悪役転生第27話 情報
「探しましたよ、金伯。」
魔王の側近―ノエラは落ち着いた様子で相手を見る。
金伯。レオナが倒したものとは別の個体。
最上位の鎧兵は、まだ戦場に残っていた。
金伯の周囲には焼け焦げた木々と、
倒れ込む黒金の戦士たちがいた。
比較的新入りの彼らでは、
流石に相手が悪かったらしい。
「あなた達は退いて下さい。後は私がやります。」
ノエラの言葉に皆はざわめく。
確かに魔法は強力だが、
はっきり言って戦うイメージがない。
「ノエラ様、まさかお一人で―」
「私がやります。大丈夫です。」
にっこりとした顔で断言する。
その言葉には、不思議と説得力があった。
またノエラ自身からも、
穏やかさの中に細くとも強い芯があるような、
どこか魔王にも似た雰囲気を感じる。
従者然とした身なりには似合わない、柔らかな威厳。
不思議には思いつつも彼らは了承。
ノエラの魔法により、医療班のいる本部へ移動する。
その後悠然と進むノエラ。
まるで目の前に何もないかのような堂々とした歩み。
無警戒にも見える動きをするノエラに、
金伯は構わず攻撃を加える。
左手からの稲妻。当たらなかった。
ノエラが消えたからだ。
わずかに紫の光を出した後、文字通り一瞬で。
当然金伯も混乱する。
そして、金伯が周囲を見回すよりも早く、
ノエラは矛に触れた。
気付いた金伯は矛を引き戻す。
だがその時にはもう、矛はノエラの手元にあった。
一切手を放してはいない。
にも関わらず、矛は手を離れた。
理由は分からない。とにかく矛を取り戻す。
ノエラに掴みかかるが、またしても姿が消える。
次の瞬間―
矛が鎧を貫いていた。
「鎧自身の武器でなら鎧を壊せる。」
「一応こっちも使ってみましたけど、
やっぱり重いですね。」
そう言うと矛を捨て、手から別の矛を出した。
魔王の吸収能力により、
金伯の矛をベースにして生成された武器。
オリジナルに比べると小さいが、
ノエラの体にはちょうどいい。
眷属は共通して、ものを格納する能力がある。
蛇石の触手能力の一つ。
彼のように人間を何人も格納することはできないが、
武器を持ち運ぶくらいはできる。
そして、眷属になったノエラは魔法が進化した。
空間転移の移動速度上昇の他、
移動対象の細分化もある。
武器や防具に触れれば、
相手ごとではなくそれらのみを移動させ、
弱体化や無力化も可能。
他にも、魔法の進化により
新たに発現した能力もあるが・・・
(これは、できれば使いたくない。
空間転移はまだしも、これだけは―)
考え事をしていると、白兵卒が群れを成して迫る。
数は約五十。
白兵卒の戦法は、基本的に数で攻めるというもの。
強敵には合体で対処する。
群れが左右に分かれて包囲にかかる。
そして一斉攻撃。
が、当然ノエラには意味を成さない。
ノエラの姿が一瞬で消え、鎧同士で武器を交える。
そしてそのまま、鎧たちは動けなくなった。
原因はノエラ。
矛を地面に突き刺し、そこから電流を流している。
稲妻を操る金伯の矛と、
雷を操る魔王の力、その片鱗。
二つが合わさった結果、
矛を媒介としてなら電気を操れるようになった。
電流で動けなくなった鎧を矛で壊していく。
こうなっては最早作業だ。
斬られ、貫かれた部位が硝子のように砕け散る。
鎧の残骸が積み重なり、小さな山のようになる。
一息ついていると、
背後から何かが走る足音が聞こえる。
振り向くと、誰もいない。
上を見上げ―
キィィィン!
白兵卒。上から剣を振り下ろす。
強烈な一撃。だが何とか防ぐ。
すると、すぐに下がって距離を取る。
動きの鋭さを見るに、
既に十体ほどで合体していると考えられる。
しかも、不意打ち失敗後すぐに離れた所を見るに、
電流攻撃を見たうえで来たのだろう。
そんな鎧が、計五体。
下手に電流に拘ると却って危ない。
となると、剣と矛。
魔法や数の差はあるものの、
ほとんど純粋な武術勝負となる。
「・・・久しぶりですね。」
神妙な顔をするノエラに、五体が同時に斬りかかる。
しかしノエラは消え、空気が一拍止まる。
周囲を見回すと、少し離れた所に彼女の姿が。
走る鎧たち。
だが、今度はノエラの方から鎧へ接近。
空間転移での再出現。
矛を横薙ぎに走らせ、端の鎧の胴を断つ。
金属が軋み、火花が散る。
ある程度鎧が離れた段階での奇襲。
続いて、近くにいた鎧と刃を交える。
打ち合いは三回。
矛の一撃で鎧の右手が砕け、
続けざまに首へと刃が走る。
三体目は跳び、上から剣を振り下ろす。
ノエラは少しだけ跳び、空中で一回転。
勢いそのままで矛を振るい、鎧の脚を破壊した。
四体目、突如としてノエラに抱き付く。
困惑するも、彼女はすぐに意図を理解。
抵抗して立ち位置を変えると、
ノエラを狙って投げられた剣が鎧の脇腹に。
三体目の同士討ちにより、四体目は倒れた。
そして五体目。
これまでの敗北から学んだのか、
少し戦法を変えて襲ってきた。
剣だけでなく、空いた片手でのパンチや掴み、
蹴りまで使う。
荒っぽいが、確かに攻撃は読みにくい。
矛を掴まれ、剣を連続で振るわれた時は危うかった。
が、攻撃は雑になり隙も多くなる。
胴への斬撃等、
致命傷一歩手前の攻撃を何度も受ける。
最後は蹴りを弾かれバランスを崩し、
胸を貫かれて決着。
一度来た道を戻り、
死に体となった三体目にとどめを刺す。
そのタイミングで、銀属と鉢合わせる。
が、ノエラは何も感じなかった。
最もやりやすい相手だからである。
銀属は構え、そして居合を放つ。
そこにノエラの姿はなかった。
空振りで隙だらけになった体を、
後ろから貫かれて戦いは終わる。
「やはり情報は大事ですよね。」
銀属へ話しかけるようにして、言葉を続ける。
「視認できない速度の斬撃。確かに脅威です。」
「ですが、予備動作があることや、
その後どんなタイミングで攻撃が来るのか、
情報があれば対処はできます。」
「教えてくれたのは魔王様。」
言い終わると同時に矛を抜く。
先程の言葉、
半分は自分に言っているようなものだった。
眷属になった者は蛇石と、
もしくは眷属同士で思考の共有ができる。
戦闘時の記憶そのものなど、
言語化できない情報も脳に送ることが出来る。
(魔王様の記憶。
これのおかげで銀属を瞬殺できた。)
(情報を共有しないと、
味方が危機に陥るかもしれない。)
ノエラは考えた。
発現した能力。槍を学んだ経緯。
これらを話せば、自身の過去も説明する必要がある。
黒金の存続に関わる可能性もある。
裏切者。そう思われるかもしれない。
不安はある。
けれど、それを押し隠すように小さく微笑む。
自分のせいで仲間が傷つくことは避けたい。
その気持ちの方が、遥かに強いと分かったからだ。
だから伝える。自分の魔法も、矛の腕も。
それらを手にした理由も。
心を決めたノエラは、
仲間を助けるべく歩みを進めた。




