したっけ?
実際助けたのって奈美聴な訳だし・・・僕としてはただ話してただけなんだけどなぁ。
「そういえば!奈美聴!」
「何?」
「お前さ千里ちゃんが倒れてるとこなんで分かったんだ?」
しばらく忘れていた事だった。
「えっ?たまたまとおりかかったんじゃないんですか?」
「うん、実は奈美聴が急に走りだしてな。それについていったら千里ちゃんが倒れていたんだ」
「そうだったんですか」
「で・・・奈美聴どうして分かったんだ?」
奈美聴は少し困ったような顔しながら答えた。
「直喜君は聞こえなかったの?」
「聞こえなかったって何が?」
「『痛いよ、怖いよ』って声だよぉ。今にも消えちゃいそうな小さな声」
分からなかった。
僕にはあの時何も聞えなかった、はずだ。
「わたし、たしかにあの時いいました」
と千里が答えているが走って約2分の距離だぞ?多分4~500Mは離れていたはずだ。
そんなの普通聞える訳が無い。
その程声が響いたなら僕達より先に誰か来てもいいはずだ。
なのに僕には聞えず奈美聴には聞えていた。
これが示すものはなんだろう?
「私と同じなのね奈美聴ちゃんも」
後ろから突然だった。
松北さんかと思ったけど違った。
後ろに居たのは矢飛だった。
「同じ?同じって何がだよ?」
聴き返す事しかできなかった。
何も分からかったから、知らなかったから。
「Sixth sense」
「え?」
「シックスセンスよ、日本では第六感と言われてるわね」
「それがどうかしたのかよ?」
「その前に少し説明しておくわ」
矢飛は胸ポケットから名刺を取り出した。
名刺にはこう書かれていた。
「超心理学?」
「そう、超心理学」
何のことだか全く分からなかった。
そんな僕をよそに矢飛は話をしはじめる
「正式名称は超心理学科第六器官、通称『Sixth sense』。私はそこの研究員をしているわ」
「なっ・・・お前何言ってんだよ?お前は勢和高校2-Aの杉目矢飛だろ!」
「別に間違ってはいないわよ。実際私は勢和高校2-Aだし杉目矢飛だわ。・・・でもシックスセンスの研究員でもあるの」
「それじゃぁ、そのシックスセンスの研究員が奈美聴に何の用だ?」
ふぅ、矢飛が小さく溜め息を漏らす。
「それもこれから説明するわ。だから少し黙ってて。」
「・・・・・・・・・」
「よろしい」
奈美聴と千里は茫然としていた。当然と言えば当然だ。
いきなり友達がよくわからない所の研究員だと言われたのだから。
少し間をおいて矢飛が話はじめる
「まず私は普通の人では無理な事が出来るの」
「無理な事?」
「そうね・・・あそこに車が見えるわね?」
と遥か向こうを指をさす。
確かにそこには小さく銀色の車が見えたが、本当に米粒くらいの大きさにしか見えない。
「三重 め 71-60ね」
「・・・な!」
一瞬分からなかったが、まさかと思って僕は車の方に向かって走った。ナンバープレートには『三重 め 71-60』と書かれていた。
見えるはずがない。あんな距離でこの小さな字が見えるはずが無い。だけど、矢飛は答えていた、正確に答えていた。
「分かったかしら?私は『視覚』が特殊なのよ。その『視覚』を買われて研究員に入ったわ」
そこまで言い終えて矢飛は悲しそうな顔をした。
僕も愕然とした。
「じゃぁ・・・同じって事は・・・奈美聴も・・・?」
奈美聴の方を向く、奈美聴は固まっていた。
多分何を言われているのかも分かっていない。
「そう、彼女も同じ。ただ違うと言えば私は『視覚』彼女は『聴覚』って事かしら?」
すべてが繋がっていった。
さらに矢飛はさも当然のように言う
「別に私は奈美聴ちゃんを連れ去ってやるとか実験台にしてやるとか言ってる訳じゃないから」
「そ・・そうなんだぁ・・・よかったぁ」
ここでやっと奈美聴が答えた。
自分の事だけど特に自分が何かされる訳じゃないと分かって安心したのだろう。
じゃぁ、なんで矢飛は僕達にこんな事話したんだ?
「でもね、あくまでそれは『私は』なのよ」
「もしかして・・・」
矢飛は頷く
「そう、シックスセンスはきっと奈美聴ちゃんを連れ出そうとするわ」
「どうにか出来ないのか?」
「出来たらここでこんな事話してないわ、だから私は奈美聴ちゃんを守るわ!」
思いもよらない言葉だった。
「守る?なんで?」
すでに僕の脳は混乱していた。
そんなの簡単で分かってたのに
「『友達』だからですね?」
千里ちゃんが答えた。
「しょにちのおひるやすみ、わたしに目が見えないことが怖いかたずねましたですよね?あの時わたしは杉目さんが何かなやんでいることがわかりましたもん」
「そっか、遠野さんにはバレちゃってたか」
ようやく僕は落ち着いた。
「けどまぁ、そゆこと!『友達』だからよ!それ以外に理由なんていらないわ!」
奈美聴はニッコリ笑っていた。
笑ってていいのか?僕はちゃんと理解したけど奈美聴、お前は狙われてるんだぞ?
矢飛もそんなことしていいのかよ、その研究員からお前も狙われるんじゃねぇのかよ!
色々言いたかったけど何も言えなかった。
こんな・・・・・
笑顔の奴らを不安にさせるような事はしたくなかったからな。