悪役転生第8話 損失
「裏ルートは、使えないんでしょ?」
僕の言葉に、ノエラは目を伏せ押し黙る。
見たくない現実を、見ることになるからだ。
レオナ率いる盗賊団の襲撃から一夜明け、
僕とノエラは被害状況の確認に追われた。
ゼインは療養。
これまでの疲労も重なり、
短くとも一週間の安静が必要とのこと。
建物の被害は、宝物庫以外特になし。
財宝の大半を奪われたが、
それらは後でいくらでも生成できる。
結論、今すぐ影響が出る程の損害ではなかった。
とは言え、悪くなりこそすれ、
決して良くはなっていない。
今すぐではないが、確実に首を絞める損失。
借金を返済できなければ、どの道詰む。
故に、僕たちは生成した金銀財宝の換金について
再び話し合い、今に至っている。
話を戻すと、今は裏―非合法なルートでの
換金を考えていた。
黒金にも伝手はあったが、今は使えないらしい。
理由は、“舐められたから”
ノエラ曰く、当時の魔王や幹部たちは、
横暴極まる武力至上主義者だったという。
バイヤーたちを脅し、無茶な値段で
買い取らせるなどの蛮行を繰り返していた。
そんな中、先代魔王や幹部が討たれて黒金は弱体化。
仕返しと言わんばかりに足元を見られ、
資金面でも追い詰められる結果となった。
絵に描いたような因果応報。
テンプレ悪役の末路とでも言うべきだろうか。
いずれにせよ、過去の愚行が災いし、
黒金単体での換金は不可能。
「・・・ノエラ。借金に関してだけど、“現物返済”はできるのかな?」
「はい! 交渉次第では勿論可能です。
相手も裏稼業の人間ですので。ですから―」
「ただね。今後のことを考えると、流石に現金化の
手段は持っておくべきだと思うよ。」
ノエラは再び目を伏せる。そして今度は、
「だからって・・・レオナですか?」
苦虫を噛み潰したような顔で口を開いた。
そう。
議論していたのは、レオナと手を組むという話。
彼女は、奪った財宝を独自のルートで換金している。
実際魔王を失った後の黒金も、
このルートを利用すべく同盟を持ちかけていた。
交渉を担当したノエラ曰く、
レオナも黒金のブランドや組織力に
興味を示しており、途中までは上手くいっていた。
「いけません、魔王様。つい昨日私たちを襲った
相手ですよ! 」
「財産を奪われ、仲間も傷つけられました。
そんな相手と手を組むなんて・・・」
「とにかく、反対です!」
それが今ではこの通り。猛反発も猛反発。
鬼気迫る勢いで身を乗り出し、
全力で首を横に振っている。
ノエラは正しい。
一度同盟の話が破談し、
あまつさえ攻撃してきた相手と手を組む・・・
確かに、僕の言い分の方がおかしいのかもしれない。
「ノエラ。君の意見を否定はしない。
その上で聞きたいんだけど―」
「君は国英を倒したくないの?」
「・・・え? 何を仰って―」
「どうなの?」
しばしの沈黙。その後、さも当然かのように答えた。
「勿論、倒したいです。それは、
魔王様も同じ筈では?」
「そうだよ。僕は国英を倒して、世界を変える悪役になりたいと思っている。」
「何が仰り―」
「そのためなら、“出来ること”は何だってやる。
そういう話をしているんだよ。」
身を乗り出したノエラを座らせ、
彼女の目を見て話を続けた。
「ノエラ。僕も本音は君と同じだよ。」
「レオナに頼らず、黒金単体で国英を倒したい。
生まれて初めて顔を殴られた相手だからね。」
「だけど、“お金がないからできません” よりは、
数倍マシだと思ってる。」
「僕は初志を優先させたい。」
一度もノエラから目を逸らさず、
僕の想いを懸命に伝える。
それが届いたのか、彼女は首を縦に振ってくれた。
「では魔王様。早速、レオナたちと接触を―」
「いや、そう焦るのは悪手だと思うよ。」
「え? ですが・・・」
困惑するノエラを制止。順を追って考えを話した。
「目下、やることは二つある。
一つ目は戦力―負傷した戦闘員たちの回復だ。」
「組織力を立て直す、という意味ですよね?」
「その通り。」
悪の組織、黒金。弱体化したとは言え、構成員の数は今でも二百人を超える。
レオナも興味を持ったという黒金の組織力。
交渉の席でこれがなければ、
文字通り話にならない。
「二つ目は、レオナたちの拠点の特定。
今度はこちらから出向こう。」
「・・・それって、もしかして戦うんですか?」
「必要があればね。」
ノエラは驚いているが、僕は必要だと思っている。
理由は―
「舐められないため、ですか?」
「そう。一度負けた相手に、
ただ“手を組もう”って言ったら、
それはもう降伏宣言に等しい。」
「だからこそ、大軍を率いて拠点を訪れ、
必要があれば再戦もする。」
「ボロボロになった黒金の看板。
その威信を少しでも取り戻さない限り、
まともな取引はできないと思うよ。」
勿論、実際に戦うかは分からないし、
可能なら避けたい。
だが、それを辞さない姿勢は
見せなければならない。
「交渉は勝ってから、ということですね?」
「正解。」
指針の確認が済ませ、
ここからようやく行動に出られる。
「まずは戦力の回復。
ただ、これはある意味時間の問題。」
「だから並行して、拠点の捜索を行う訳だけど・・・
ノエラ、何か手掛かりになりそうな
情報はあるかな?」
「手掛かり・・・そう言えば、以前の交渉は
ディルナスの森、という森林地帯で
行っていました。もしかするとその近くに―」
「人手は可能な限り使っていい。探してくれる?」
「勿論です!」
早速ノエラは捜索に出かける。
だが部屋を出る直前、彼女は僕に振り返った。
「上手く、いきますよね?」
半分の自信と、半分の不安が混ざる顔。
確かに不安要素もあるが、僕は敢えて言った。
「大丈夫だと思う。
以前レオナが蹴った理由が不明な以上、
希望を捨てるべきではない。」
「この取引自体、
レオナ側にも十分メリットはあるからね。」
「そして、もう一つ。」
一呼吸間を置き、再びノエラの目を見て言った。
「以前話した、旧黒金の強盗と同じだよ。」
「略奪を繰り返すようなやり方が、
長続きするとは思えない。」
「それが分かる悪役は、
レオナ側にもいると思うよ。」
■ ディルナスの森。
昼夜問わず、独特の静けさが全てを包む広大な森。
その外れにある廃村が、
レオナたち盗賊団の拠点となっていた。
最も大きな空き家の中、言い合う声が漏れ出ていた。
「黒金を狙ったのは間違いだ。今からでも和睦を―」
「無理よ。昨日攻めたばっかりじゃない。」
誰も住まない村の中、
言い合う声が虚しく響いていた。




