悪役転生第6話 財政
驚きすぎて、うまく言葉が出てこなかった。
10 億・・・10億・・・2ヶ月・・・
人の、と言うより、組織の重さを感じさせる数字。
しかも期限が・・・
一度落ち着こう。まずは現状を整理し、そこから
解決策を考える。勉強と一緒。
「フゥ・・・まず、ここまでの借金苦に陥った経緯を教えてくれるかな。」
「そもそも黒金は、これまでどうやって
資金を調達していたの?」
「それは・・・」
説明しようとしたノエラが言葉に詰まる。
悔しさとも、恥ずかしさともつかない表情のまま
俯いている。
口に出せないのか、あるいは出したくないのか、
彼女はただ沈黙した。
静まり返った状況を見かねたのか、
ゼインが代わりに答えてくれた。
「遺跡の発掘や富豪の襲撃など、
いわゆる金銀財宝を、主な資金源にしていました。」
まんま強盗団だな。
悪の組織として間違ってはいないが・・・
「でも、幹部たちが倒され、組織が弱体化した
今では、それももう難しいと。」
「えぇ。ですが、正直に言うと・・・」
言葉を濁すゼインを尻目に、
俯いていたノエラが口を開く。
「やりたくありません。一般人にまで手を出せば、我々はもう国英以下です。」
ある種の気高さ、だけではない。
かつて、その国英以下の行いをしていたことへの
後悔。
そうした感情も感じさせる言葉。
嬉しかった。
「ありがとう、ノエラ。」
僕と同じ気持ちでいてくれて。
「え? ありがとう、ですか?」
「うん。僕もやりたくない。僕は悪役として、
国英を倒して世界を変えたいと思ってる。」
「金儲けがしたい訳でも、
盗賊になりたい訳でもない。」
「ノエラ。君が同じ志を持ってくれていたことが、
僕はたまらなく嬉しいんだよ。」
「―はい!!」
目に涙を浮かべながら、
満面の笑みでノエラは答えた。
僕もホッと胸を撫で下ろす。
いくら悪役でも、略奪を繰り返すようなやり方が
長続きするとは思えない。
目先の利益しか考えない短絡な思考。
ノエラが“そうではない”と分かっただけでも、
僕は安心して進むことが出来る。
とは言え、
「あの、魔王様。私も、ノエラや魔王様の意見に
賛成です。ただ、やはり借金の問題は―」
「勿論だよ、ゼイン。お金は大事だ。
僕のいた世界もそう。」
「だから、ちゃんと対策はある。」
「・・・と、仰いますと?」
「言いそびれたんだけど、吸収能力には、
自己強化や適応以外にも使い道があってね。」
「ノエラ、もし何か金銀財宝の類が余っていたら、
持ってきてくれるかな。
ひとかけらでも構わないから。」
「はい。分かりました。」
―しばらくすると、ノエラは金の延べ棒と、
ダイヤモンドを持ってきた。
「あの、持ってきましたけど、一体これをどうす―」
僕は金とダイヤを、それぞれ手で掴んだ。
そして、それらを体の中に取り込んだ。
トクゥ、トクゥと、溶けるような音を出して
分解されながら、どちらも僕の手の中に沈んだ。
そして今度は、両手を机の上にかざした。
すると一つ、また一つと、金の延べ棒や
ダイヤモンドが手から現れ、
最終的には机を覆いつくした。
「魔王様、これは・・・」
「吸収能力のもう一つの使い方、生成だよ。」
「僕は一度吸収した物なら、魔力を消費して
生み出すことができる。生物以外ならね。」
「そんなことが・・・す、すごいじゃないですか!
これがあれば借金も返せるし、
もう略奪もしないで済む。」
「 ありがとうございます、魔王様!」
抱きつかんばかりの勢いで向かってくるノエラ。
顔中が喜びで満たされている。
ただ、ゼインはそうでもないようで―
「魔王様。その・・・大変すばらしい能力だと
思うのですが、まだ問題がありまして。」
「何? まさか、足りないとか?」
「いえ。この量やペースでなら、十分間に合うとは
思います。ですが、その・・・」
「何? もういいから言って。」
「これでは借金を返せません。
換金ができないからです。」
「・・・ん?」
思わず声が出る。ノエラもハッとしている。
だがどうにも分からない。換金・・・
「どういうこと? 換金なんて、普通にそういう
お店とかでやったらいいんじゃないの?」
純粋な疑問。
しかし、ゼインは大きく首を横に振った。
「無理です。そうした店では入手経路などもかなり
詳しく聞かれますし、
不審な点があれば即座に国英を呼ばれます。」
「これで捕まった盗賊団も少なくありません。」
「・・・マジで?」
がっかり。だがその落胆の気持ち以上に、
驚きの方が強い。
現代日本ならまだしも、
こんな中世ヨーロッパみたいな世界で、
社会制度がそこまで厳しいものなのだろうか?
「随分と、厳格なんだね?」
「昔は緩かったようですが・・・」
「近年は盗賊や、特にかつての黒金があちこちで
略奪を繰り返したことで、
国英の監視が厳しくなってきまして。」
「・・・そう。分かった。」
残念。だがしょうがない。
文句を言っても解決しない以上、
対策を考えなければ。
しかし、どうするか・・・
店の主を買収。いや失敗した時のリスクが大きい。
いっそ脅す― 駄目だ、
それをやったら強盗と同じになる。
じゃあ都市を統治している貴族の方を―
買収も脅しも難しいだろうなぁ。
「はぁぁぁぁぁ。」
大きくため息をつく。
どっと疲れた。
戦闘による肉体の疲労。それもあるが、
正直精神的な落胆の方が大きい。
そして、心もそうだが脳もしんどい。
頭の中がこんがらがって熱さまで感じている。
「すみません、魔王様。ゼイン様も。
よく考えもせず喜んでしまって。」
ノエラが謝ってきた。
確かに冷静な彼女らしくないとは思ったが、
それだけ強盗や略奪が嫌だっただけのこと。
決して悪い事ではない。
「大丈夫だよ。ぬか喜びしたのは僕も同じさ。」
ノエラは励ませたものの、
換金に関しては何も思いつかない。
二人も疲れてる。と言うか、
ゼインは一刻も早く休ませるべきだ。
今日はこの辺でお開きに―
コンッ、コンッ
急にドアがノックされ、
返事を待たずして伝令が入る。
「失礼します。魔王様、大変です!」
「どうしたの?」
「城内に盗賊が侵入。今まさに
宝物庫が襲撃されています。」
「・・・今!?」
「はい! 今です!」
聞くや否やゼインは飛び出した。
戦っていい体じゃないのに。
当然僕も向かうが、精神的な足取りは重い。
一難去って― 違う、何も去ってない。・・・そうだ、これは泣きっ面に蜂だ。
戦闘もあり得る以上、心は切り替える必要がある。
それでも、
「・・・大丈夫かなぁ、この組織。」
吐露するように弱音を吐く、そんな僕もいた。




