悪役転生第32話 行末
「よろしくお願いします。アルヴァ―ド様。」
頭を下げたあの日から、
自身の時が早まるのを感じた。
翌日には王都セイオルへと移動。
その次の日からは仕事が始まった。
アルヴァ―ド様が手配した犯罪者や、
奴隷たちを鎧に変えた。
王宮の一室に缶詰めにされ、
ひたすら同じことを繰り返した。
部屋を出たのは何日目だったか。
全員を鎧にした日、私は一度倒れた。
さすがのアルヴァ―ド様も休養を下さったが、
終わるとすぐに王都を出た。
他の都市にいる犯罪者や奴隷の鎧化。
作業に忙殺された覚えしかないが、それ以外で唯一、
はっきりと憶えていることがある。
挨拶と称して、アルヴァ―ド様が懇意にしている
国英たちと会ったことだ。
彼らは鎧化計画のことは知らない。
あくまで金属を操る魔法だと思っている。
その魔法を、彼らは大げさなほど褒め称えた。
出自のこともあり、
正直歓迎はされないと思っていた。
だが彼らは違った。
それどころか自警団を率い、
ハルスと二人だけになっても尚戦ったことを、
元雷の手先を倒し続けたことを、ひたすら称賛した。
“真の英雄”とも言われた。
後から聞いた話では、
彼らはほとんどが下級貴族の出身。
名門家とは違い、
結果を出さなければ上には行けない。
よって彼らは、王都の名ばかりの護衛ではなく、
黒金や敵国を相手に、
最前線で戦うことを選んでいる。
だから元雷と戦い続け、その功績で
国英になった私のことを讃えたのだろう。
自分たちと重ね、それこそ我が事のように。
嬉しかった。
これだけは憶えている。
戦い続けて良かった、という気持ちではない。
“アルヴァ―ド様に下った”から、
これまでの苦労が報われた。
あの時の選択は正しかった。
そう思えたから嬉しかった。
王都に戻った後にハルスと合流。
その際、あの時の選択を肯定した出来事を、
他にも二つ体験した。
一つ目は、強くしてもらえたこと。
アルヴァ―ド様の魔法は、「超転移」
相手の魔法を自身の体に移す。
つまり魔法の複数持ちである。
優れた魔法持ちから買い取り、或いは奪って、
己を強化し続けた。
その魔法の一つに、「魔法進化」というものがある。
その名の通り、魔法を進化させる魔法。
単純な強化ではなく、
魔法の能力を拡張させることができる。
私の魔法「人間鎧」も、この魔法で進化した。
鎧同士での合体が可能になり、
数だけでなく質も追求できるようになった。
「銀属」「金伯」「紅之衛」「蒼大」
能力を持つ上位個体や特殊個体も生まれ、
私は格段に強くなった。
一人では届かなかった高みに、
アルヴァ―ド様は引き上げて下さった。
私の選択は正しかった。
二つ目は、ご褒美をいただいた時。
約一年前、当時の黒金の魔王を
アルヴァ―ド様が自ら討ち取り、
黒金の弱体化を決定づけた。
非の打ち所がない戦果に、
王宮や市井での支持も跳ね上がった。
最早その人気は、
兄王であるニュート陛下の比ではなかった。
そうして得た権を振るい、
私を白騎士に推薦して下さった。
白騎士―家柄と実力、
両方を併せ持つ最上位の国英に与えられる称号。
本来なら、私には近づくことすらできないもの。
だがアルヴァ―ド様は、
対元雷の象徴として自分を推した。
上級貴族にも、文句は言わせなかった。
晴れて私は白騎士に就任。
アルヴァ―ド様に下ったからこそ、
この恩恵を得られた。
私は正しかった。
そして、事態は動く。
黒金の弱体化で地方への進出が可能になり、
鎧の数も大きく増加した。
もう、“罪のない人間を鎧にする罪悪感”など
まるでなかった。
記憶がなくなるほど鎧を作ったから。
それもあるが、一番の理由は“知らない顔だから”。
ロドリアの住人は少なからず知った仲であり、
遺体であろうと、
顔を見れば嫌でも思い出が蘇ってきた。
だが他所者にはそれがない。
罪人も、奴隷も、地方の一般人も。
顔は同じ。知らない人間の顔だ。
自分でも驚くほどに、何も感じなかった。
白騎士になった後、久々にロドリアを訪れた。
賑やかだった。
多くの兵士や国英が街を守り、市民にも笑顔がある。
軍事都市となったことで人の往来も盛んになり、
景気も良くなったそうだ。
しかし、未だ元雷の手先は来るらしい。
どれだけ高い防壁をつくっても、
荒波そのものは止められない。
防ぎ続けるしかない。何度も、何度でも。
それが嫌なら―
元を断つしかない。
王国の地方民全てを鎧にすれば、
逆に元雷を滅ぼすことも出来る。
ふとそんな考えが浮かんだ。
そして、アルヴァ―ド様も同じ考えだった。
出来ると思った。
私の鎧と、アルヴァ―ド様の力があれば―
現実に引き戻されるように、
焦げた空気の匂いが鼻に刺さる。
我に返ったグラディオは、
光を失ったような目で魔王を見た。
灼熱に晒されて尚、
倒れぬ自分に驚いているようだった。
まだ勝機はある。
「じゃ・・ま・・・・・・へい・わ・・・の・・・
じゃま・・・・・・るな」
言葉にならない声を発して、グラディオは倒れた。
一歩を踏み出す力は、もう残ってはなかった。
焦げつくされた土と、その上に堕ちた白騎士。
ハルスの口から、
グラディオのこれまでの歩みは聞いていた。
摩耗からの救済。
称賛と栄光。思考停止と堕落。
そして、与えられた力と名前。
同情の余地はある。
が、
「君は仲間にとっての仇。赦しはしない。」
彼の体を掴み、魔法を吸収する。
強化済みということもあり、かなりの魔力量だった。
吸収が終わり、最後に言いたかったことを言う。
「君は、ヒーローに疲れたんだね。」
「だから大きな光に縋って、それを追いかけた。」
「でも―」
「その道は光っているだけで、
元雷と同じ道だよ。」
彼から手を放し、ようやく安堵の息を吐く。
戦いは終わった。
「魔王様。」
呼ばれて振り返ると、レオナがいた。
メイもいて、レオナと手をつないでいる。
「倒したんだね。ありがとう。」
「とんでもない。正直、
君たちに譲るべきかとも思ったんだが―」
「仕方ないよ。戦いだし。」
少し、様子がおかしい。そう思っていると、
「ねえ。結局私たちも、
こいつと同じだったのかな?」
柄にもない弱弱しい声。
盗賊団時代のことを気にしているのだろうか?
「違うよ。」
まずハッキリと否定する。
「君が奪った相手は、
いわゆる悪徳貴族や罪のある国英たち。
しかも殺してはいない。」
「罪のない弱者を捕えて、
命を兵器にしたわけではないだろ?」
「・・・そうかな。」
「彼女もそう言ってる。」
メイの方を指した。
彼女は無言で背伸びをし、レオナの頭をさすった。
レオナも思わず涙を流し、メイを強く抱きしめる。
しばらく二人が抱き合った辺りで、
ノエラやゼインたちとも合流。
焦げたにおいが、まだ地面に残る。
もう終わったと誰もが思った。
その時だった。
ドォォォォォォン―
ドォォォォォォン―
地震のような揺れが、何度も繰り返し起こった。
僕の地面操作と同じか、それ以上の衝撃だった。




