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人数合わせの合コンに呼ばれるのをやめたら、あの夜の美人から二人で会いたいと言われました

作者: 黒咲かぐら
掲載日:2026/10/17

『今度、二人で食べに行かない? この前、もっと話したかった』


 そのメッセージが来たのは、次の合コンへの誘いを断った翌日だった。


 送り主は、白石佳奈さん。

 数日前の飲み会で、隣に座っていた女性だ。


 俺はメッセージを読み直した。

 二人で。

 何度見ても、そう書いてある。


 あの夜、俺が亮介の話を止めたあとも、彼女はこちらを見ていた。


     *


「一人来られなくなった。頼む、助けて」


 長谷川亮介から連絡が来たのは、金曜日の夜だった。

 翌日の飲み会に、男性が一人足りなくなったという。


 俺、野口修平は二十七歳。メーカーで働いている。

 亮介とは学生時代からの友人だった。

 昔は一緒にゲームをしたり、駅前で飯を食ったりしていた。俺が負ければ亮介も笑ったし、亮介が負ければ俺も笑った。


 最近は、何人かで飲むことのほうが増えた。

 そこで亮介がよく話すのは、学生時代の俺の失敗だった。

 俺も最初は笑っていた。自分でもおかしいと思う出来事はある。

 ただ、何度も聞かされると、次に何を言われるか先に分かる。

 そのうち、こちらが話していても、亮介が入ってくるのが気になるようになった。


「また合コン?」

「そう。三対三の予定だったからさ。相手の幹事にも人数伝えてるし」


 俺は、スマホを持ったまま考えた。

 予定は空いている。

 恋人が欲しくないわけでもない。

 亮介が声をかけてくれたことで、知り合いが増えたこともある。


「分かった。明日だけなら」

「助かる。場所送る」


 翌日の夕方、俺は駅前の店へ行った。

 亮介ともう一人の男性は、先に来ていた。

 女性側も三人で、幹事同士が挨拶をしてから席へ案内される。


 俺の隣に座ったのが、白石佳奈さんだった。

 艶のある髪に、柔らかい色の服。

 目が合うと、軽く笑ってくれた。

 きれいな人だと思い、俺は視線をメニューへ落とした。


「野口修平です」

「白石佳奈です。よろしくお願いします」


 自己紹介で、彼女も二十七歳だと分かった。

 別の会社で営業事務をしているという。

 女性側の幹事が、「佳奈は見た目にうるさいから」と笑いながら付け足した。


「そんなこと言ってないよ」


 佳奈さんは首を振った。友人は「前に好みの顔の話してたじゃん」と返し、そのまま別の人の紹介へ移った。

 俺は自分のシャツの袖を少し直した。


 飲み物を頼み、料理を選ぶ。

 大皿のメニューを見ながら、佳奈さんが俺に聞いた。


「苦手なもの、あります?」

「特には。白石さんは?」

「私も。ただ、最初から揚げ物だけだと、あとで食べたいものが入らなくなるので」


 彼女は魚の料理を指した。


「これも頼みません?」

「いいですね。俺も食べたい」


 亮介が店員を呼んだ。

 少し話せたことに、俺はほっとした。


 乾杯のあと、話は仕事や、よく行く店のことになった。

 俺も聞かれれば答える。

 ただ、人数がいると、話し始める前に別の人が口を開くことも多かった。

 そのときは聞いて、話が戻ってきたら続きを話した。


 休日の過ごし方を聞かれ、俺はゲームをする日と、出かける日があると答えた。


「どこに行くんですか?」


 佳奈さんが聞いた。


「この前は、電車で一時間くらいの街へ。古い通りが残ってるって聞いたので」

「旅行?」

「日帰りです。行ってみたい食堂もあったので、昼を食べて、歩いて帰るくらい」


 すると亮介が、向かいから口を挟んだ。


「こいつ、休みの日まで一人で行動してるから。誰か誘えよって言ってるんだけど」


 俺は水のグラスへ手を伸ばした。

 誰かと出かけるのも嫌いではない。

 でも、行きたいと思った日に、一人で出かけるのも好きだった。


 説明しようかと思ったところで、佳奈さんが聞いた。


「行きたかったお店、入れた?」


 俺は彼女を見た。


「いや、臨時休業で」

「ああ……それ、着いてから分かると困りますね」

「普段の定休日は調べたんですけど。店の前に貼り紙があって」


 佳奈さんは、自分にも似た経験があると頷いた。

 亮介のほうではなく、こちらを見ている。


「そのあと、どうしたんですか?」

「駅へ戻ろうか迷ったんですけど、近くの定食屋へ入りました」

「何食べたの?」


 質問が少しずつ短くなった。

 俺も、続きを話したくなった。


 店は小さく、メニューも少なかった。

 日替わりの魚を頼むと、店主に小鉢も勧められた。

 白い器に入った、茄子の煮びたしだった。


「魚もおいしかったんですけど、小鉢がよくて。追加でもう一個頼みました」

「そんなに?」

「熱くなくて、冷たすぎもしなくて。歩いたあとだったから、余計に」


 佳奈さんが笑った。


「最初のお店に入れてたら、食べてなかったんですね」

「そうですね。結局、その小鉢のほうをよく覚えてます」

「分かる。予定を外したときのほうが、覚えてたりする」


 彼女も、前に友人と出かけた話をした。

 見に行った施設が休館日で、近くの商店街へ寄ったという。

 そこで買った惣菜がおいしく、後日、また買いに行った。


「今度はそれを買うのが目的だったから、ちゃんと営業時間調べました」

「二回続けて閉まってたら、困りますもんね」

「そう。今度こそ何しに来たんだってなる」


 俺も笑った。

 隣の人と話しているうちに、亮介が次に何を言うかは気にならなくなっていた。


「その定食屋、名前分かります?」

「覚えてます。地図にも残してるので」

「教えてほしい。私も行ってみたいです」


 俺はスマホを取り出した。

 画面を見せると、佳奈さんも自分のスマホを開いた。


「よかったら、送ってもらってもいい?」

「はい。LINEでいいですか」

「うん」


 連絡先を交換した。

 その場で店の情報を送ると、彼女から短いお礼が届いた。


「茄子の小鉢、次もあるといいな」

「日替わりだから、ないかもしれないです」

「じゃあ、ほかのも楽しみにする」


 そう言って、彼女はメニューの写真を眺めた。


     *


 食事が進み、会話が恋愛の話に変わった。

 交際している人がいるかと聞かれ、俺は今はいないと答えた。

 佳奈さんも、「私も今はいません」と答える。


 そこで、亮介が笑った。


「修平は、そういうの苦手なんだよ。学生のときもさ、好きな子に――」


 続きを聞く前に、何の話か分かった。

 学生のとき、好きだった人を誘い、断られたことがある。

 断られたことより、しばらく亮介にからかわれたことのほうがよく残っていた。


「その話、やめてくれ」


 俺が言うと、亮介はグラスを置いた。


「別にいいじゃん。もう昔の話だし」

「俺が話したくないんだよ」

「そんな深刻なのじゃないって。こいつ、誘う前に店まで調べて――」


 俺は亮介を見た。


「その話をするために呼んだのか」


 亮介の言葉が止まった。

 隣で、佳奈さんもこちらを見ていた。


「人数足りないって言ってたから来たんだよ。昔のことを人に話していいとは言ってない」

「盛り上げてるだけだって」

「俺が嫌だって言ってる話で、盛り上げないでくれ」


 声を大きくしたつもりはなかった。

 それでも、テーブルの会話は一度止まった。


 亮介が、少し笑うように息を吐いた。


「分かったよ。もう言わない」


 俺は頷いた。

 目の前の取り皿へ視線を戻す。

 さっきまでおいしかった料理が、少し食べにくくなっていた。


 佳奈さんが、届いたばかりの大皿へ手を伸ばした。


「これ、取り分けてもいい? 野口さん、魚もう少し食べる?」

「……はい。ありがとう」


 彼女が皿を渡してくれた。

 もう一人の男性が店の話を始め、隣の女性もそれに答える。

 俺も、聞かれたことには返事をした。


 そのあと、亮介が俺の昔の話をすることはなかった。

 ただ、さっきのことを謝る言葉もなかった。


 会計は、最初に決めていた一人分の金額を払った。

 駅の近くで解散する。

 佳奈さんは帰り際に、俺へ軽く手を振った。


「お店、教えてくれてありがとう」

「こちらこそ。話せてよかったです」


 彼女が笑った。


「私も」


 帰りの電車で、俺はその言葉を思い出した。

 亮介に言い返したことも、何度か思い出した。

 言い方が強かっただろうかと考え、それでも、やめてほしかったのは本当だと思った。


 家へ着いたころ、佳奈さんからメッセージが来た。


『あのお店、魚以外にもあるんだね。卵焼きもおいしそう』


 送ったページを見てくれていた。

 俺も開き直し、その日は頼まなかった料理の写真を見る。


『卵焼きは食べてないです。今度行ったら頼んでみようかな』

『小鉢二個で、お腹いっぱいだった?』


 俺は少し笑った。


『そうです。帰りに甘いものも食べるつもりだったんですけど、入らなくて』

『予定、だいぶ変わったね』


 それから、彼女の買った惣菜の話を聞いた。

 店の情報も送ってくれたので、俺は地図へ残した。


 あの夜の話が、まだ続いていた。


     *


 数日後、亮介からまた連絡が来た。


『来月の土曜、空いてる? 別の子たちと飲むんだけど』


 日付を見る。

 まだ予定は入っていない。


 俺は返事を書く前に、少し考えた。

 あの夜、途中までは楽しかった。

 佳奈さんと話せたのも、行ったからだ。


 ただ、亮介の機嫌を見ながら、次に何を言われるか考える時間は、もう過ごしたくなかった。


『次は行かない』


 すぐに返事が来た。


『まだ気にしてる?』

『やめてって言っても続けたから。また同じ扱いなら行かない』

『冗談なのに。お前がそこまで気にするとは思わなかった』


 俺は、その文章を読んだ。

 亮介には冗談だったのだろう。

 でも、自分が嫌だと言ったところで止まらなかった。

 そのことは、今も変わらない。


『人数は別の人に頼んでくれ』


 送って、スマホを置いた。

 少し肩が軽くなった。


 その土曜日は、行きそびれていた街へ行ってもいい。

 家でゲームをしてもいい。

 誰と、どう過ごすか、自分で決めたかった。


 翌日の夜、佳奈さんからメッセージが来た。


『今度、二人で食べに行かない? この前、もっと話したかった』


 俺は、しばらく画面を見ていた。

 最初は、あの定食屋へ行く話かと思った。

 続けて、彼女から別の店のページが送られてきた。


『ここ、気になってる。駅の近くだし、どうかな』


 二人で、という文章へ視線を戻す。

 人数が足りないからではない。

 俺と話したいから、誘ってくれている。


『行きたいです。俺も、もっと話したかった』


 送ると、笑っている顔の絵文字が返ってきた。


『よかった。土曜か日曜、どっちが空いてる?』


 亮介に誘われた日とは別の週末だった。

 俺が日曜日を返すと、佳奈さんも大丈夫だと言った。

 休日の昼に会うことが決まった。


 彼女の送った店には、魚料理と肉料理の両方がある。

 俺はメニューを見て、気になった料理を送った。


『これ食べてみたい』

『私もそれ見てた。もう一つは、こっちが気になる』


 自然に、返事が短くなっていた。

 会う前に、同い年だし普通に話そうと相談した。


 日曜日が楽しみだった。


     *


「野口くん」


 佳奈さんは、店の前で俺を見つけると手を振った。

 合コンのときより、少し軽い服装だった。

 近づくと、こちらを見て笑う。


「来てくれてありがとう」

「誘ってくれてありがとう」


 二人で店へ入った。

 窓に近い席へ案内され、向かい合って座る。


 食べたいと言っていた料理をそれぞれ頼む。

 佳奈さんは、迷っていたもう一つの料理を見て、小さく息を吐いた。


「次はこっちかな」

「俺も、そっちは次に食べてみたい」


 言ってから、また一緒に来る話に聞こえただろうかと思った。

 彼女は、特に困った顔をしなかった。


「うん。今日のがよかったら、また来よう」


 俺は頷いた。


 料理が来るまで、俺が普段やっているゲームの話になった。

 佳奈さんは詳しくないが、友人と遊んだことのあるものはあるという。

 俺が好きなのは、少しずつ資源を集めて、街や設備を作るゲームだった。


「最初から完成してるんじゃないんだ」

「最初は、結構不便。道路が足りなかったり、建物の場所が悪かったりする」

「そこから直していくの?」

「うん。でも、直したら別のところが困ることもある」


 佳奈さんが笑った。


「仕事みたい」

「それは、やりながら時々思う」

「休みの日にも働いてる」

「でも、こっちは自分の街だから」


 彼女は面白そうに頷いた。

 俺も、佳奈さんが休みの日に何をするのか聞いた。


 出かける日もあれば、家から出ない日もある。

 予定を入れたあとに、何もない休日も残しておけばよかったと思うことがあるという。


「行くのは楽しみなんだけど、朝に目覚ましかけると、休みなのになってなる」

「分かる。俺も、始発で出かけようとしてやめたことある」

「それで、行かなかった?」

「昼前から出た。見られるところは減ったけど、それはそれでよかった」

「いいね。全部回らなくても、行ければ楽しいし」


 彼女は、そう言って笑った。

 俺は自分の話をしながら、彼女の休日も少し想像した。


 料理が来ると、佳奈さんは一口食べて、すぐにこちらを見た。


「これ、おいしい」

「よかった。俺のも」


 彼女はもう一口食べ、そのあと、付け合わせについて話し始めた。

 俺も自分の皿を見て、似たものがあると答える。


 合コンのときより、彼女はよく喋った。

 俺も、途中で誰かが入ってくるのを待たずに返事をした。


 しばらくして、佳奈さんが少し迷うように言った。


「この前、友達が『佳奈は見た目にうるさいから』って言ってたの、覚えてる?」


 そういう紹介をされていた。

 俺は頷いた。


「あれ、私がそう言ったことはないんだよね」

「そうなの?」

「うん。前に一度、好みの顔を聞かれて答えたら、それがずっと残ってる」


 彼女はカップに触れた。


「紹介してくれる人にも、勝手に言ってるみたいで。それで最初から、すごく気を遣われることがある」

「俺も、今日の店を見て、もう少しおしゃれな店のほうがいいのかなって思った」


 佳奈さんが目を上げた。


「ここ、嫌だった?」

「いや。俺は食べてみたいものがあったから、ここがよかった。ただ、佳奈さんはどうなんだろうと思って」

「私はここに来たかったから、送ったんだよ」


 俺は、もう一度メニューの写真を思い出した。

 彼女は、どの料理が気になるかまで書いていた。


「そうだよね。勝手に考えてた」

「分からなかったら、私に聞いてくれればいいよ。私も、野口くんに聞くから」


 彼女は少し笑った。


「きれいなお店も好き。でも、毎回そっちじゃなくていい。今日みたいに、食べたいものがある店も好き」

「俺も。行った先で見つける店も好きだし」

「じゃあ、あの定食屋にも行こうね」


 彼女が言った。

 俺は頷き、その街には食後に歩ける通りもあると話した。


「お腹いっぱいでも、歩くところなら寄れるよ」

「小鉢二個食べても?」

「多分」


 佳奈さんが笑った。

 俺も笑った。


 店を出て、駅までの道を歩く。

 彼女は仕事の話もした。

 俺も、今週あったことを話した。


 駅が近づいたところで、俺から聞いた。


「次、あの街へ行かない? 店が開いてる日を確かめて、一緒に歩きたい」


 佳奈さんがこちらを向いた。


「行きたい。今度は、野口くんが誘ってくれるんだ」

「うん。俺も一緒に出かけたいから」


 彼女の口元が緩んだ。

 その顔を見て、誘ってよかったと思った。


     *


 次の休日、二人で電車に乗った。

 店の営業日は、俺が前日に確かめていた。

 それでも入口の暖簾が見えると、少し安心した。


「あ、開いてる」


 佳奈さんも笑った。


「今日は、予定どおりだね」


 小鉢には、前とは違う料理が並んでいた。

 俺は少し残念だったが、佳奈さんが一つ指して、これもおいしそうだと言う。

 結局、それぞれ違うものを選んだ。


 食後に歩く通りでは、彼女が古い建物の窓を見上げた。


「ここ、上の階はどうなってるんだろう」

「何かやってたのかな。看板が残ってる」


 二人で、歩道の端へ寄って眺めた。

 俺が一人で来たときには、通り過ぎた建物だった。


 佳奈さんには、目を止めるところがある。

 俺とは違うところを見る。

 それを聞くのが、面白かった。


 先の店で彼女が小さな皿を見つけ、俺も一緒に中へ入った。

 売り場で迷っているときは、食事の店を選んだときより真剣な顔になる。

 買うかどうかを聞くと、家の皿と大きさが似ているから、いったん考えると言った。


「好きだけど、もう置く場所がなくて」

「家に帰ったら、やっぱり欲しくなるかも」

「そう。そのときは、また来る理由ができる」


 俺は、その理由ができたら一緒に来たいと思った。


 それからも、何度か会った。

 俺から誘った日も、佳奈さんから誘ってくれた日もある。

 出かけるつもりだった日に雨が降り、相談して近くで昼を食べるだけにしたこともあった。


 遠くへ行けなくても、話すことはあった。

 俺が前に話したゲームの続きや、彼女が仕事帰りに見つけた店。

 佳奈さんの選んだ皿を、結局買ったかどうか。


 彼女が俺の話を聞いてくれるのは嬉しかった。

 でも、それだけではなかった。

 俺も、彼女が何を考え、何を選ぶのか知りたくなっていた。


 会う日が近づくと、聞こうと思っていたことを思い出した。

 別れたあとには、次に会える日を考えた。


 佳奈さんが好きだった。


     *


 何度目かの外出で、俺たちは最初に食事をした店へ戻った。

 彼女が迷っていた料理を、今度は頼む。


「こっちもおいしい」


 一口食べて、佳奈さんが笑った。


「最初からこれにしてもよかったかな」

「でも、前のもおいしかったよ」

「そうなんだよね。また迷う」


 彼女はメニューを閉じた。

 次に頼むものは、その日に決めればいいと言う。

 俺も、そうしようと答えた。


 食後、駅まで少し遠回りして歩いた。

 人通りが落ち着いたところで、俺は彼女に声をかけた。


「佳奈さん」


 彼女がこちらを見る。

 俺は道の端へ寄り、足を止めた。


「俺、佳奈さんと付き合いたい」


 言うと、彼女の目が少し大きくなった。

 俺は、続けた。


「話してると楽しいし、一緒に出かけたい。佳奈さんが気になったところを、俺も見たいと思うから」


 彼女が黙って聞いている。


「好きです。付き合ってください」


 佳奈さんは少しのあいだ俺を見て、それから笑った。


「うん。私も好き」


 肩の力が抜けた。

 彼女は一歩近づいた。


「この前から、今日言おうかなって考えてた」

「佳奈さんも?」

「うん。でも、誘ってくれるし、会うと楽しいから、それだけで帰っちゃう日もあって」


 俺も、何度か言いそびれていた。

 次に会う約束をして、ほっとしていた日がある。


「あの飲み会で、連絡先を聞いてくれたの、嬉しかった」


 俺が言うと、佳奈さんは頷いた。


「それは、もっと聞きたかったから。あのお店の話も、ほかの話も」


 彼女は、俺を見た。


「一人で出かけた話を、長谷川さんが笑ったでしょう。でも私は、楽しい休みだったんだなって思ったんだよ」


 俺は、少し言葉に詰まった。

 自分でも気に入っていた休日だ。

 一人だったことより、そこで何をしたか聞いてくれたのが、改めて嬉しかった。


「楽しかったよ。閉まってたのは残念だったけど」

「うん。聞いてて分かった」


 佳奈さんが笑った。


「次も誘ったのは、二人なら最後まで話せると思ったから」

「俺も、そう思った」


 俺は彼女の手へ視線を落とし、手を差し出した。

 佳奈さんは嬉しそうに取り、そのまま少し近くへ寄った。


「佳奈でいいよ」

「じゃあ、俺も修平で」


 彼女が名前を呼んだ。

 俺も呼び返す。

 短くなった名前が、少し照れくさかった。


     *


 付き合い始めてから、佳奈と昼を食べていたときだった。

 店の近くにある二つの店のうち、どちらへ寄るか話していると、俺のスマホが震えた。


 佳奈がグラスの水を飲んでいるあいだに、画面を確認した。

 亮介からだった。


『一人足りなくなった。今日の夜、来られない?』


 前に断ってからも、数人で飲む誘いは何度か来ていた。

 俺は、参加していない。


『行かない。今日は予定がある』


 返して、通知を閉じた。

 佳奈がこちらを見る。


「夜、何か入った?」

「ううん。断った。今日は佳奈と出かけたいから」


 彼女は少し笑った。


「じゃあ、もう少し歩けるね」

「うん。それで、どっちに寄りたい?」


 俺は、二つの店のページを開いた。

 佳奈が片方を指す。


「私はこっち。修平は?」

「俺も気になってる。先にこっち行こう」

「うん。もう一つは、また今度でもいいし」


 二人で予定を決め、会計をして店を出た。

 佳奈が俺の手を取る。


 今日は、俺が一緒にいたい人と出かける日だった。


~完~


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