悪役転生第2話 世界
「では、この城は放棄しないと?」
ネクロスを牢に入れ、
僕とノエラ、ゼインの三人で今後の方針を話した。
襲撃があった以上、すぐにでも次の攻撃が来る。
逃げるべきだと提案はしたが、どうやらそちらは
問題ないらしい。
「はい。ネクロスを尋問した所、この黒金城の
場所を、誰にも伝えていなかったようです。」
「 当人曰く、手柄を独占したかった、と。
それに・・・」
俯くノエラが、躊躇いながらも
悲しい現実を口にした。
「引っ越すような、場所もお金もないですし・・・」
・・・身も蓋もない。
が、黒金城のひび割れを見た時から、
何となく予想はしていた。
財政難の理由は後で聞くとして、
まず習得すべきは世界の知識。
という訳で、ゼインとノエラから、
この世界の常識を学んだ。
まず、僕が今いるのは「ヴァロマ王国」
一応大国の1つだが、都市と地方の格差、
近隣の軍事国家―「元雷」との関係など、
いろいろ問題を抱えている。
次は黒金について。もとは人間を支配しようと、
魔族が設立した悪の組織。
だが魔族が討たれるにつれ、
人間が主導権を握るようになった。
「魔王」という人間らしからぬ称号も、
魔族の名残なのだろう。
そして、そんな悪役たちに対抗するヒーローもいる。
国家英雄、通称―「国英」―
王国の名のもとに悪の組織や盗賊、
魔獣と呼ばれる獣も倒す。
他にも、有事の際は 国防戦力にもなるなど、
正に王国の武力そのもの。
最後は、この世界の特殊能力―「魔法」―について。
この世界の人間は、皆魔力を持っている。
が、魔法を使えるのは一部のみ。
因みに、ゼインとノエラ。両者の魔法は、
「魔力増減」と「空間転移」
ゼインの力でノエラの魔法を極限まで強化し、
異世界転生を可能にしたそうだ。
丁度、説明が終わった頃だった。
コン、コン!
突然ドアがノックされ、血相を変えた男が部屋に
飛び込んできた。
「大変です! グレインにて、仲間が国英に
襲われているとの報告が。」
「何だと!? 分かった。私が行く!」
「待って下さい、ゼイン様。
あなたまだ回復していないでしょ!?」
「そんなことを言ってる場合では―」
「僕も行こう。」
「魔王様。」
「正直、今こうして言い合ってる時間すら惜しい。
すぐにでも動いて、仲間を助けた方が いい。」
「「・・・はい!」」
そうして、ノエラの魔法でグレインへ移動。
が、これが世界の動く一歩目になるとは、
誰一人として知らなかった。
■ グレイン。王国の地方都市の一つ。
そこで目にした光景に、僕は言葉を失った。
それは戦禍で崩れ、瓦礫の散乱する街の姿にでも、
方々に倒れる戦闘員の姿にでもなかった。
一人の女が瓦礫を浮かせ民家にぶつけ、
手持ちの駒を増やすように瓦礫を集めている。
別の男は、なんと黒金だけでなく
民間人の血まで吸っている。
背中には白の翼もあり、 さしずめ、
白い吸血鬼と言ったところか。
どちらも白いローブを身にまとう。
特に、瓦礫を操る女。
ヒルデ・ラブルと言う名の知れた国英。
肌色の髪をなびかせ、
辺り構わず瓦礫の雨を降らせるその姿。
戦闘狂として恐れられているのも分かる。
怒りに顔を歪めたゼインが抜刀。
二人の国英に向かっていく。
「いい加減にしろ、国英共!」
怒りの突撃。
だが、瓦礫の集中砲火で勢いを削がれる。
吸血鬼も空から攻撃。鋭い爪に、翼でも切り付ける。
瓦礫の隙間を縫うような連撃に、
ゼインの体も削られていく。
「魔力増減」は、相手の魔力を下げることも出来る。
が、相手に触れなければ発動しない。
相性の悪さもあるが、やはりゼインの動きも悪い。
パワーやスピードがあるとは言え、正面から行っては瓦礫の雨の餌食になるだけ。
加えて魔力増幅による防御に頼っているせいか、
回避行動すら見せていない。
何より―
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ―」
完全に息が上がっている。
異世界転生を行った直後に戦闘。加えて連戦。
加えて、恐らく 「魔力増減」の魔法自体、
術者への負担も大きいのだろう。
とにかく助けなければ。既に膝もついている。
あれではもう戦いにならない。
とは言え、どうするか・・・
触手を出しかけた手を抑え、僕は思考を巡らせる。
・・・
手数が制限されていることに、
今更ながら歯がゆさを覚える。
まず、あの瓦礫の雨全て、触手で捌くのは不可能。
吸血鬼もいる。飛ばれると、触手を当てるが難し―
「ざまあねえな、悪役! 俺たち英雄に勝てるとでも
思ってんのか? ああ?」
突然の罵声に体が反応する。
話しているのは吸血鬼の方だ。
「英雄、正義が勝って悪は滅びる。
それが世界の常識だろうが!」
・・・正直、よくある台詞だ。
正義を振りかざし、自身の行いを棚上げにする
国英の言葉。
ネクロスと同じだ。無視すればいい。
だが何故だろう。あの国英の言葉に、
僕は妙な既視感を覚えている。
似たような台詞をどこかで―
「力は、正義の下に振りかざしてこそ意味がある。
好きで悪役になる奴の気が知れねえよ!」
【悪役が好きって、本気で言ってんのか?】
閃いたかのように記憶が蘇る。
そうだ、雄斗君だ。
僕はあの国英の言葉を、あの日雄斗君に言われた
言葉と重ねていたんだ。
鮮明に思い出した、かつての嫌な記憶。
そしてもう一つ。僕が悪役を好きになった理由も。




