悪役転生第29話 我流
「やろうよ。痺れてきた。」
貫いた銀属の体を捨て、
ゆっくりとグラディオに近づいていく。
興奮故か、歩みも、笑みも口も止まらず、
無性に煽りたい衝動に駆られる。
「白騎士様? 白騎士の白って何の白なんです?
白兵卒の白ですか?」
「? どういう意味―」
「強さも同じくらいなの?」
カッとなった、とは正にああいう様を言うのだろう。
目尻が裂けそうなほど目を見開き、
眼球に血管が浮き出ている。
完全にキレたらしい。
「この黒金風情がぁぁぁぁぁ!!」
燃えるような怒気と共に、
グラディオも力を解放する。
全身が白い光に包まれ、魔法の鎧が生成される。
両脚、左腕、胴と右腕、そして顔。
次々に装着され、背中には純白のマントまである。
そうして変身は完了。
これだけ見れば、日曜日お馴染みの光景―
ヒーローの変身バンクだ。
きっとこの世界の人間、少なくとも一部にとっては、
本当にヒーローなのだろう。
そんな相手と戦う僕は、正に悪役。
そうか。・・・本当に成ったのか。
悪役が感慨深い想いに浸る中、
英雄が怒りの一撃を放つ。
高速移動、からの剣の一閃。
両腕の刃で防ぐも、勢いに押されて大きく下がる。
何とか踏み止まり転倒は避けるも、
既に二撃目が放たれている。
次は縦の一閃。
避けると、今度は畳みかけるような連撃に襲われる。
懐に入られ、触手を上手く当てられない。
両腕の刃で打ち合う。今は僕が守勢。
攻撃はするも、
そう簡単には主導権を握らせてはくれない。
流石は白騎士―最上位の国英といったところか。
ドガッ!
!? 蹴られた。
剣と刃で打ち合う最中、
グラディオの右脚が僕の脇腹に命中。
中々に強烈な一撃。
そして、
カァァァァン!
「カハッ!」
今度はパンチ。それも言うなれば、光のパンチ。
左の拳を胸に当て、打撃と共にバリアを展開。
衝撃に重ね掛けされた反発力が、
僕の体を大きく飛ばす。
ジェットコースターのような勢いで飛ばされ、
体勢を保つのが難しい。
それでも何とか着地し、
触手を地面に突き刺して踏み止まる。
顔を上げると、
そこには剣を振り下ろすグラディオの姿が。
受け止めると、グラディオが煽りを始める。
「誰が白兵卒だ、あぁ?」
「その俺に押されてるお前は何だよ?
雑魚魔王が!」
煽りと言うより罵りに近い。
余程気に障ったのだろう。
にしても、ヒーローとは思えない言葉遣い。
これが本性なのかな?
「どうだ、俺の剣術は!
能力と共に実戦で鍛えた我流の技。」
「アルヴァ―ド様じゃなくても、
魔王は倒せんだよ!」
グラディオが大きく斬りかかる。
全身を押し出し、倒れ込むようにして剣を振る。
剣を途中で止めるも、最後は押し出され、
剣を振り抜かれる。
大きく下がり、足で地面を削る。
摩擦故か、靴の熱が足の裏にまで届いた。
あの一撃。速度は銀属と同じ、否それ以上だった。
「俺は王族でも騎士族でもねぇ。
ほとんど誰にも教わらず、頼らずに腕を磨いた。」
「それで成り上がったんだよ!」
グラディオの言う我流。
確かに強い。と言うか、読みにくい。
剣に頼りきらず、打撃も混ぜた攻撃。
何より、特注としか思えないグラディオの鎧。
両脚は銀属。 左腕が紅之衛。
右腕と胴、そして頭部は金伯。
金の剣を手にし、光の盾や高速移動も使ってくる。
「お前を倒して、俺は白騎士を超える!」
宣言と同時に、剣を地面に突き刺す。
直後足元が光り始め―
「昇雷」
突き上げるような稲妻に襲われる。
金伯以上の出力。
これは流石に・・・
大技が命中。
だが、しばらくは手を緩めずに火力を保つ。
すると魔王の殺気はしぼみ、
そして周囲にも静寂が広がる。
「・・・勝った。これで、
ロドリアはもう誰にも―」
「何の話かな?」
!? 気付いた時にはもう遅かった。
稲妻の中に佇む影。
その手から伸びた触手が、
左腕の鎧に食い込んでいる。
赤の鎧が紫に染まり、音を立てて崩れ落ちる。
グラディオは動揺しつつも後ろへ下がる。
触手の追撃を食らうも、かろうじて左腕は守った。
稲妻が止まり、
ほぼ無傷の魔王をじっと見つめるグラディオ。
焦りどころではない。困惑と怯え。
いい顔だ。
「随分誇らしげに言うんだね。」
「何の話だ?」
僕の言葉に、グラディオの顔色は更に険しくなる。
「戦い方だよ。」
「我流―非正規の剣術であることを
自慢気に語ってたけど、
別にそれが偉い訳じゃない。」
「ッ、それは―」
「正道だろうと邪道だろうと、
強ければいい。違う?」
「・・・」
不味いものを口に入れたような顔をして目を逸らす。
ぐうの音も出ないらしい。
「それとねぇ、我流っていうなら・・・
うちの女王の方が上だよ。」
“女王”とは、勿論レオナのこと。
彼女の動きは、読みにくいなんてものではない。
まず速い。
速度、回転数、反応速度。
殴り合いになれば勝ち目はない。
加えて戦法。
木々に飛び移り、八方からの殴る蹴る。
他にもバク転で顎を蹴り、
股をくぐって脚を取るなど、正に予測不能。
さらには、ラリアットやチョークスリーパー、
飛び膝蹴りからの三角締め等、
プロレスや格闘技のような技も使う。
まあ、何が言いたいのかと言うと、
「君の我流。彼女に比べれば、
だいぶ“お上品”だったよ。」
再びグラディオが目を見開く。
今度は子馬鹿にするような言い方にキレたらしい。
高速移動の斬撃。しかしこれは空を切る。
そう何度も食らわない。
速度は分かっている―
レオナよりは遅い。
背中の触手でグラディオを捕える。
縛り、持ち上げ、地面に叩きつける。
頭からの着地。
擬似的なジャーマンスープレックス。
衝撃のダメージはあるようだ。
ふらつくグラディオを、刃と触手で攻撃。
打ち合いとなるも、今はこちらが攻勢。
触手は左腕にも当たり、毒で動きが鈍る。
斬撃、刺突、そして蹴りも入れる。
あまり効かないとは思うが、
心理的なプレッシャーにはなる。
調子も戻り、完全に優勢となる。
最初は苦戦したが、魔王を倒せる相手ではない。
レオナの方が遥かに強い。少なくとも個としては。
・・・ごめんね、レオナ。
本当なら君にとどめを譲りたいが、
他の鎧もいる以上、君を待っている時間がない。
その代わり、ちゃんと苦しんでもらう。
両手を薙ぎ、グラディオを地に転がす。
刃を解いて右手をかざす。
すると地が揺れ、金の蛇が顔を出す。
グラディオを囲むようにして、計八体。
今回は囮じゃない。
「焔輪八岐」
八つの炎、否、より洗練された熱線が
グラディオを襲う。
左腕はもとより、鎧に守られた体も灼熱に晒される。
魔力があるとは言え、想像を絶する苦しみ。
「グラディオ。君たちがどうかは知らないけど―」
「悪役は、勝てなきゃ終わりなんだよ。」
炎の、灼熱の中。
グラディオの脳に流れる、懐かしくも苦い思い出。
彼の原点。“ロドリア自警団”の記憶。




