表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役転生  作者: こすもす
28/38

悪役転生第28話 前座


「安心したよ、グラディオ。」


土で服は汚れているが、それでも僕は笑って言った。


「その鎧、ちゃんと倒せるんだね。」


余程おかしかったのか、グラディオは鼻で笑った。


「おかしくなったか、魔王?」


「 私にも紅之衛にも、傷一つ付けられないで

何を言っている?」


紅之衛(このえ)」 詳細が不明だった鎧の一つ。


艶のある赤と、上品な光沢を纏う鎧。


後者は土に飲まれたようだが、

主を守る近衛の貫禄は失っていない。


体と同じ深紅の槍で、

魔王から主を守らんと攻勢を続ける。


「面倒だな。」


紅之衛の数は計五体。


内三体は前衛で攻撃、

残りの二体が後衛でグラディオを守っている。


両手の刃で三槍を防ぎ、背中の触手で攻撃。

が、現状後者は効いていない。


厄介なのはその能力―


「光の衣」とでも言うべきだろうか。


赤く光る魔力のバリア。


鎧の体をもう一膜包むかのように保護しており、

味方の動きを遮ることなく防御している。


おかげでこちらは防戦一方、後退するばかり。


刃と交わる槍の衝撃が、腕から腹にまで響く。

そして―


ジュゥゥゥ―  ザクッ


不意打ちも効かない。


初手の地面操作、そのタイミングで

背後に忍ばせた使い魔。


1メートルもない小型の蛇。


だが毒牙をグラディオに当てるより早く、

首を貫かれ消えてしまう。


共有した視覚を見るに、

毒牙は二体分のバリアによって防がれていた。


後衛の紅之衛二体。


そのバリアは大きく球状に開いており、

シールドと呼ぶにふさわしい。


シールド二つが交わる中にグラディオはいる。


前後と上は二重のシールド。

左右はシールドと鎧。


要するに完全防備だ。


だが、紫毒は魔法にも有効。

並のバリアなら溶かせる。


今も、やろうと思えば撃破はできる。


一体だけなら倒せるが、他の二体に隙を突かれる。


三体同時は難しい。

紅之衛のバリアは並ではない。


だが、並ではないのは僕も同じ。


「このまま終わりか?  いくら魔王でも、

我が親衛隊には手も足も出ないようだな。」


グラディオの言葉に呼応するかのように、

紅之衛の刺突が激しさを増す。


両手だけでなく背中の触手も使って防御するが、

それでも刃が当たりつつある。


準備が整ったのは、そんな時だった。


呼吸が静まり、体の中心に力が集まる。

魔王の反撃を見せよう。


まずは大きく両手を薙ぐ。

紅之衛の攻撃を止め、一度距離を取る。


当然、紅之衛は槍で貫かんと迫りくる。


その突撃を、僕は上に回避する。


両手の刃と触手で体を持ち上げ、

空気で固めた足場に着地。そのまま前へ。


瞬間的に足場をつくり、

空中ジャンプの要領で宙を駆ける。

グラディオの眼前へ。


右の刃に毒を集中させ、

シールドごと貫く点の一撃―


光が溶ける。

しかし、グラディオには届かず。


よく見ると、グラディオの左腕が鎧に覆われている。


紅之衛と同じく艶のある赤。

そこからバリアを、盾のように展開している。


二つのシールドと合わせて三重の防御。


盾までは破れず、ここでは仕留められなかった。


再び触手で体を持ち上げる。

グラディオを跳び越え、紅之衛の挟み撃ちを避ける。


同士討ちは―

もとより期待していない。


だがシールドを貫かれたからか、

或いは後一歩で攻撃されていたからか。


いずれせよ、彼の顔から笑みは消えていた。


「シールドを貫き、盾にも食い込むか。

腐っても魔王という所か?」


再び笑って挑発するが、顔は引きつっている。


良くないことだ。


焦りが顔に出ているよ。


「何故今になってこんな攻撃―」


「このためだよ。」


思わずニヤリと笑った直後、

地を割り、金色の蛇が顔を出す。


鎧の大半を地に沈め、今戻ってきた僕の使い魔。


そして、流石の親衛隊。急な敵にも即座に反応。


背中合わせでグラディオを囲み、

五重のシールドで彼を守る。


実に優秀。


だからこそ、動きも読める。


「スキありだよ。」


僕の言葉に、グラディオだけは反応した。

だがもう遅い。


刃をしまい、右手で地面に触れる。

そして―


紫荊苦(しばらく)


蠢く触手が、地中から姿を現す。


一本、また一本と、

出ては沈み、出ては沈みを繰り返し、

鎧を蹂躙していく。


加えて触手の形状。


先端だけでなく、

側面にも棘のような小さな刃が無数にある。


当然紫毒が付与されており、

地面に戻るときにも鎧を削る。


無警戒だった足元を狙われ、

為す術なく宙を舞う紅之衛。


下から上へ、上から下へと毒の刃に晒され続ける。


やがて、原型を留めない形で紅之衛は倒れた。


その後、役目を果たした使い魔の回収。

地面操作で消耗し、戦う力はほぼなかった。


そんな使い魔を囮にした不意打ち。

我ながら悪くない作戦だったと思う。


が、


「全部演技だったのか?」


土煙の中、グラディオだけが立っていた。

一瞬疑問に思ったが、理由はすぐに分かった。


僕を見たからだ。


地面に触れた僕を見て、下からの攻撃を警戒。


自身の足元と周囲にシールドを張り、

紫荊苦を凌いだのだろう。


咄嗟に防いだのはすごいが、荒い息遣いに加え、

少し血の気の引いたような表情。


余裕は失い、それどころか恐怖まで見て取れる。


「あの蛇共を集めるまで、劣勢を演じて時間稼ぎ。」


「そしてそいつらまで囮にして

本命の攻撃をした。」


「全部、俺たちをまとめて倒すための演技―」


「だったら何?」


少し低い、ドスの効いた声で聞き返す。

グラディオは押し黙る。


「まあ演技はしたよ。

一体倒すごとに隙突かれるのは面倒だったし。」


「でも、別に全部が嘘だった訳じゃない。」


「あ?  何を―」


「言った筈だよ。“ちゃんと倒せる”って。」


苦虫を噛み潰したような顔。

ぐうの音も出ないらしい。


別にいい。僕も話す気分ではない。


「もういいでしょ。親衛隊だろうと何だろうと、

僕の前では前座だよ。だから―」


空気が一拍止まる。

次の瞬間―


グラディオの目に映ったのは、

背中の触手を翼の如く広げた僕と、

貫かれた二体の銀属。


身体中を触手で刺され、

手も足も出せずに吊り上げられる。


続けざま、右手からも触手を出して

地面に深く突き刺す。


そして―


「紫荊苦」


グラディオは構える。彼には何も起きない。


だが、代わりに周囲からは土煙が上がる。


グラディオは目を奪われた。


舞い上がる土と、触手と、大量の白兵卒。


銀属もそうだが、

バラバラになって宙を舞う白兵卒の姿に愕然とする。


何故気付いた?


万一に備え、遠巻きに包囲させていた伏兵に―


「どうして分かった?」


自分の言葉にハッとするグラディオ。

疑問が口からこぼれたらしい。


「魔法だよ。詳しくは言わない。」


一言で言えば、蛇の能力。

蛇にはピット器官という、熱を感じる部位がある。


普段は何ともないが、戦闘中、特に

触手能力を使う際にはこの機能が発揮される。


体中ピリピリと、

全身でワサビを味わうような感覚になる。


だがこの痺れが心地よく、

全身で空間を感じながら戦いを楽しめる・・・


そう。戦いを楽しいと思える。


「フフッ、ハハハハハ!」


思わず笑った。

グラディオは気味悪がるが、僕は気持ちいい。


興奮している。


戦いに、そして何より、

自分がより魔王に近づいている実感に、

僕はたまらなく興奮している。


「やろうよ。痺れてきた。」


痺れた舌先でグラディオを挑発する。


前座は終わり。

ここからが、大将同士の決戦になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ