悪役転生第31話 選択
「アルヴァ―ド・スペリア。」
「この国の盾であり、そして矛にもなる男だ。」
唐突に現れたその男は、自身が王族だと明かした。
何か証明できるものを示した訳ではない。
それでも、目を疑うほど輝かしい軍服。
並の男ではあり得ない美しい髪。
そして、 熟した果実のように艶やかで、
それでいて獲物を狙う刃のような
ぎらつきも感じさせる眼。
身分の違いを感じるには、それだけで十分だった。
「な、何で、王族がこんな所に?」
アルヴァ―ドは、ジトっと自分を見つめた。
敬語を使わなかったことに気付き、
今更ながらハッとする。
「ついでだよ。元雷との国境地帯の軍事視察。
今はその帰りだ。」
意外と普通に答えてくれた。
咎められるやもと思ったが、実は寛大なのだろうか。
「そう、ついで・・・だったんだけどなぁぁぁ!」
語気と共に、アルヴァ―ドの圧が、気迫が強くなる。
一瞬でも寛大とか思った自分が愚かに思えた。
これが王族―
そんなことを考えていると、
いきなりアルヴァ―ドが自分の体を担ぎ上げた。
「行くぞ。」
言うや否や、地面を踏みしめ一気に跳び上がる。
眼下に広がる街の姿。
家一つ一つが点にしか見えない。
そして次の瞬間には、地面の土がくっきりと見える。
気付いた時には別の場所にいた。
流石と言うべきか、
理解の追い付くより先に景色が変わる。
「団長! 大丈夫ですか?」
ハルスの声がした。傍に駆け寄ってくる。
「ハルス。こうしてお望み通り、
グラディオも連れてきた。」
「話してくれるよな? 自警団のこと。」
「・・・はい。」
バツの悪い顔をしたハルスを尻目に、
アルヴァ―ドは前に進んだ。
■ 「この店を貸し切る。店員含め、
誰も中に入れないでくれ。」
街一番のレストラン。
古いが、それでいて清潔感のある内装の店の中、
料理が届くと同時にそう告げた。
小袋一杯の金貨を渡し、
店主の喉をごくりと鳴らせる。
半ば強制的に人払いを済ませ、
一切何食わぬ顔で料理を食べ始める。
この強引な、もっと言えば傍若無人な振る舞いも、
ある意味王族らしいとも言える。
「あ、あの―」
「何だ?」
空気に耐えかね、ハルスが溜まらず声を上げる。
「そろそろ、本題に入りませんか?」
この言葉を皮切りに、空気が変わる。
「ああ、悪いな。地方の割には
料理が美味かったものでね。」
口を拭い、じっとこちらを見つめる。
「じゃあ、早速話してもらおうか。
あの鎧の造り方。」
「先に言っておくが、
“金属を操っている”なんて下手な嘘はつくなよ。」
アルヴァ―ドはぎらついた眼を向け、
見透かしたように告げる。
証拠がないだけで、
彼の中では答えが出ているのだろう。
隠すだけ無駄だ。
「人を、鎧に変えています。
それが、俺の魔法です。」
「やはりか。まあこんな鉱山もない街。
あれだけの鎧を生む原料なんて、
それしかないよな。」
「で、ですがアルヴァ―ド様。
鎧にしているのは、あくまで他所から来た敵や
亡くな―」
「ハハハハハ! 落ち着けよ、ハルス。
別に咎めてる訳じゃない。」
無知な子供をからかうかのように、
大笑いするアルヴァ―ド。
自分たちを罰する気配はなく、そこには安堵した。
だが、
「グラディオ。お前国英になる気はないか?」
「いや、なれ。」
急に思いがけない提案、もとい命令を受ける。
確かになりたいとは思っていたが―
「・・・理由を聞いても?」
「役に立つからだよ。お前の鎧は優秀だ。」
「魔法弾を防げる防御力に、
土人形を破壊できる攻撃力。」
「加えて数だ。
欲しいものが全部揃ってるんだよ。」
「戦争、特に元雷との戦いにおいてな。」
つまり、より国防に特化した型の英雄。
だとしても、
「あの、そんな簡単になれるのですか?
俺、家柄なんてとても―」
「俺を誰だと思ってる?」
理屈ではなく納得した。
この言葉と、彼の眼だけで十分だった。
そして、断る理由も見つからなかった。
「・・・分かりました。よろしく、お願いします。」
「ああ! よろしくな。」
流れるようにして国英になったグラディオ。
全くと言っていい程実感は湧かないが。
「それで、俺、・・・私は何をすれば?」
「鎧だよ。原料はこっちで用意するから、
とにかく大量に作ってくれ。」
「・・・原料、と言いますと?」
「まあ例えば、罪人や奴隷。
後は、地方の人間とかかな。」
バンッ!
反射的に机を叩いて立ち上がる。
一瞬聞き流しそうになったが、
流石に看過できなかった。
言葉より早く、怒りが体を動かしていた。
「今何と? 地方の、
何の罪もない人々も鎧にすると―」
胸倉を掴まれ、一気に顔を引き寄せられる。
「ああ、言ったよ。」
アルヴァ―ドは続ける。
「一つ言っておくが、前線じゃ
元雷との小競り合いはずっと続いている。」
「もういつ戦争になってもおかしくはない。」
「そうなれば、地方の連中は強制徴兵で
嫌でも戦場に行かされる。」
「そうなれば、ただの無駄死だ。」
グラディオは息を呑む。強い言葉に思わず怯む。
「無駄死?」
「ああ。武器持っただけの一般人が、
土人形に勝てる訳がない。」
「だったらせめて、勝てる力を与えたうえで
死なせてやるべきだろ?」
「それなら国は守られる。無駄死ではない。」
何も言えなかった。
これは王族の、国の都合での主張。
ある種の欺瞞。
それなのに言葉が出ない。自分も同じだから。
「安心しろ。お前への見返りは用意してある。」
飲み物を口にし、
今度は落ち着いた口調で話し始めた。
「見返りとは?」
「この街を軍事都市にする。」
「それは、どういう?」
「この街、ロドリアは前線援護のために
国が使わせてもらう。」
「ですから―」
「無論、国英も派遣する。」
一瞬だが、グラディオとハルス、
二人の呼吸が止まった。
「お前が王都で鎧を量産する間、何かあれば全力で、
民も含めて守ると約束しよう。」
「本当ですか?」
「アルヴァ―ド・スペリアの名に懸けて」
この時ばかりは、
王族の傲慢さすらも頼もしく思えた。
ようやく解放される。
もう、二人だけで戦う必要もない。
もう、街の仲間を鎧にする必要もない。
今まで、国や王族には不満しかなく、
期待など微塵もしていなかった。
だがいざ味方になり、頼ることができると分かれば、
これほど安心できる相手もいない。
もちろん軍事都市になれば、
今まで以上に元雷に狙われる恐れもある。
下手をすると、アルヴァ―ド様が
街の人間を人質にするかもしれない。
そうした可能性が、頭にない訳ではなかった―
「よろしくお願いします。アルヴァ―ド様。」
だがどうでもよかった。
ハルスも立たせ、二人で深々と頭を下げる。
机に映る自分の影が異様に濃い。
そして何かを失ったかのように、
体が軽くなるのも感じた。
だがそれもどうでもよかった。
軽くなった体を、目の前の太陽を、
今はただ感じていたかった。




