悪役転生第19話 不向
その日彼は、魔王として何がしたいかを問われた。
「“魔王”か。勘弁してくれ、流石に畏れ多い。」
黒金城での、ノエラとの会話。
金鎧との交戦で雷に打たれたゼインが、
走馬灯のように思い出した過去。
ゼインが黒金を率いるようになった経緯は、
戦乱中の偶然に近かった。
蛇石京が転生する約一年前。
国英の手により、幹部たちが次々に倒されていった。
当時の魔王は、国英最強と名高い
“王弟”アルヴァ―ド・スペリアとの
直接対決に敗れ、討ち取られた。
統率者がいなくなったことで、
黒金の弱体化は決定的となる。
わずかに残っていた幹部も離反。
追随する者も後を絶たず、
あっという間に規模が半減した。
ゼインは真面目な性格で、
上からも下からも評判は良かった。
先代魔王の側近だったノエラの推薦もあって、
魔王代理に就任。
恐れ多い気持ちもあったが、
代理としての役割に自信がないわけではなかった。
もともと戦闘員として戦う傍ら、
戦闘中の構成員への指揮に加え、
経理や資材調達といった、
幹部たちが苦手な裏方業務もやってきたからだ。
私にはできる。そう思っていた。
能力があることと、人の上に立つことは違う。
属人的だった人事評価や財務管理の方法を改め、
組織運営の合理化を進めた。
無駄は減った。だが、人の流出は減らなかった。
人を惹きつけ、導く資質。
私にはカリスマがなかった。
外に対してもそれは同じだった。
魔王や幹部がいなくなったことで、
金銀財宝の換金が一切できなくなった。
幹部たちの横暴が原因とは言え、
買い叩きや脅迫など、
かえって清々するほどの手の平返し。
早い話が“舐められてしまった”。
レオナとは一度敵として対峙したが、
その時にも言われた。
「アンタには向いていない。」と。
今までは自分の全てを否定されたような気がしたが、
ようやくその意味を正しく理解することができた。
私は王にはなれない。
管理はできても、人を導くことはできない。
二度目の「向いてない」を
レオナに言われたときもそうだ。
私は心のどこかで、魔王に、
蛇石京になろうとしていたのかもしれない。
その無理をレオナに見透かされ、
あのように言われたのだろう。
ブゥァァァァァァァン
空気が爆ぜるような轟音で目が覚める。
金鎧のあの攻撃だ。
私は気絶していたのか?
戦いは? 皆は無事なのか?
頭が混乱するなか、起き上がって周囲を見渡す。
レンを含め、さっきまで一緒に戦っていた
仲間の姿は見当たらない。
代わりに、目の前には魔王様とレオナがいて、
あの金鎧と戦っている。
「あ! お目覚めになりましたか、ゼイン様。」
横にはノエラまでいる。
彼女が二人を連れてきたのだろう。
「ノエラ、今はどういう状況なんだ?」
「はい。黒金城から緊急連絡が入ったんです。
鎧軍が現れ、ゼイン様が独断で討伐に向かったと。
それで、私たちは来ました。」
言葉の端々から、ノエラの怒りが滲んでいる。
罪悪感と不甲斐なさで、心と体が重くなる。
「・・・申し訳なかった。」
「何がですか?」
「その・・・ 独断で動いたくせに、
結局皆の手を煩わせてしまったこと―」
「違いますよ。」
きっぱりと否定するノエラ。そのまま言葉を続ける。
「あなたが反省すべきは、
自分自身も、周囲の心配も省みず、
独りよがりの無理をしたことです!」
「もっと周りを見てください!」
ノエラが怒りを爆発させる。
長い付き合いだが、
ここまではっきりと怒られたことは今までなかった。
こうなる前に反省すべきだった。
「後、これはレオナからの伝言です。」
「レオナから?」
「はい。彼女はこう言っていました。」
『ごめんなさい。アンタが現実を見ていないと
思って、傷つけるような言い方をした。』
『これからは私が戦う。黒金は魔王様が導く。
だからもう、一人で無理はしないで。』
意外な人物からの、意外な言葉。
思いがけない優しさに、思わず涙が溢れそうになる。
冷たく当たられていると感じ、
嫌われているとも思っていた。
だが実際は、彼女なりの気遣い、
優しさだったのだろう。
心が温まったことで、温もりが全身に通い、
少しは力が出てきた。
優しさに報いたい所だが、
無理のない範囲でなら何ができるか?
そう考えていると、再びあの轟音が聞こえた。
金鎧が矛を振り切って衝撃波を放ち、
魔王様とレオナを吹き飛ばしていた。
両者とも背中を木に強打し、
相応のダメージを受けているようだ。
すると、金鎧が今度はこちらを向き、
矛を持たぬ左手をかざした。
その手には雷が凝縮され、
次第に光も大きくなっていく。
そして―
稲妻の光線が放たれる。
その光は、一直線にこちらへ向かってくる。
感情のない無慈悲な殺意。
だが、その攻撃が命中することはなかった。
魔王様が防いでくれたからだ。
右手を蛇の頭部に変形させ、
吸収能力で光線を飲み込んでいた。
しかし既に息が荒く、
顔からも少し血の気が引いている。
「あ、ありがとうございます、魔王様。」
「ああ、ゼイン。目を覚ましたんだね。良かった。」
「申し訳ありません。勝手に動いた挙句、
手を煩わせてしまって―」
「そういうのは後だ。今はとにかく協力してくれ。
君がいなければあの鎧は倒せない。」
「いや、流石にそんなことは―」
「あるんだよ。
ノエラの空間転移で負傷者を撤退させるなか、
君だけこの場に残したのは何でだと思う?」
「それは・・・」
「理由は二つ。まず一つは、
君が譫言のように戦う意志を呟いていたこと。」
「君にまだ戦意があったからだ。」
「そして二つ目は、それ。」
そう言うと魔王様は、
自分が握りしめていた剣を指差した。
「それこそが、金鎧を倒す鍵になるんだよ。」
手にしていた剣には、
自分でも不思議に思うほどの魔力が籠められていた。
「・・・これは、私の魔法?」




