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悪役転生  作者: こすもす
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悪役転生第9話 現実


その口論にきっかけはなかった。


ただ、限界が訪れただけだった。


「次、どこにする? 何なら王家の宝物庫とか―」


「いつまで続けんだよ」


盗賊団の一人―レンが呟く。


レオナに話しかけたというより、

口から苛立ちが零れ落ちたと言うべきだろうか。


「誰?  今何か言ったの。」


すかさずレオナが反応する。怒りを隠せていない。


「だから、いつまで続けんだって言ってんだよ!

こんなこと。」


「いつまでって、村のみんなが飢えないくらいに

稼げれば十分でしょ?」


「これでまたしばらくはやっていけ―」


「その金が尽きたらどうするんだよ?」


場の空気が凍り付く。

何人かは目を逸らし、或いは無言で頷く。


レオナも言葉を返せなかった。


「これだけの財宝、売れば確かに大金になる。でも、

ネメア村は老人や子供も含めて100人以上はいる。

仮に節約しても、何年ともつわけじゃないんだぞ?」


「分かってるわよ、そんなこと!お金がなくなったらまた別のとこから奪えば―」


「そういうやり方に先がないって言っているんだよ、俺は。」


「いいか?  お前がやってることはなぁ、

穴の開いた桶に水を注ぎ続けているようなもんだ。

穴を塞がない限り、水がたまることはないんだよ!」


「じゃあどうしろって言うのよ!?」


レオナが声を荒げる。


「魔獣が! 畑を荒らすは家畜を食い散らかすはで、

みんなまともに食べることすらできなかった。」


「それにもとから、

日照りやらのせいで作物も育ってなかったでしょ?」


「この村には他所に売れるような特産品もない。

当然こんな地方の村、国は助けてくれない。」


「・・・だから―」


「黒金と組めばいいだろ。」


場の全員が固まる。

それも分かった上で、レンは続けた。


「そうすれば、桶の穴も多少は埋まる。」


「やはり黒金を狙ったのは間違いだ。

今からでも和睦を―」


「無理よ。昨日攻めたばっかりじゃない。」


「だとしてもだ!」


レンは退かない。退いてはいけないと思っていた。


「あの魔王になら、話は通じると思う。」


「それに口ぶりからして、

俺たちに用があったのは間違いない。」


「取引の余地はあると思うぞ。

お前の持ってる換金ルートでも、

メイの治癒魔法でも―」


「ダメ!!」


廃れたとは言え、空き家が軽く震える程の声。


それがただの意地なのか、

一種の不信感なのか、レンには分からなかった。


「・・・なあ、何で黒金の幹部を殴ったんだよ?

ノエラって人との交渉は上手くいってたんだろ?」


「 喧嘩っ早いとは言え、お前が一時の感情で、

同盟の話を破談させるような奴じゃないことは

分かってる。」


「事情があるんなら話してくれ。」


「・・・」


レオナは葛藤した。


だが、一時メイの方を見ただけで、

結局口を開くことはなかった。


そしてこの日は解散。


納得していない者を残しつつも、

話し合いは終わった。




■ 「レオナちゃん、入るよ。」


その日の夜、メイはアジトにある

レオナの寝室を訪ねた。


だが、ドアの前で立ち止まる。


レオナが今、一人で悩んでいることが

分かっていたからだ。


ノックする手が少し震える。

そっとしておいた方がいいのかもしれない。


でも、放っておけなかった。


「・・・レオナちゃん?」


ベッドの中でうずくまっている。


メイの知るレオナは、

嫌なことがあるとこうしてうずくまる。


気が強く、リーダーシップもあるが、

本当は優しくて繊細。


メイがそう感慨にふけっていると、


「え?」


すごい勢いで手首を掴まれ、

そのままベッドに引きずり込まれた。


「レ、レオナちゃん?」


「・・・ごめん。しばらくこうさせて。」


しばらく、時間にして約五分、

レオナはメイを抱きしめ続けた。


力は強い。でも力づくではない。


その丁寧な力の入れ方からも、彼女の優しさや、

メイに対しての想いが伝わってくる。


「あっ」


今、レオナがメイに脚を絡めた。


そのまま体勢が変わり、

レオナがメイに覆い被さる形になる。


「ごめんね、メイ。急にびっくりさせちゃって。

嫌じゃなかった?」


「嫌なわけないよ。

まぁ、ちょっとはびっくりしたけど。」


「でも、レオナちゃんとなら、私はいいよ。」


「・・・大好き。」


うっとりとした目で、レオナはメイを見つめる。


夜なので、単に眠たいだけなのか?

それとも―


「っていうか、案外久しぶりじゃない?

こういうことするの。」


「確かに。子供の頃は一緒にお風呂に入ったり、

寝たりもしてたもんね。」


レオナとメイは、いわゆる幼馴染である。

レオナは村長の、メイはその友人の娘。


歳が近いこともあり、家族ぐるみで、

本当の姉妹のように育ってきた。


「ねぇ、レオナちゃん。」


「どうしたの? メイ。」


「また一緒に、お風呂入らない?」


「・・・いいの?」


「うん。」


「ありがとう。大好きよ、メイ。」


「私も大好きだよ、レオナちゃん。」


そう言って二人は、お互いの体を抱きしめ合う。


メイは分かっていた。


ノエラと共に交渉に来た、黒金幹部の男。

彼は何度も、メイの身体をじぃっと見ていた。


レオナは何も言わなかった。

だが彼を殴った時、彼女はとても怒っていた。


確かめることはできない。


けれどメイはレオナのぬくもりから、

今も変わらない優しさと、

強い覚悟を感じ取っていた。


「ありがとう、レオナちゃん。何があっても私は―」


メイは小声で呟き、そのまま二人で眠りについた。


盗賊団のことも、村の現実も、

今夜だけは、今だけは、忘れていたかった。

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