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Kちゃんの話

掲載日:2026/07/07

「篠田林檎の怖いお茶会」の出展作品になります。

 あーこういう感じでまわってくるのね?



 いやぁ凄く立派なお屋敷だなぁとトシミ君といっしょに収録前、まわっていたけども……彼が「かくれんぼができそうですね? うへへ」って言うものだから、次回はここでかくれんぼするような番組をやってもいいかもしれないね?



 あるいはホラードラマなり映画のスタジオで使ってもいいかなぁ。色んな事を想像することが大好き。栄一郎です。



 クリスタルエデンを興す前に私は違う芸能事務所に所属していて。例えば映画関係で絡む制作会社も今と違っていて。その時にお馴染みの面々がいたのだけど、Kちゃんっていう新人のカメラマンがいたのね。今日はそのコの話をしようかと思います――




 念の為に断っておくと、そのKちゃんというのは今も生きているし、この事も話していいのか事前に確認をとって了承も得ています。ものすごく調べたら誰の事なのか分かると思うけど、本人は思い出したくない事だからと言うし……もしからしたら私らが見間違いをしただけの話かもしれないから。そういう意味で余計な詮索等はお控えいただきたいと思います(カメラ目線で会釈してお願い)。




 さて。話は私が30代ぐらいの時の話になります。トシミ君や葉子ちゃん達がまだ生まれたばかりか赤ちゃんも同然ぐらいに幼い頃の話になるね。



 私は当時、映画よりかテレビドラマのほうで仕事をすることが多くてさ。映画監督なんかをやりだしたのもこの頃で……Kちゃんはあるテレビ局ご用達の制作会社で働く撮影担当のコだったの。カメラマンと言えば分りやすいからカメラマンと言っておくけど。



 新人と言ってもキャリア3年目ぐらいのコで撮影が初めてっていう訳でもない。でも、そのときに彼は妙な行動をとっていてさ。




 撮影の休憩中にカメラ前にボーっと立つのよ。




 カメラを無表情でじっと見つめるようにして。



 何かの確認をしているのかな? と私は思っていたけども、どうもそんな感じじゃなくて……



 不気味だったのよね。



 その時の彼のカメラを見つめる顔つきと言ったら、もうまるで生気がないようで。



 撮影の仕事に入ると忙しくてさ。彼が休憩中だとか仕事前だとかにそんな事をしていても、気にする人なんていなかった。彼がそういう人なのだろうって演者もスタッフも思っていたのだろうね。元々おとなしくて何か言うコでもなかったしさ。



 でも、私はどうにも彼のその感じが気になって仕方なくて。



 話しかけてみたのよ。



 最初は無視してさ。



 でも、違和感はあった。



 目がすごく赤くなっているのよ。



 あれ? 寝不足なのかな? って。ただ無視してくるものだから。



 でも、次の撮影の時に彼は返事してくれて。そういう仕事をやりすぎていると不眠で悩む事もある。厳しい事も言われ続ける現場でもあるから。何か相談事でもあるならのろうと。



 ただ、やっぱりKちゃんは普通の感じじゃなかった。



「このカメラってなんでも映されているのですか?」

「え? ああ……そういうものだろ? カメラって」

「野田さんは自分そっくりな人間がいたら…………どうしますか?」

「自分そっくりな人間?」

「そう。だけど自分じゃどうしようもなくて。ただ眺めているだけ」

「あの……何か悩んでいるのかな?」

「悩んだってどうしようもない事」

「そうかもしれないけど。一人で抱えこむよりか相談したほうがいいよ」

「ふふっ。ああ。そうか」

「どうかしたの」

「お ま え に は ま だ み え て い な い」



 そこで「撮影始めるよー! 準備いいか!」と別のスタッフが会話を遮って。私は冷や汗を垂らしていたよ。



 Kちゃんはずっとニタニタしていたからさ。



 カメラ越しにずっと私のことをあのKちゃんが撮っているのかと思うと怖気も止まらなくて。



 結局その日は何もなかったように帰った。



 でも、私は翌日にあったその異変を見逃したりはしない。



 Kちゃんがいつもの奇行をやめていて。



 撮影が終わるごとに気の知れた仲間と喫煙しているのよ。



「Kちゃん、ちょっといいかな?」

「はい?」



 私は休憩中に悪いなと思いつつも、Kちゃんを呼ぶことにした。



「Kちゃん、昨日話していた自分そっくりな人間の話ってどういうこと?」

「はい?」

「いや昨日、チョット俺と話したと思うんだけどさ……」

「別の人じゃないですか? 僕はいつもこうしていますよ?」

「そうか、別の人だったかな。はは。俺も疲れちゃっているのかも」

「お疲れ様です。野田さんも一服されますか? 火をつけますよ?」



 全くの別人。茶目っ気の多い彼の眼は昨日みたく充血してもない。



 私は本当に自分が可笑しくなっているのかなって思って周囲のスタッフや演者にも聞いてみた。




 すると私以外にもそのKちゃんを目にした人間はいた。




 でも、その誰もが見て見ぬフリをした。



「野田君、アレは見ちゃいけないものだよ。多分現実には存在しない何かだろう。彼はいつも同じチームの仲間と喫煙して休憩しているから」



 その時に震えが止まらなくて。



 なんせ私は話しかけてしまったから。自分がこの後に呪われて死ぬのかな? と不安になったりして。情けない話をすれば、厄払いに寺へ足を運ぶことも。いや、すごく恥ずかしいんだけど……



 それで肝心のKちゃんは翌年に退職してさ。体調を壊してっていう理由だったらしいけど、人間関係で悩むことがあったとか噂もあって。現場でカメラのまえに立って動かなかったそうなのよ。もう、緊急搬送までされたらしくてさ。



 なんとか搬送先の病院で意識を取り戻したらしいけど、その時に退職の意向は固めたみたいで。



 今は地元の地域に戻って別の仕事に励んでいるそうだ。



 今回はその話をしたいとKちゃんに相談をしたのだけど、誰なのか分からないようにしてくれるならば……ということで許可はだしてくれた。



 だから画面の向こうの皆さんも彼がどこの誰か特定されないように。



 お願いしますね。



 彼も煙草を吸いながら目を逸らしていたそうだから。



 カメラの前に立ち尽くすもう一人の彼自身を。




読了ありがとうございました。栄一郎さんが見たようなKちゃんの幻影みたいなものをみたことがありますか?あるならば、勇気をだして感想欄で教えて下さい。僕は信じますから。

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― 新着の感想 ―
おまえにはまだみえていない、って言葉めっちゃ怖い(´・ω・`) とくに“まだ”ってところが、今後見えるようになって……って想像が膨らんで怖さ倍増でした。 楽しく読ませていただきました、ありがとうござい…
もう一人のKちゃん。 仕事に集中するがあまり、その思念だけが一人歩きしてしまった存在とか……? いや、それよりも禍々しい何かですよね……。 目に見えてるものが本当に正しいのか、不安を覚えてしまう小説で…
おまえにはみえていない ヒッ
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